21、茶番
SUN11
あの後から、どうやら真理はお兄さんと険悪になってしまったらしい。
学祭当日は、自分のクラスの当番の時以外は真理と一緒にまわる約束をした。
「今日お兄さん来てる?俺、謝りに行くよ」
「今日は瑠璃ちゃんの様子見に行くって言ってた」
「瑠璃ちゃんって?お兄さんの彼女?」
真理は首を横に振って説明した。
「瑠璃ちゃんは梨理ちゃんの妹。梨理ちゃんが生きてる時にはあんまり仲が良く無かったんだけどね、梨理ちゃんがいなくなって、少し……おかしくなっちゃって……」
「………………」
「だから、瑠璃ちゃんが心配でたまに様子を見に行ってるの」
俺は言葉が出なかった。
人を1人失えば、それに関わる多くの人に影響する。そんな事、当たり前だとわかっていたはずだ。それなのに……いざその事実を突きつけられると……
この先、真理と付き合えば嫌というほどその状況を目の当たりにする事になる。
「悠真君?」
「あ…………この前はちゃんと謝る事ができなかったし、今度はしっかり謝って、話を聞いてもらおうと思ってたんだ」
話をして、真理との事を認めてもらおうとも思った。そんな考えは甘いのかもしれない……
「うんん。気にしないで。それに…………多分お兄ちゃんは、謝って欲しいなんて思ってない」
「そっか……」
そうだよな……謝って許される事じゃない。それに、俺は姉貴でもない。
「悠真君……」
真理は気分の落ちた俺を元気づけようと、その顔が突然何故か顎がしゃくれた。
「元気ですかー!?元気があれば何でもできる!」
それって…………振りか!?
「1、2、3、」
「だーーーーーー!!」
また唐突な振りだな!!
「北朝鮮へ行って来ました~」
「もうそれ、似せる気すら無いよな?」
なんだろう……この、強制的にテンションを上げさせられる元気づけ。他に方法はないのか?
「ごめんね。悠真君を凹ませるために話したんじゃないの」
そんな事をしていると、交代時間になった。当番のために二人で教室へ向かった。
時間の少し前に行くと、横山と雪穂という人の目からバチバチ火花が飛んでいた。その後ろには竜と虎が対峙する図が見えた。
「今の見たか?バックに竜と虎が見えたよな?」
「でも、志帆も負けて無かったよね!」
真理は横山に一緒に学祭まわろうと誘っていた。
「いいの?『悠真』と二人きりでまわらなくて」
「え……?悠真とはさっき……」
すると真理は、さっきの自分の猪木を思い出して赤面していた。いや、その反応勘違いされるから!
交代すると、横山は栄に連れられどこかへ行ってしまった。
中で高橋にギャーギャー言ってるあの人はどうするつもりだよ?
