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4、冷やかし


moon2



ここに来て心底後悔した。


本当に心の底から、やっぱりここには来るんじゃなかった。そう思った。


もう……今すぐ帰りたい!!


彼女は嬉しそうな顔をした。そして私を見た瞬間、とても悲しそうな顔をした。


「私、やっぱり……」


どこがゴリラなの!?薄幸の美少女じゃん!!


案内された病室には、肌が透き通るほど白く整った顔立ちの少女がベッドに座っていた。


「どうした?病気の人を見たのは初めてか?」


栄君は全然気付いてないの?彼女、明らかに悲しそうな顔してたよ?しかも病人を目の前にして病気の人って!!栄君ガサツ!!ガサツゴリラだよ!!


「あ、あの、これ良かったら食べてください」


私はいたたまれなくなって、プリンの箱を置いてすぐに病室の外に出た。すると栄君もついて来た。


「栄君は彼女の隣にいてあげなよ」

「まだ紹介していない」

「紹介とかいいから!!」


ひぃいいいい!!紹介!?重いよ!!ヘビー級のお見舞いだよ!どう紹介すんの!?いいよ!多分、私もあの子も別に紹介されたくないって!


「あの、私もう帰るから」

「もう帰るのか?ここまで来て?」

「いや、だって、女の子だって知らなかったし……(ゴリラだと思ってたし)」


栄君は首を傾げた。


「女だと来なかった?男だったら来たのか?」

「あ、いや、そうゆう事じゃないんだけど……」


私はここに来るべきじゃなかった。バカだった。どこが栄君の助けになる?全然そんな訳ない。


「あの…………」


薄幸の美少女が病室の引き戸を開けた。


「あ、ごめんなさい。すぐに帰りますから」

「いえ、あの、プリン……一緒に食べてもらえませんか?」

「え…………?」


何故か薄幸の美少女にプリンを勧められて、栄君と薄幸の美少女と三人で何故か焼きプリンを食べる事になった。


「せっかく頂いたけど……私1人で食べるには多すぎるし……」


それは、私の差し入れした焼きプリンだった。逆に気を使わせてすみません……。


「せっかくだ。食べてから帰れ」


栄君にそう言われて、やや強引に肩を押されて病室の中に入った。私が立ち尽くしていると、栄君がパイプ椅子を出して来て、ベッドの横に並べ始めた。


私……何やってんだろう?


私はパイプ椅子に座らされ、手には焼きプリンとプラスチックのスプーンが握らされた。


「いただきます」


美少女はベッドに座ると、サラッサラの髪をなびかせて、焼きプリンを嬉しそうに食べていた。


くっ!神々しい!プラスチックのスプーン持たせても絵になるっ!私の持ってる焼きプリンは別物か!?次元が違うのか!?


「どうした?横山?食べないのか?プリンは嫌いか?」

「そんな事ないよ!い、いただきます!」


あの栄君がこんな美少女のお見舞いに1人で来るという事は…………この人、栄君の好きな人じゃないの?でも、あの悲しそうな顔は……まさか逆?逆に栄君が好かれている?


どっちにしろ私って邪魔者?だよね?


バカだ!!私のバカ!!少し考えればわかる事なのに!!いや、もっと詳しく聞くべきだった!


なんで?どうして私は栄君にここに連れて来られたの?


この人を……笑わせるため?


無理だよ!!私素人だし!!


私が焼きプリンにブスブスとスプーンを刺していると、薄幸の美少女は私に名前を訊いて来た。


「あの、お名前……聞いてもいいですか?」

「へ?」


私は思わずスプーンを持ったまま椅子から立ち上がって自己紹介した。


「あ、はい!あの、私、横山志帆です。栄君とは無関係……いえ、無関係って事は無いんだけど、無関係だったらここにいない訳だし……」

「おい、横山?」

「栄君とは……ええと……あ、そう!同じクラス!同じクラスの……知り合い?で、むしろ結構面識薄い感じ?そう、ただのクラスメイトです。無問題です!大丈夫です!」

「何が大丈夫なんだ?」


焦った。何だか、自分と栄君の関係をどう潔白だと説明していいかわからずテンパった。


「横山……志帆さん……」

「ああ、同級生の横山だ」


薄幸の美少女は栄君から横山と聞いて少し微笑んだ。


微笑んだ?


