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2、相談


moon 1


私はその笑顔の理由を知っている。


それはきっと、やっと好きな人に会えたから。


真理があんなに嬉しそうな顔をしてる。やっぱり進藤の事が本当に好きなんだなぁ。


私は教室の自分の席で教科書を読むふりをしてその様子を見守った。


親友の真理はその日、学校に一番に登校したみたい。何度も何度も廊下を確認して、落ち着かない様子で誰かを待っていた。


それは、確実にあいつ。


同じ中学だった進藤 悠真。真理は中学の時からこいつが気に入っていて、こいつと同じという理由でこの高校を選んだ。


しかし春休みに進藤の乗った車が事故に遭い、怪我のため今まで入院していたらしい。


長い間お見舞いに行くかどうかで何度も真理に相談された。でも結局お見舞いは断られたみたいだけど……


その後新学期に入り真理は珍しく授業のノートを熱心に書き取り始めた。それはこのためだったらしい。


人は恋をすると変になるって言うけど、確かに真理は最近変だった。


「進藤君!おはよう!」


そんな事を考えていると、どうやら真理のお目当ての彼が登校して来た。


真理は進藤が来てもの凄く嬉しそうだった。それは端から見てもわかるぐらい、とても。


だから当然というか必然?今日は珍しく1人で帰る事になった。


まぁ、仕方がないよね。ここは空気を読んで二人きりにしてあげよう。それがデキる親友の心遣いだよね。


あーあ、真理に彼氏ができたら寂しいなぁ……私も彼氏作ろうかなぁ……いや、そんな事よりお姉ちゃんにバイトのシフト増やしてもらおう。


そんな事をぼんやり考えながら下駄箱で靴を出していると、突然後ろから話しかけられた。


「横山、ちょっといいか?」


後ろにいたのは、巨大なゴリラ!?ゴリラが喋った!?


かと思ったら…………同じクラスの栄君だった。確か……栄?謙太郎?だっけ?


栄君の自己紹介のインパクトは絶大だった。内容は全然覚えていないけど、大きな体に新入生とは到底思えないその老け顔、シルバーバックにボスとしての堂々たる振る舞い、群れを見守る鋭くどこか優しい目……ってこれ途中から完全にゴリラの説明じゃん!!


「横山?」

「ん?何?」


私は平然を装い答えた。振り向くとそこにはやっぱりゴリラが……いや、人間。栄君人間だから。でもほぼゴリラ……


すると、ほぼゴリラは私に意外な言葉をかけた。


「その笑顔の理由を教えてくれないか?」

「はぁ?」


思わず間抜けな声を出してしまった。


「何が面白いのか聞かせてもらえないか?」


えーと、それ、何の相談?


「何がって言われても…………」


あれ?もしかして私、バカにされてる?何も面白い事はないのに何がそんなに面白くて笑っているのか?ってそうゆう意味?


私が答えに困っていると、栄君はさらに意見を求めて来た。


「自分には他人を笑わせる事ができない。どうしたら人を笑わせられる?」

「あのさ、栄君私の事何だと思ってるの?私お笑い芸人とかじゃないんだけど?人を笑わせたいならNSCとかに通いなよ」

「いや、そうゆう事じゃないんだ」


いやわかるよ!そりゃそうだよ。そんな事私だってわかるよ!ユーモアとかノリとかそうゆんでしょ?まずはその仏頂面やめなよ!


私なんかより、よっぽど栄君の方が笑えると思うんだけど……いや、そんな事は口が裂けても言えない!そんな事をうっかり言ってしまったら……きっとその握力で頭をリンゴのように握り潰されてしまう。


「しかもそれ、どうして私に聞くの?」

「それは………教室で一番笑い声を聞くから」


私ってそんなに教室で笑ってた?そりゃあ、笑い声がデカイとはたまに言われるけど……。


でも、他人に教えるなんて私には無理。よし、断ろう!


勇気を出して栄君の方を見てみると、その顔は何だかとっても真剣だった。ゴリラの真顔…………


ヤバいっ……笑いそう……!!いや、ダメだ!耐えろ私!耐えるんだ!!顔で笑ったら失礼だ!!


栄君はとてもとても、それはとても真剣な顔をしていた。それが逆に笑えるし、何だか怖い。


その真顔でその笑い声の理由を説明しろって……そんなの無茶な話じゃない!?


