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20、安い女

moon10



まずい………………手が痛い。


高橋にムカついて、ドアを叩いていたら…………棚に手をぶつけて、手が痛くて痛くてたまらない。保健室で湿布をもらって貼ったけど、それでも痛みが引かない。


病院へ行ったら…………打撲。湿布を取ると、手の甲が真っ青だった。


ちょっと手加減忘れてた。こんな時に右手が使えないなんて!反省しかない。


手作業のできない私は、何の使い物にならなかった。だから、高橋の演技指導に回った。


こうなったら高橋をビシバシしごいてやる!!


私は高橋をより多くの拒絶の声を浴びせられるゾンビにすべく、特訓を重ねた。


そんな日々を過ごしていると、あっという間に学祭当日を迎えた。


それは、高校生活の一大イベントでもあり、私の決戦の時でもあった。


ハブとマングースの対戦か、犬と猿のにらみ合いか、誰が猿だコラ。


「美女と野獣……」

「誰が野獣だコラ」

「横山の事じゃねーよ!栄と雪穂さんだよ!」


高橋が栄君と雪穂さんを見て言った。


「あんたはさっさとスタンバイしなよ!」


高橋を教室に詰めこんでいると、そこに雪穂さんがゾンビの館へやって来た。そして、呼び込みをしていた栄君の目の前で微笑んでいた。


「雪穂、本当に来たのか……」

「何?その嫌そうな顔。謙ちゃんの学園祭だもの、当たり前じゃない」


何?その彼女ヅラ?いや、保護者ヅラ?


私は教室の前に置かれた机で受付をしていた。雪穂さんはこっちに来て私に挨拶をした。


「横山さん、こんにちは。いつも謙ちゃんがお世話になってます」

「どうも。お世話してます」

「うふふふ、お世話してますだなんてやだ~」


なんかムカつく!こっちはあんたのひどい縫い目を毎回縫い直させられてるんですけど?


「ようこそゾンビな館へ。中に入りますか?」

「どうしよかな~?謙ちゃん、一緒に入ってくれる?」

「ああ……別に構わないが?」


中の人と確認をして、多少イラつきつつも受付をした。


「ここは観光化されたゾンビの館です。これはあなたがゾンビではないという証明書です。これは大切なので首から下げてください。これがないと、ゾンビと間違われて殺されてしまう可能性があります。基本的にゾンビは檻の中にいますが、寄って欲しく無い時はこの札を掲げてください。そうすればゾンビを避ける事ができます」


一応、ゾンビの館には設定があって、その説明をする。近づいて欲しく無い人は札を見せさせ、寄らないという暗黙のルールを決めた。


「それでは、行ってらっしゃ~い!」


説明が終わると、雪穂さんはこれみよがしに栄君と腕を組んで教室の中へ入って行った。


二人の後ろ姿を見送りながら、ふと思ってしまった。


雪穂さんは…………あんなに堂々と栄君と腕を組んで歩けるのに、どうして栄君では満たされ無いんだろう?


人より優れた容姿で、退院したからおそらく健康で、両親健在だし、経済的に困っている訳じゃない。他に何が足りないんだろう?


何だか……自分自身に卑屈になりそう。


そんな事を考えていると、真理と進藤が並んで仲が良さそうにやって来た。


「今の見たか?バックに竜と虎が見えたよな?」

「でも志帆、負けて無かったよね!」


それ、何の話?私の後ろに何が見えたって?何?地縛霊?


「もう交代の時間?」

「うん、そろそろ交代だよ~」


私が携帯で時間を見ていると、真理が言った。


「私の時間終わったら志帆、一緒に回ろうよ!」

「え?いいの?『悠真』と二人きりで回らなくて?」


私はわざと進藤を悠真と呼んだ。


「え?悠真君とは……さっき……」


真理は焦って顔を赤くした。こうゆう所が真理の可愛い所だよね~!


