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Helios(ヘリオス)  作者: kei
1/2

第1話 高城陽翔(Haruto Takasiro)

 日本 東京都 都立多摩中学校

 Japan Tokyo Metropolitan Tama Junior HighSchool

 イタリア 地中海 サルディーニャ島

 Italy Mediterranean Sardiña

 アトランティックオーシャン バミューダ

 Atlantic 0cean Bermuda




「地中海 海面高度4,000m。人型装甲体(ひとがたそうこうたい)AQD(アクアドール)-21Unit-7 、G- 24戦略輸送機より射出(しゃしゅつ)されました。陽翔(はると)、急いで通信を接続してください!」

 対天使・戦略司令室オペレーターのキャサリンが呼びかける。


高城陽翔(たかしろはると)。応答してください。陽翔、接続はできるの?」

 キャサリンはアトランティックオーシャン バミューダ島秘密基地、管制(かんせい)センター、対天使・戦略司令室から通信を繋つないでいる。


 高城陽翔は東京都多摩地区に住む13歳の少年。都立多摩中学校に在籍(ざいせき)する生徒だ。


「先生! お腹の調子が悪いのでトイレに行かせてください」

 国語の授業中に2年3組の教室で、陽翔が起立して教師に申し出た。


 陽翔はMサイズの白の半袖シャツにレジメンタルタイを締め、ライン入りミックスグレイニットベストを着ている。


「あいつ又だよ!」

 誰かのその言葉と共に、女子達のクスクスとした笑い声が教室に広がる。


「先生。トイレで(おさ)まらなかった時には、真っ直ぐ病院に行って来ます」

 陽翔はそう言うと、腹をおさえて教室を出ていく。


「待て、高城…」

 教室から出て呼び止める教師に『先生、無理。限界です』

 そう答えて校舎二階の廊下を駆け抜ける。


 高城陽翔の耳にはワイヤレスイヤホンが装着され、肩からは黒を基調(きちょう)としたVR用『バックパック型PC』を背負っている。


 陽翔は校舎二階のトイレに駆け込み便座の上に腰掛けると、急いでVRゴーグルを装着した。


「接続完了しました!」

「ちょっと! 貴方、12時間前に連絡したでしょう。VRマシーンに乗り待機している約束じゃなかったの。もうっ。長官、指示願います」

 対天使・戦略司令室オペレーター キャサリンが、管制センターにいる戦略司令室長官に申し立てる。


「七号機管制員(Unit seven Controller)、AQDアクアドール)-21Unit-7と高城陽翔のリンクをお願い」

 司令室長官が腕を組んだ姿勢のまま指令を出す。


 陽翔のVRゴーグルと、人型装甲体AQD -21Unit-7の機体が結合を始める。


「ええっ。空を飛んでいるのか! しかも、夜間飛行だなんて!」

 東京都立多摩中等学校トイレの便座の上で、リアルなVR映像に入り込んだ陽翔が絶叫した。


「慌てないで。機体のコントロールはまだこちらでしています。現地時間3:00 a.m. AQD(アクアドール)-21Unit-7は地中海4,000mの上空から、G- 24戦略輸送機により射出されました。現在はイタリア サルディーニャ島に向かい、航空滑走中(かっそうちゅう)です」

 G- 24戦略輸送機は、太平洋 フィリピン海上 ヤーヌス島より離陸していた。


 AQD -21Unit-7は、6つの小型ジェットエンジンを搭載(とうさい)した翼幅(よくふく)2.7mの翼で、地中海上空の航空滑走を続けている。


「日本は現在10:00 a.m.頃かしら。陽翔(はると)、貴方低すぎるわ。最低のシンクロナイズよ! まさかVRゴーグルでやり過ごそうだなんて考えている訳じゃ無いでしょうね?」