しばらくすると、何故か横山が俺を呼びに来た。
教室の外へ出ると、嫌な匂いがした。
あの時と同じだ…………。
それは、あの時と同じむせかえるような花の香り。
「あいつだ…………あいつがいれば……」
「あいつって?」
「花の香りの女」
俺は思わず辺りを探した。
「悠真君落ち着いて、花の香りの女って?」
「姉貴の彼女。もしかしたら、あの人が姉貴に話しかければ、姉貴は目を覚ますかもしれない」
「目を覚ます……?」
姉貴が目を覚ましたら、何かが変わるかもしれない。
「まだそこら辺にいるかもしれない!俺、ちょっと探して来る」
「え?悠真君、当番…………」
俺はゾンビの格好のまま、あの女を探し始めた。
しばらく探しても、あの女どころか、栄達もみつからなかった。教室へ戻ろうとすると、途中で真理に会った。
「もう交代の時間だよ」
「え?もう?」
30分交代は意外とすぐ時間が経つ
「志帆に連絡したら、雪穂さん達帰ったって」
「そうか……」
「あのさ、本当に雪穂さんの親友が悠真君のお姉さんの彼女なの?……ん?彼女?」
真理は今さら混乱していた。
「あ、いや、友達。友達の間違え」
今ここで姉貴がバイだとカミングアウトも違うなと思って、ここは友達という事にしておいた。
「あのね……わかってるんだけど……悠真君はお姉さんのためにその女の人を探してるって事。わかってるんだけど……悠真君が他の女の人を追ってる姿、あんまり見たくなかった」
真理は少し下を向いた。
「めんどくさい私なんかより、もっと付き合うのが楽な女の人の所に……」
「そんな訳無いだろ?」
真理以外の他の女とは少しも思わなかった。だけど、面倒くさいのは事実だ。それを少しでも考えた自分がいて、強くは否定できなかった。
それでも、少し頭に来た。
「私、ずるいの。その人が見つかってお姉さんの目が覚めたら、悠真君の事引き止められないんじゃないかって考えた……それって悠真君の事、事故の事で縛ろうとしてるよね?」
冷静になれ。冷静に……
「不安にさせてごめん。そうゆうつもりじゃなかったんだ……」
冷静に……
「ごめんはもうやめてよ」
「だったら……だったらもう泣くのはやめろよ!」
つい、怒鳴ってしまった。
「俺は真理がいいんだよ!一緒にいるのがどんなに難しくても、めんどくさくても、俺は真理を選んだんだ!楽な道はいくらでもある。でも、そっちを選ばないのはそれでも真理が好きだからだ!」
それは、真理と離れれば楽だ。関わらずに生きる事もできる。親に言えば学校だって変えられる。だけど……真理のいない日常なんて考えられない。
静かな廊下に、学園祭終了の放送が入った。いつの間にか人気が無くなっていた。
「本日は終了の時間です。片付けを始めてください」
「終わりだって。片付けに戻ろう」
ガタガタと遠くで椅子や机を運ぶ音がした。
これでも最大限愛情表現をしているつもりだった。だけど、この想いはどうしたら真理に伝わるんだ?
どうしたら、真理は満たされる?
「その言葉が純粋に受け取れないの。わかってても、どうしていいかわからない」
真理のその言葉に、やっぱりどこか怒りが抑えられない俺は余計な一言を言ってしまった。
「償いのつもりで好きって言ってると思ってる?そう思われてるなら……怒るぞ?」
「もう……怒ってるじゃん……悠真君のバカ~!」
そう言って真理は泣き出してしまった。
気持ちが楽でいられる人がいい。真理はそういう人だ。だけど、たまに気づかされる。真理といるのは楽ではない事に。
「だって、一緒に歩いても手も握ってくれないし……」
「いや、だって付き合ってないのに……」
「付き合ってなかったら手は握ったらいけないの?小学生はみんな犯罪ですか?」
そりゃ小学生と高校生は違うだろ!
でも、手を繋ぐだけで真理が満たされるなら…………
俺は手を差し出した。
「では、片付けに行きましょうか?姫」
「ご一緒してくださります?王子様」
「喜んで」
差し出したその手に、真理はそっと手を置いた。こんなのは茶番だ。
茶番なのに、その茶番に真理は機嫌良く歩いた。だから、俺達はそのまま教室へ向かった。
すると…………
周りの視線が痛い!!微笑ましく思う人、指を指す人、茶化す人、周知プレイか!!
「ゾンビとコンビがついに?ついにか?」
何言ってんだ?ヒロ?途中、ヒロにいじられた。
「手を繋ぐのが悪いか?小学生は皆悪いか?」
「小学生でも人前で手繋ぐか?それ幼稚園児だろ」
「あははははは!」
それを聞いて二人で笑った。
本当に……ただの茶番だ。
その後、真理が少さな声で言った。
「手、繋いでくれてありがとう。これからも、たまに繋いでくれないと……私の事、本気か疑っちゃうな~」
マリンヌよ…………貴方はどSですか?
「志帆~!作戦成功~!」
「良かったね~!」
え…………?作戦?どこまでが作戦?
やっぱり茶番だ。