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5、空回り

sun3


大森はいつも唐突だ。本人の中では唐突ではないんだろうが…………


あの日もそうだった。初めて登校した日、大森は嬉しさにあまりに浮かれていたのかどこか空回りしていた。


「進藤君、ハンマーカンマーって何だっけ?」

「何の話だよ」


席が近いせいか大森は事あるごとに俺に話しかけて来る。


「そういえば、怪我は大丈夫?」

「まぁ、大丈夫」


事故の事にはあまり触れて欲しくは無かった。しかし、それもきっと大森の思いやりだ。


「本当?肋骨折れたって聞いたんだけど……」

「折れてはない。挫傷」

「ザショウ?……ザショウ………………ザコシショウ!!」


俺の挫傷に連想して、大森の何かが繋がったらしい。


「ハリウッドザコシショウ!!」

「ハリウッドザコシショウ!?」

「あ、じゃあ、誇張し過ぎた化学の柳田先生のモノマネやります!!」


いやいやいや!それは唐突すぎるだろ!


「☆&○$△¥@!!」

「え?は?それ何て言ってんだ?」

「わかんない?☆&$△¥@!!だよ!!」


しかも似てるかどうか全然わからない。


「今日も頑張って行きましょう!だよ?」

「そもそも俺まだ化学の授業出てないから柳田先生知らないし」

「あ!そっか!!完成度高くなって来たから進藤君に見てもらおうと思ったんだけど……じゃ、進藤君も知ってるやつにするね!」


いや……その心遣いはいらない。


「誇張し過ぎた武田鉄矢のモノマネにします!!」


いや……だから…………


「僕は△@☆¥&(死にません)!!」

「くっ!ふふふふ…………!」

「$☆&¥@(貴女が好きだから)!!」


不覚にも笑ってしまった。


「やめろ!笑わせるな!!笑うと脇腹が痛い!!」

「え?片腹痛い?クソっ!まだまだか!!」


いや、そうゆう意味じゃなくて!!


「コマネチ!!」


ドン引きだわ!!好きな女子の全力コマネチ!!


これどうなの?どうすりゃいいの?俺はどう反応すりゃ正解なんだ!?


大森が全力でコマネチをやった後急にスンッと真顔に戻ったから、逆に笑いがこらえられなかった。


笑うと脇腹がマジで痛いのに大森の空回りをずっと見せられる地獄…………思いやりどこへ行った!?


大森は全力でネタをぶちかましてくる天然だ。それが恥ずかしいとか痛いとかモテないとか、そんな事は一切気にしていない。


これが彼女なりの元気づけだと思うと嬉しいかどうか疑問に思えて来る。


うーん…………正直、複雑だ。


だけど………


「私ね、進藤君が笑ってくれるならなんでもやるよ?」

「そのなんでもって……ネタ的な事だよな?」

「え?それ以外もやって欲しいの?」


え………………?いや、それ、どうゆう意味だよ?


「………………」


しばらく二人で顔を見合わせてしまった。


は!!しまった。俺は何を言ってるんだ!?


そのセクハラまがいの一言に何だか急に気まずくなった。この状況……どう誤魔化せばいい?


すると、大森は俺の胸に飛び込んで来て…………


え…………!?


「えーい!こちょこちょ~!」


脇腹をくすぐり始めた。


「ぐはぁっ!うぉっ!ちょっ!いって!脇腹!ギブ!!ギブギブ!!」

「あ…………ごめん。つい…………」


ホント!マジで!マジで痛いからヤメテ!!


誤魔化せたのはいいが、これほど体を張らされるとは思ってもみなかった。いや、別に特にそんなに体張った訳じゃないんだが……なんせ脇腹がマジで痛い!!リアルに怪我だから!!


何故か大森は肩を落として自分の席に帰って行った。そして何故か頭を抱えて落ち込んだ。


そんな大森にどうフォローを入れようかと考えていると、隣の席の男に話しかけられた。


「なあ、俺並木 弘。ヒロって呼んでよ」

「俺は進藤……」

「進藤悠真だろ?」


どうやら俺の名前は有名らしい。それはおそらく悪い意味で。入学式目前で事故に遇った『ツイてない奴』として。


「大森さんとめちゃくちゃ仲良いよな~!もしかして付き合ってんの?」

「付き合ってるように見えるか?」

「全然?」


なら何故訊いて来た!?


「まあ、正直二人でMー1目指してるようにしか見えないけどな~」

「それって、俺も芸人に見えてるって事か?」

「そりゃあ、まぁ…………」


大森とコンビ組んでると思われてたぁああああ!!んな訳あるか!!


「夫婦漫才とか似合うと思うな~!今年学祭でやったらどうかな?」

「やらねぇよ!」


どこが夫婦漫才だよ!


まずい!!このまま大森の空回りを放置していれば、俺のクラスの立ち位置はこうだ。


『横山よりアホな大森』……いや、それは無い。


『黙っていれば可愛い大森』その隣の『影の薄い相方』という所か?


確実に「あれ?あの人何だっけ?もう片方の方!顔は思い出せるんだけど、名前が浮かばない!!」……そうなりかねない。


いや、百歩譲って『名前が浮かばない』は別に構わない。後からクラスに参加した、いわば転校生のような存在だ。自分もクラスメイトの名前を全員覚えるつもりはない。ただ…………


大森の相方!?何だそれ!!そこは喜んでいいのか?悪いのか?


彼氏ではなく相方!?それってつまりは『仲はいいが恋人ではない』そう思われていると言う事か?


その後、その日の放課後の事。大森は何かを言いたそうに俺の前でそわそわしていた。


「あの、その、進藤君…………」

「何だ?」

「わわわわわわ私と…………」


私と?


「わわわわー!クロちゃんです!違う!?え?違う!?」


ああ……大森はクロちゃんじゃないな。


「あの、私と……私と一緒に帰ってくだサイコギネス!!」

「あ、ああ……別に……構わないけど……」


どうした大森!?横山にとりつかれたか?


「ほ、本当に!?」


すると、大森は横山の所へ報告しに行った。


「やったよ~!志帆~!」


どうやら俺の後ろで横山が指示を出していたようだ。なるほど……それでか!


「志帆のアドバイス通り言ったらOKしてもらえたよ~!」

「いやいや全然違うって!指示と全然違うから!」


どんな指示だよ……普通に一緒に帰ろうじゃ俺はOKしないとでも思ったのか?


「ちょっと待ったーーーー!!」


やっぱり……やっぱり来たな!?


「悪いな大森、進藤は俺と帰るんだ。親友の俺と!」


そこへ高橋が来た。


「はぁ?何なの?高橋、あんた後から来て何なわけ?」


俺の代わりに、横山が高橋に反論していた。


「悪い、高橋。今日は…………」

「俺と帰るよな?帰りに家に寄るよな?」

「いや……だから……」


やはりこいつには話が通じない。


俺達が困っていると、突然ゴリラがやって来て無言で高橋を肩に抱えて連れ去って行った。


「あ、おい!何だよ!降ろせ!え?何?柔道部?興味ねーよ!離せ!離せよ!」


高橋がゴリラに拉致られた!


「高橋、柔道部に見学に行くのか!じゃ、俺先に帰るな!」


そう言って高橋を見送った後、俺達は帰り支度を始めた。


「あれ?志帆は?」

「先に帰ったんじゃないか?教室を出て行くのが見えた」


おそらく横山なりに気を利かせてくれたんだろうと思う。


とは思うが…………正直、二人きりは結構気まずい。



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