17、告白
SUN9
人間は基本的にフェアじゃない。姿形が違えば、環境も違う。生まれた時から当たり前に不平等だ。
その不平等な二人が対等になんかなれるのか?
アンフェア同士がお互いフェアだと思い、愛し合う事は可能なんだろうか?ふと、そんな事を考えてしまった。
夏休みは結局花火もプールも、横山の手前大森を誘う事はできなかった。それは嘘で、それを言い訳に誘う勇気が無かった。
それでも、姿が見たくなって…………
横山のお姉さんのカフェへ行くと、やっぱり大森はいなかった。
大森も、横山もいない。その代わり、栄がいた。
「まだ告白していないのか?」
どの口がそれを言う!?誰のせいで大森が……もとい、横山がカフェに来られなくなったと思ってんだよ!
と、口の先ギリギリまで出かかった。
「ここにいたのか悠真!」
「うわっ高橋!?」
何故高橋がここに!?さっきまいたはず…………
「お前すぐいなくなるんだよな~」
高橋は何の躊躇もなく俺の隣の席に座った。
「あら、高橋君久しぶり~!」
「え?お前来た事あったのか?」
「おお!あるけど?前に大森を探しにな~!」
え……?高橋は大森の居場所を知ってた?栄も?知らないの俺だけ?俺だけ知らなかった?
しかし、まずい……ここまで高橋に居つかれては、大森と二人きりのチャンスは更に減ってしまう。
やっぱりもう……メールで告白……
いや、できれば直接顔を見て言いたい。大森の反応が見たい。大森が笑顔で「進藤君」と呼び掛ける声が聞きたい。
聞きたい……聞きたい……あーーーー聞きたい!!
「ちょっと悠真~?俺というものがありながら他の男と恋話とは何事なの~?どんだけ~?背負い投げ~!」
最近高橋がちょいちょいぶっこんで来る小ネタ、どうにかならないものか?…………うぜぇ!!
「はぁ?お前は俺の彼女か?」
「彼女ではない!親友だ!!」
彼女ヅラすんな!さらに親友ヅラもすんな!どっちもすんな!!もう何もすんな!!
「中学卒業の時はシゲって呼んでくれていたのに、なんで高橋に戻った?なぁ?」
「それは…………」
「俺をシゲと呼んでくれ!!」
「え……高橋でよくね?」
俺が高橋に詰め寄られていると、栄が口を開いた。
「わかっている。横山と大森がここへ来なくなったのは俺のせいだ…………お姉さん、ご迷惑をおかけしてすみません」
栄は横山のお姉さんに頭を下げていた。頭を下げる相手が違うんじゃないか?
「ヒロが言ってたぞ?柔道部のジンクス」
たまたま本屋でヒロに会い、柔道部の話を聞いた。
確かにあんな事があって、栄のあの態度は…………
「ジンクスなんてものは、賭けを正当化するための口実だ。ジンクスがあると言えば、賭けに使われた側からしてみれば悪い気はしないだろう?」
「で、あわよくば付き合う~?みたいな流れだろ?」
「そんなものに左右されて人を選ぶのか?そんなのは選んでいないのと同じだ。そんなの、誰と付き合っても同じだ」
それがきっかけで付き合う人がいて、それからジンクスが生まれたんじゃないのか?実際に実例がなければ、そもそもそんなものは生まれない。
「じゃあ、それって傘を貸した人はそれなりに気がある子って事だよね?」
俺達の話を聞いていた横山のお姉さんが、珍しく口を挟んだ。
「あ、ごめんなさい。その話だと、志帆にもまだ望みがあるのかな~?って思っちゃって…………」
「それは……」
確かに、栄は選んで無いと言っていたけど、傘を貸した時点で横山を選んでいるんじゃないか?
栄は困った顔をして、少し下を向いた。
「横山に伝えてください。俺はもうここへは来ない。だからバイトに出るようにと」
「それはできないかな。だって、バイトが減るよりお客さんが減る方が困るもの」
「確かに……」
すると、カフェのドアの開く音がした。新しいお客だろうか?
「それに、バイトの代わりはちゃんといるし」
「こんにちは~!」
そこに、大森が入って来た。大森!?
「急にごめんね~午後の混む時間帯どうしても人が足りなくて」
「いえ、私で良ければ」
高橋は「大森ー!」と指を指すと、とんでもない事を言い出した。
「悠真!ずっと探してた大森だぞ!」
「え?探してた?」
「やめろバカ言うな!」
そう、なんとか高橋無しで会おうと何度かアポを取ったりしてみたものの…………何度も高橋にバレて常に三人だった。ここに来るのは、高橋からしたら当然の事だったらしい。
「告白するんだろ?ほら……」
「いや、それは…………」
「大森の事が好きじゃないのか?」
高橋にそう煽られてつい、言ってしまった。
「好きだよ!好きに決まってるだろ?!大森が好き…………好きなんだけど…………いや、大森、これは……その……」
結局こんなグダグダな告白になってしまった……。
嘘だろぉおおおおおお!!
なんて不甲斐ない告白……。あんなに大事に二人きりでと思っていたのに、高橋どころか、栄もお姉さんも、他のお客さんまでいる。
大森は動揺しつつ両手で口を隠して、どうしていいかわからず困惑していた。
そして、出した答えはこうだった。
「あの……ごめん……なさい」
「え………………?」
「えぇえええええええ!!」
俺が呆然としていると、大森が慌てて言った。
「あの、進藤君が嫌いとか、そうゆうんじゃないの!でも、今はまだ…………志帆が…………」
それでも人は、フェアを求める。
「もう少しなるべく側にいてあげたいし……」
自分だけが幸せなのは、気が引ける。それは当然の事だ。
「…………わかった」
納得はいかなくても、わかったと言うしかなかった。
それを聞いていた横山のお姉さんが言った。
「それは違うよ真理ちゃん!志帆の事は気にしないで、自分がまず幸せになっていいんだよ?」
「でも…………」
横山のお姉さんは大森を説得してくれた。それでも大森は首を横に振った。
これ以上大森を困らせてどうする?
「いいよ、返事はいつでもいいから。大森の気の済むまで待つよ」
とりあえず、返事は保留という事でその場を収めた。
大森が恋人未満でいたいなら、俺もその場所に留まるしかない。それがフェアな立ち位置なら…………
大森と同じ所にいたい。
栄が申し訳なさそうに「すまない」と言っていた。
「いやだから、それは俺やお姉さんにじゃなくて、他に言う相手がいるだろ?」
「横山か……?横山にはもう会う資格などない」
は?
「資格とかそうゆう問題じゃないだろ?」
「謝っても済む問題でもないだろ?」
「それは……そう……だけど……」
横山のお姉さんはトレーを抱えながら栄に言った。
「これは志帆自身が乗り越えなきゃいけない事。志帆に望みが全く無いなら……やっぱり栄君はここへは来ない方がいいかもしれないね。さっきはいいっていったのに、ごめんなさいね」
栄は黙って頷くと、店を出た。
栄は店を出る前にレジ横にあった、てるてる坊主を見てこんな事を訊いていた。
「このストラップは売り物ですか?」
「売り物じゃないけど……もしよかったら、いる?梅雨の時期が終わったから捨てようと思ってんだけど……」
「じゃあ……ください」
そう言って栄は鞄に、もらったてるてる坊主をつけた。ゴリラの鞄にファンシーてるてる坊主……違和感しかない。
それから大森のエプロン姿を見て、少し雑談をした。
それでも、大森に想いが伝えられて
少し幸せな気持ちになって帰った。