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19、ちょっとだけ

SUN10



今日はまたやけに機嫌の悪い横山が、高橋に言った。


「はい、ダメ!最初やり直し!」

「何で俺だけ!?何で俺だけ演技指導あり?」


高橋はゾンビの姿にされ、横山の厳しい演技指導が入った。俺達のクラスの出し物は、ゾンビの館をやる事になった。そんなこんなで、いよいよ学祭まで1週間を切った。


「これは『高橋をぶっとばす党』の活動なの。必要なの」

「何だよその俺をぶっとばす党って……」


横山は栄と備品倉庫に閉じ込められてからというもの『高橋をぶっとばす』を公言していた。その『ぶっとばす』には様々な意味や理由があるようだ。


「だって、女子にキャーキャー言われたいんでしょ?だったら練習しなよ!」

「いや、そうゆう意味じゃねーよ!そうゆう意味のキャーキャーじゃねーよ!」


しかし、何故に俺まで…………


「あはははははは!確かに高橋君にその格好で来られたら、確実に拒絶の絶叫だよね~!」


大森はそう言いながら俺に包帯を巻いていた。


「いや、何故に包帯!?ゾンビから包帯男になってるんですけど!?」

「だって、こんなに血まみれだと……進藤君が痛そうで……」

「大森…………」


おい何だその理由!可愛いな!


そんな大森に心をときめかせていると、横山に突っ込まれた。


「はいはい、そこイチャつくな!進藤もキャーキャー言われろ!」


え?俺も?それ完全に巻き込み事故だろ?それなのに、高橋はやっぱり高橋だった。


「進藤がキャーキャー言われたなら、親友としての俺のプロデュース力の賜物だな!」

「俺はお前にいつプロデュースされた?」


ふと、大森の方を見ると……大森は何故かショックを受けていた。え?何故?


「進藤君、女子からキャーキャー言われたいの?!」

「え?まぁ……」


すると大森は、ホラー映画バリの絶叫をした。


「ぎぃやぁあああああ!!」

「いや、それ確実拒絶の方だよね?違うから。そっちの絶叫じゃないから」

「えぇええええ!!そっちじゃないの!?」


それはまぁ、普通そっちとは思わないと思うが……


「でもでもでもでも、進藤君が女子からキャーキャー言われたら、ライバル多くなっちゃって……私なんか……」


おい何だそのネガティブ!可愛いな!


やっぱりそんな大森に心をときめかせていると、やっぱり横山に突っ込まれた。


「だから、いちいちイチャつくなって」

「イチャついてねーよ!」


こんなのイチャつくに入らねーだろ!誰のせいで……いや、でも、決して横山が悪いわけではないんだが……


『友達以上恋人未満』大森とそう決めてから、横山のお姉さんにこう言われた。


『友達以上恋人未満の時間を楽しんでね』


楽しむ?楽しむなんてものは、余裕がある人ができる事ですよね?俺に余裕なんか全然ない。


この前だって……放課後大森と一緒に帰っている時……


「あの……進藤君の事、名前で呼んでもいいかな?」

「…………」

「え?……ダメ?」


あまりの嬉しさに絶句した。


「いいよ、その代わり…………真理って呼んでもいいか?」

「うん。真理って呼んで。悠真……君」


俺の名前を呼ぶ大森は……真理は、こっちが恥ずかしくなるくらい赤面していた。


真理……


そう俺が呼ぼうとした瞬間、後ろから呼ぶ声がした。


「真理~!」


振り向くと、大学生の男が真理を呼んでいた。


誰だ?


「進藤君、行こう。無視しよう。あれは無視して歩こう」

「いやいや、さっき思いっきり振り返ったから。あれ、誰?」


まさか、彼氏とか言わないよな?せめてお兄さんとか言われたら納得なんだけど…………


その男はどこか大森に似ていた。


大森と耳打ちしていると、俺は肩を掴まれてその男に捕まった。


「おい、普通にさっき聞こえてたよね?真理?」

「いや、俺は真理じゃないです。真理はこっち……」

「あ!間違えた!つい……」


つい?つい俺と大森間違える?


大森は大きなため息をついて、その男を紹介してくれた。


「お兄ちゃんなの」


やっぱり。


「兄の隆人で~す。ヨロチクビ~!」


何だか明るい人だなぁ……その時は、ただ漠然とそう思っていた。


「同じクラスの進藤 悠真です」

「お~!悠真!何?真理の彼氏?」


俺は首を横に振るしかなかった。


「まだ?まだな感じ~?いいな~!初々しいな~!そんな君にはじゃあ、これ」


大森のお兄さんは俺の手に何かを握らせてきた。


え?ちょっ……これ…………ゴムじゃ…………!?


