13、嫉妬じゃない
SUN7
その日、横山はやけにイラついた。
「あんまり罪悪感を真理に押しつけないであげてよね?」
は?押しつけた覚えは無いが?
横山の考えでは、大森はおそらく鳥を絞めて自分もその罪悪感で俺と同じ気持ちになろう。と考えたのではないか。と言っていた。
大森は俺と同じになろうと、いつももがいている気がする。俺に近づこうと必死なんだ。その想いは、痛いほど伝わって来る。
だから、俺には大森の気持ちは十分伝わっていて、安心していた部分がある。
でも、俺の気持ちは?ちゃんと伝わっているのか?ふと、そんな風に感じた。
それは、まさか自分が大森が他の男と笑っている姿を見て、こんなにも複雑な気持ちになるとは思っていなかったからだ。
最近休み時間になるとやって来るあの男は誰だ?
周りも思う事は同じようで、隣のヒロが俺に訊いてきた。
「なぁ、あれ、誰?」
「知らん」
「知らない!?知らない男!?大森さんに、進藤の知らない男!?」
クラスが少し騒然とした……気がした。
俺は少し大森の方を見ながら、机に伏していた。
すると、次々にクラスメイトが俺の前にやって来た。
「進藤、あれ、B組の大川」
「多分同じ生物部」
「進藤君、頑張って!!」
頑張って!って何をだよ!?
そう思って頭をあげると……
周りが口々に言った。
「嫉妬!?」
「嫉妬?」
「嫉妬!?」
いや、断じて嫉妬ではない。同じ生物部の男と話していたぐらいで……嫉妬なんか……
「嫉妬か?進藤?」
高橋がそう言った瞬間、俺は立ち上がった。
「高橋ぃいいいいいいいい!!」
周りが口々に言った。
「嫉妬!!」
「嫉妬か!」
「嫉妬だ!」
だから嫉妬じゃねーし!!
「お前、よく俺の前に顔が出せたな?」
「いや、あれはお前を思えばこその……俺はてっきり大森が進藤の罪悪感につけこんで無理やり付き合う事になると思って心配だったんだよ」
大森が俺の罪悪感につけこむ?そんな訳…………
今、横山に言われた言葉の意味に気がついた。
罪悪感を押しつけているのは俺?罪悪感で大森を縛っているのは…………俺の方?
いや、そんな事は無い。俺が本当に罪悪感で苦しんでるなら、大森から離れているはずだ。大森から……離れて……
大森が生物部の奴と親しげにしていて……俺、嫉妬したか?してないんじゃないか?
もし、あいつといるのが大森の幸せだとしたら?
「まぁ、進藤がそこまで大森に本気って言うなら?諦めて協力してやらないでも無いけどな。親友として!」
「いい!いらん!お前の協力だけは絶対にいらない!」
「水くさい事言うなよ~俺とお前の仲だろ?」
俺は廊下のロッカーに教科書を取りに行くついでに、悪までついでに、二人の話を聞きに行く事にした。
「お、やっぱり『俺の女に手を出すな』そう一言言ってやらなきゃ気が済まないか?」
「うるさい高橋。誰もそんな事言う訳がないだろ」
そんなバカな事言うバカがどこにいる?
俺はただ……その笑顔の理由が、俺じゃなくても……
そう思って廊下に出ようとすると、突然高橋が先に二人の所へ行き「用が済んだなら早く自分の教室に戻れよ」と言った。
って高橋ぃいいいい!!
いたよ!バカがここにいたよ!!
「あ、ああ……。じゃあ、また放課後!」
「うん、またね!」
すると、高橋にそう言われた大川は、すぐに大森の前から姿を消した。
「大森、お前進藤というものがありながら、別の男にうつつを抜かすとは何事だ?けしからん奴だな」
「待て待て待て待て高橋!」
「高橋君、久しぶり。二人とも、仲直りしたんだ!」
してない!仲直りとか何だ?こいつ謝りもしないバカだぞ?
いや、俺も同じだ。ただ機械のように『ごめん』を繰り返しただけ…………
どうすればいい?どう大森と話せばいい?でも、これが大森を縛る事につながるなら…………
あーーーー!!もう、頭が痛い!
「進藤、まぁ気にするな。俺が欲しいのは『ごめん』じゃない。ありがとうだ」
「はぁ?!」
高橋の言葉に、思わず大森と声がハモってしまった。
さらに頭が痛い……。こいつ、全然悪気が無い。
腹が立つけど…………腹が立つけど…………結局呆れる。呆れてどーでもよくなる。
「俺、お前の頭の作りが少し羨ましく感じるわ……」
「ええっ進藤君高橋君みたいになりたいの!?」
「そうじゃないって」
すると、何故か高橋は感極まって泣き出した。
「俺を認めてくれるのはお前だけだ!!愛してるぜ!!進藤!!」
「はぁ?!」
いや、うぜぇ!!うぜぇから泣くな高橋!!
「俺はまたお前と話せる時が来て嬉しいんだ」
「わかる!私も4月にそう思ってたの!!」
「もう二度と、口を聞いてもらえないかと思って……うぉおおおおお!」
え…………何で?しかも何で大森まで泣くの?これ、何?
廊下で何故か二人に抱きつかれ、泣かれた。その状況を見て横山が言った。
「進藤…………女泣かせはどうかと思うけど、男泣かせはもっとどうかと思うよ?」
「いや、それ意味わかんねーよ!」
高橋はまだぐずぐず言っていた。もういい加減にしろ。もうすぐ授業が始まる。
「ごめんだなんて言葉で許してもらえる気がしなくて……だからごめんが言え無くて……」
いや、ごめんぐらい言えよ!ごめんで済むだろ?お前はいつもそうやって済ませて来ただろ?
「遺書まで書いたんだ!書いたけど……それはそれで進藤に迷惑がかかると思って止めたんだ」
「ああ、踏み止まってくれて助かった。それはだいぶ迷惑だ」
そこまでの事か?そこまで思うなら、別の考えが浮かんで来ないか?
「高橋君、高橋君はただ、進藤君に好きになって欲しかっただけなんだよね?」
「そぉなんだ!!進藤、俺を好きになってくれ!!」
おいおいおいおい!!頭オカシイのか!?言ってる意味わかって言ってんのか?だいぶ暑苦しいぞ!?
俺も…………暑苦しいのかもしれない。もっと爽やかにクールになりたい……
「あーもう、わかった、わかったから。授業始まるから早く教室戻れよ!」
始業チャイムが鳴ったから、高橋を帰し、ギャラリーを追っ払い、自分も席についた。
『ただ、進藤君に好きになって欲しいだけなんだよね?』
俺も同じか……。
好きになって欲しいって…………好きって言って欲しいって事か?
あれ?俺…………大森に告白したっけ?
いや、してない!!俺……大森にちゃんと告白していない!!
次の休み時間に、大森に放課後時間があるか訊いた。
「大森、放課後……」
「放課後?放課後は生物部なの」
「だよな…………」
告白っていつ?普通どこでするもんなの?
「あのね、やっぱり私にはテリヤキは飼えないから……」
「照り焼き?」
「この前の鶏、テリヤキって名前つけたの」
ああ……あの絞められそうになった鶏か…………
って『テリヤキ』!?ものすごい不吉な名前つけたな!!
そうやって…………嫌な記憶で縛り付けるのも愛情なのか?わからん…………。
それでも、どうせ縛り付けるなら、罪悪感や後悔じゃなくて…………
愛情で縛り付けたい。
純粋に、大森を好きという気持ちで引き止めていたい。そう思った。