栄君の話を詳しく聞くと、どうやら知り合いのゴリラが病院に入院していて、笑うと自然治癒力が高まると聞いて、どうにかそのゴリラを笑わせたいらしい。え?ゴリラの知り合いがゴリラとは限らない?そんなの知ったこっちゃないよ!


「頼む!!今度、俺と一緒に病院へ行ってくれないか?」

「え?は?病院?」


栄君はその大きな体で勢いよく頭を下げた。


「無理は承知だ!そこをなんとか!」

「いや、ちょっと、頭上げてよ」


すると、その大きな体で勢いよく頭を上げた。


圧が…………圧が凄い。野生の圧が…………


「それって……一緒にお見舞いに行って欲しいって事?」

「まぁ、そういう事になる」


ここはどう断ればいいのかな?野生の圧に押されて全然頭が回らない。


「明後日金曜の放課後は暇か?」

「あ、金曜はバイト……」

「なるほど、横山はバイトをしているのか」


そっか!バイトが忙しいって言って断ればいいんだ!


「あ、うん、お姉ちゃん夫妻がカフェやっててそこの手伝い。先生にバイト許可の申請してないから、一応この事はオフレコで」

「じゃあ土日、土曜は?」


まぁ、今度の土曜は奇跡的にバイトが入ってないんだけど…………


「それは、その、暇って言うか……」

「予定がないなら、土曜に10時に駅前に来てくれ」

「え?は?ちょ、ちょっと待って!」


そう用件を言い終わると、栄君はすぐにその大きな背中を見せて去って行った。


え?行かなかったらどうするの?どうなるの?ねぇ?


誰かに相談したい!!真っ先に思い付いたのが真理だった。でも、よりによって今日の真理の放課後は『愛しの進藤君』と帰るはずだし……


うわぁあああ!!なんて災難な日なの!?


なんて日だ!!これが言いたかった!!


親友を応援したい気持ちと、優先して欲しい気持ちが葛藤している!!


「うわーーー!!真理ーーーー!!」


私が下駄箱に頭を突っ込んだり扉を開けたり閉めたりして葛藤していると、また後ろから声をかけられた。


「志帆…………何してんの?」


我に帰って後ろを見ると…………真理!!リアル真理!!


後ろには真理と進藤がいた。


「真理~!!聞いてよ!」

「あ、俺先に帰る…………」

「帰るな!進藤も聞いてけ!!」


私は半ば強引に進藤を引き止め、三人で帰る事になった。


真理にボスゴリラ……いや、栄君に言われた事を話すと、二人はこう言った。


「栄君、日本語話せたんだ~!」


いや、新学期に自己紹介してたでしょ!?


「二人とも栄君の事何だと思ってんの?」

「野獣?」

「あれは帰国子女だろ?」


進藤はともかく真理は知ってるよね?


「ジャングルからの帰国子女だろ?」

「そんなわけあるか!」


思わず進藤に突っ込んでしまった。


「でも私、栄君が喋ってるの聞いた事無いんだもん。信じられないよ」

「いや、あれは多分喋ってるな」

「え?誰と?」


確かに、栄君が誰かと話をしている所は見た事が無い。あるのは…………


そう、筋トレをしている所だけ。


「筋肉と。あれは多分、自分の筋肉と話をしてるんじゃないか?」

「筋肉…………なるほど~!」


真理、そこ納得すんのかい!!


何故自分の筋肉と話す人と一緒に知らないゴリラのお見舞いへ行く事になっちゃったんだろう……。


「私って……そんなにアホに見える?」

「…………」


二人は黙ってそれぞれ私から目を背けた。


「いや、そこは二人で黙らないでよ!」


どうやら私は周りにアホに見えていたらしい。それなら栄君に選ばれたのも納得がいく。


クラスで一番アホに…………アホに…………


アホに見えてたぁああああああ!!ゴリラにまでアホに見られてたぁああああああ!!


「あ、私トイレに寄っていい?」

「いいけど?」


すると真理がトイレに行った。真理を待つ間はしばらく進藤と二人きりだった。気まずい…………何か喋らなきゃ。何か……何かテキトーな事……いや、ここは真理の事。真理の想いをそれとなく伝えよう。


進藤に真理にとって進藤が無事で本当に良かったという内容の話をした。


それなのに…………


『俺は…………生きてて良かった?』


そこ、何故疑問符?


普通、生きてて良かったって言われたら「ありがとう」とか「嬉しい」とかじゃないの?


どうして微妙な顔してそんな事言うんだろう?


私は、その進藤の様子が何だか少し気になった。


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