「私、謙ちゃんの従姉の秦野雪穂です」

「謙ちゃん!?」


栄君、従姉のお姉さんに謙ちゃんって呼ばれてるんだ……


謙ちゃんって顔じゃ無いでしょ!むしろゴリラ……


自己紹介もそこそこに、無言でプリンを食べた。すると、雪穂さんのその美しく長い髪にプリンがつきそうでヒヤヒヤした。私はとっさに鞄に入っていたシュシュを差し出した。


「あの、これ、良かったら使ってください」

「え?いいの?」

「これ、私が作ったんです。他にたくさんあるので、もし良かったらずっと使ってください」


私がシュシュを手渡すと「いいの?」と言って雪穂ざをはシュシュで髪を結った。淡いピンクのシュシュが、雪穂さんの白い肌によく映えていた。


「ありがとう」


その笑顔は、とても綺麗だった。


その後、何をどう話をしたのかよく覚えが無い。


ただ、くだらない話をして、プリンを食べて帰った。


雪穂さんは……私の事をどう思っただろう?


私の事を栄君の彼女だと勘違いして、絶望したりしないかな……?私がもし雪穂さんの立場だったら…………いや待て?


栄君と美少女とでは全然釣り合わないし。正に美女と野獣。まさかあの美少女を虜にするとは……私には理解不能な栄君の魅力があったりするのかな?


いやいや。勝手な妄想は止めよう。私にはゴリラにしか見えん。


雪穂さんにとっては…………きっと栄君が必要なんだ。だから、悲しい気持ちを隠して笑ってた。


だからといって、これ以上誤解を解く為にもう一度病室に戻る事はしたくなかった。さすがにこれ以上あの病室にいたいとは思わない。


一度足を止めたけど……全然病室の方に向かなかった。


何だか……私、ただの冷やかしじゃん。


自分って最低だなぁ……


帰り道1人で落ち込んで帰っていると、栄君が後ろから追いかけて来た。


ひぃいいいい!!何かゴリラが寄って来た!


思わず逃げた。


「何故逃げる?」


当然すぐに追い付かれた。


「いや、なんとなく…………」


後ろからゴリラに追いかけられたら誰だって逃げるでしょ?!圧が……野生の圧が……


「横山、どうした?どうして落ち込んでいた?病人を見たのは初めてか?そんなにショックだったか?それは謝る。こんな所に連れて来て申し訳ない」


頭を下げる栄君に、私は思いがけない言葉をかけてしまった。


「…………栄君は最低だよ」


思わずそう言ってしまった。こんな所にホイホイ来た私も最低だけど、連れて来た栄君はもっと最低だ。


「最低だ。それは知っている。だが……どうしても1人で来る勇気がなかった。だから横山を連れて来た」


1人で来る勇気がなかった……?それって、どうゆう意味?


「横山なら嫌とは言わないと思って利用した。最低だとなじってくれて構わない」


はぁ?利用……?そんな風に思ってたの?何それ?信じらんない!どうしてそんなに簡単に開き直れるの?


「…………」

「どうした?どうして黙る? 」


すると、栄君は似合わない深いため息をついた。


「すまない。実は……彼女にもうお見舞いに来て欲しくないと思わせるのが本当の目的だった。あいつに直接もうお見舞いには行けないとは言えなくて…………」


私だったら……こんな事するぐらいなら直接言われた方がマシだよ……。


「栄君はいいかもしれないけど、そのせいで私は彼女に恨まれたかもしれないよね?」

「そんなもの横山には関係ないだろう?」

「はぁ?関係あるよね?」


私は一体何の為にここに来たの?誰かを傷つける為に来たんじゃない。誰かの力になりたくて来たのに!!


その誰かは、今目の前にいる人なのに……


栄君のためにここに来たのに……


雪穂さんのあの笑顔が頭から離れなかった。


どうして笑顔なの?どうして笑えるの?


その笑顔の理由は何?


栄君と微妙な雰囲気でバス乗り場でバスを待っていると、見覚えのある姿を見つけた。


「進藤…………?」


それは、進藤に見えた。進藤らしき人は、私達とは別の路線のバスを降りると病院へ入って行った。


「横山、バス来たぞ?乗らないのか?」

「今そこに……何でもない」


まさか……。進藤がこんな所にいる訳ないか。そう思って、その時は気に止めなかった。



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