「ちょっと!隆人!バカ!バカ隆人!!」

「いや、これはお前の安全を守る為に……」


これ、守ってる?安全守ってんの?もっと守るべきモラルがあるのでは?


「少年はゴムを手に入れた。それはまだまだ使えそうに無い」

「RPG風に言ってもダメ!誤魔化されない!」

「え?ダメ?最大限ポップな感じになってない?」


なってない、なってない。


「進藤君ごめんね!兄なのに本当にバカでごめんね……だから嫌だったの!紹介するの本当に嫌だったの!」


大森の兄貴ってこんな感じか……


「いや、明るくていいお兄さんだね」

「悠真~!俺、嬉しいよ!俺達、半年前に知り合いを亡くして落ち込んでたから、なんか元気出た!」

「それってもしかして『リリ』って人じゃ…………」


俺がそう言うと、一瞬空気が止まったかのようだった。


「あれ?真理、梨理ちゃんの事まで話したんだ」

「いえ……違います……」


俺が説明に迷っていると、大森は大きな声で俺を呼んだ。


「進藤君!もう行こう!」


そして、強引に俺の腕を引いて先へ行こうとした。


「進藤……?いや、まさかな?違うよな?真理?」


大森は俺の腕にしがみつき、震えていた。


その時、やっと気がついた。


俺を家族に紹介できない大森の気持ち。


大森は俺に兄を紹介したくなかった訳じゃない。俺を兄に紹介できなかったんだ。


隠したかったんだ……俺が進藤 結子の弟である事を。


俺は大森の手に、そっと手を添えて言った。


「本当の事を言うよ。いずれわかる事だし。きっと、お兄さんもわかってくれるよ」


大森は泣きそうな顔で首を横に振っていた。


大森の兄がわかってくれるなんて確証はどこにもない。だけど…………


大森1人に迷わせ苦しめるわけにはいかない。それならいっそ、俺が殴られた方がマシだ。


俺は覚悟した。


「俺、進藤 結子の弟なんです」


大森のお兄さんは困惑して、考えて、また訊いて来た。


「え…………マジ?」

「マジです…………」


すると、手を出して言った。


「返せ。さっきの」

「さっきのって……これですか?」


俺は持ちっぱなしだったゴムを、出された手に渡した。すると、手のひらを反したように態度が変わった。


「これはお前には渡せない。真理から離れろ。今後一切真理に関わるな。帰るぞ真理」

「帰らない!隆人とは帰らない!私は進藤君と帰ってるの」

「ふざけんな真理!こいつの姉貴のせいで瑠璃が今どうなってるかわかってんのか?」


瑠璃…………?


「わかってる!わかってるよ!でも、進藤君は関係無い!関係無いんだもん!進藤君行こう!」


大森は俺の腕にしがみつきながら、一度も後ろを振り返らず早足でその場を離れた。


「待て!待てって真理!」


お兄さんの言葉から逃げるように足早に歩いた。


「大森、大丈夫か?大森?」


そう声をかけても、しがみつき続けた。


「歩くなら腕にしがみつくより、手を繋がないか?」

「え?あ、ごめん……」


大森は我に返って、慌てて俺の腕を離した。


「ごめんね……私……」


そう言って大森はその目から涙を溢した。


「大森が謝る事じゃない。謝るのは俺の方。ごめん」

「今度は胸貸してくれないの?」

「いくらでも。気が利かなくてごめん」


俺がそう言うと、大森は俺の胸に頭をつけて泣いた。


「ちょっとだけ……ちょっとだけこうしててね…………」

「じゃあちょっとだけ。大森の気の済む、ちょっとだけだけ……」


ちょっとだけだけって何だよ?


ちょっとだけなんだよな……俺が、大森にしてやれる事。今はまだちょっとだけ。


友達よりちょっとだけ恋人に近いだけ。




「ちょっとだけよ~」


高橋の声に我に返った。


教室では高橋のストリップショーになっていた。


いや、待て待て待て待て!!いつの間にそんな演出になったんだ!?どっから持って来た?その布!


しかも、ちょっとどころかだいぶ見えてるぞ?体操着!さらにその下の高橋の腹!汚っねぇ脛毛!全部見えてる!!


「あはははははは!なんか体操着見えるだけで笑えるね~!」


大森は高橋を見て笑っていた。


「真理…………」

「……え?…………」

「俺、真理の隣でずっと、その笑顔の理由が知りたい」


そう言うと、真理はくすぐったそうに笑った。


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