「さっき何?さっき何だったの?一体!!」

「違う違う!その反応は勘違いされるから!無いよ!何も無いからな?」


私はジト目で進藤を見た。


「別に普通に一緒に回って来た~でよくね?」


進藤がそう言い訳していると、教室のドアが開いて栄君が1人で出てきた。


「あれ?栄君1人?雪穂さんは?」

「さぁ?俺、一緒に入れとは言われたけど一緒に出ろとは言われて無いから」


それ、普通一緒に入ったら一緒に出ない?


「俺、交代の時間だから。よし、横山行くぞ」

「は?雪穂さんは?」

「知らん。勝手に回るだろ」


このゴリラ、そうゆう所あるよね?冷たいって言うか、自分勝手って言うか……


「横山、俺と回るのは嫌か?」

「別に?嫌な訳じゃないけど?」


ゴリラは私の手を強引に引っ張って先行きへ進んだ。


「どこへ行きたい?何を見たい?」

「え~と、え~と、ちょっと……」


どんどん遠ざかる教室を見て、雪穂さんの事が気になった。仕方なく、悪まで仕方なくだよ?渾身のモノマネをしてみた。


「ちょ、待てよ~!」

「それは……キムタク?」


やっと足が止まった。


「あのさ、雪穂さんの事、また怒らせるとめんどくさいよ?ちゃんと話して来たら?私、ここら辺で待ってるから」


すると、栄君はまた強引に私の腕を引いた。


「イヤ、だから……」


今度は少し立ち止まると、栄君はこっちを見ずに言った。


「この先……きっとこんな風に強引になる。でも、俺にはこの方法しか思い付かない。多少強引でなければ、本当に望むものは手に入らない」

「本当に望むものって?」

「お前」


どうしてなんだろう?


どうして私は、栄君のその一言で満たされてしまうんだろう?


栄君に求められている。そして、私自身が求めている。それだけで、十分だった。


「私ってきっと……安い女なんだな~」

「は?何を言っている?俺にとっては安くない。人の価値は人それぞれだ」

「いや、そうゆう意味じゃなくて……」


私はチョロインって事だよ。


「お前は全然安くならないな。少しは安くなればいいんだが……」

「私20%offとかじゃないから!値切らないで!こちら、お求め易い価格となっております。是非、お手にとってご覧下さい。私に私のセールスさせないで」

「勝手にやっといてそれは無いだろ?」


くそっ!こんな、クソゴリラに惚れるなんて!


だから、私はこのゴリラにめっぽう弱い。


惚れたら負けってこの事かな?


「ほら、行くぞ?」


私はとっさに首に下げていた、ゾンビ避けの札を掲げた。そこには『Don't touch me』と書かれていた。


「俺はゾンビじゃない」

「これゴリラにも有効かと思って」

「ゾンビとゴリラを一緒にするな」


私と栄君がそんな事を話していると、ふんわりセミロングの女の人が教室を訪ねて来た。


「あの、1年A組はどっちに行けばいいですか?」

「え?誰かの知り合いですか?私達、1年A組です。案内しましょうか?」

「え、でも悪いわ。向かっている方向と逆だし」


その女の人はいい匂いがした。きっと香水の匂いだ。花の香りのするいい匂いだった。


「ちょうど戻ろうと思ってた所ですから」


そう言って、女の人を教室まで案内すると…………


「夏乃……!」

「雪穂!久しぶり!」

「どうしてここに?」


雪穂さんの知り合い?雪穂さんは嬉しそうにその女の人と話をしていた。それはとても、親しそうに。


「あれが夏乃さん?」

「何?栄君知り合いだったの?」

「雪穂の消息不明の親友だ」


雪穂さんの…………親友?それって、久しぶりの再会って事?それなら雪穂さんも嬉しいだろうね~。


「友達の弟の学校がここだって聞いてたから」

「その友達は?」

「事故で……まだ意識が戻らないの」


え……?事故って言ったら…………


それって……進藤のお姉さんの事?


私は進藤の関係者なのかと思って、教室の中の進藤を一応呼んだ。


だけど、進藤と教室の外に出た時には、もう雪穂さんとその親友の姿はそこには無かった。


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