 対天使・戦略司令室長官が機器のディスプレイ を見ながら陽翔に話し掛ける。


「七号機管制員(Unit seven Controller)、調べて頂戴。高城陽翔がどこでAQD(アクアドール)-21Unit-7と接続しているのか?」


「日本 東京都 多摩地区 都立多摩中学校、校舎二階から接続されています」


「二階のどこ? 校舎の設計図と照らし合わせられるでしょう!」

 マギー・ロペスが七号機管制員に詰め寄る。


「校舎の二階、トイレの個室にいる可能性が高いです」

 七号機管制員(Unit seven Controller)が冷静な口調で答える。


「陽翔、貴方トイレの便座の上に座っているのね?」

「場所なんて、どこでも同じさ!」


「いいこと、これはもう訓練じゃないのよ!」


「レースゲームと3Dシューティングなら、VRゴーグルと、このVR用バックパック型PCで十分だよ。コントローラーも、バッテリーの準備だって万端(ばんたん)にしているんだ!」

 陽翔は答える。


「解ってないわね! 最強の天使が来るのよ! 直ぐにVRマシーンに搭乗(とうじょう)しなさい」

 戦略司令室長官、マギー・ロペス(Maggi Lopez)が大声を上げる。


「結果を出せば問題はないだろう!」

 陽翔は口を(とが)らせる。


「やっぱり解っていない! キャサリン。大至急、VRマシーンを都立多摩中等学校まで運ぶ手配をして頂戴(ちょうだい)


「上からのもの言いだね! そこで黙って見ててよ!」

 陽翔は強気な姿勢を崩さない。


「あなたね、トイレの便座の上で、何が出来るのよ!」

「場所など構うものか!」


「いいわ。コントロールを預けてあげる。見せて貰うわよ、最強のマルチプレイヤー の腕前を」


「ああ。見てるといいさ」

 陽翔は答えた。


「七号機管制員(Unit seven Controller)、AQD(アクアドール)-21Unit-7のコントロール、高城陽翔たかしろ はるとに渡して頂戴。だけど好い事、貴方の任務(にんむ)は、Helios(ヘリオス)

 の完全防御(かんぜんぼうぎょ)です。任務を完遂(かんつい)出来ない時には、魂の受け渡しは約束してもらう。そのVR用バックパック型PCセットだって何だって、仮契約(かりけいやく)の手付金で購入したんでしょう。高価なVRマシーンだって自宅に設置したのよ。それならそれだけの価値は見せてもらわないとね。勿論、完遂出来ればボーナスも(はず)むけど」

 マギー・ロペスは遠慮(えんりょ)ない物言いで(すご)んだ。



 AQD -21Unit-7のコントロールは陽翔に引き継がれた。


「こちらUnit-7陽翔。現在、地中海海上100mの高度を250km/時速の速度で飛行中。これより上昇を開始する。上昇後、放物線の最高位でパラシュートを展開(てんかい)。落下地点を計算して、陸上輸送の準備を頼む」

 陽翔はVRゴーグルに映し出される計器を見詰めながら話している。


「大丈夫です。計算通りに進行しています。AQD -21Unit-7は放物線の最高位でジェットウイングから離脱(りだつ)してください。その後パラシュートを展開、降下地点には特殊(とくしゅ)車両を向かわせます。(すみ)やかなパラシュート収納後、特殊車両後部に固定してあるバイクで目的地に向かってください」

 対天使・戦略司令室オペレーターのキャサリンが、陽翔に追加の指示を告げた。


「オペレーター。放物線の最高位でジェットウイングを切り離しました。パラシュートを展開します」


(パラシュートゲームを思い出すよ)

 星の空、陽翔はVRゴーグルのワイヤレスイヤホン越しに風を感じていた。


 ラムエアータイプのパラシュートを展開したAQD(アクアドール)-21Unit-7は、眼下に映し出される落下ポイントに合わせ、空中を滑空(かっくう)するように降下して行く。陽翔は海風が吹き付ける島の上空を、左右のトグルを(たく)みに(あやつ)り、上手にターンを決めて行った。


「パラシュートではアクアマシーン(AQD -21Unit-7)を戦闘地域には(じか)に降ろせない。(ねら)い撃ちになるもの。だけど陸上輸送ではとても時間がかかるわ。これは今後の課題(かだい)ね」

 対天使・戦略司令室でマギー・ロペスが(つぶや)く。


「陸上輸送車はそのままの速度で進んでください。陽翔が荷台(にだい)に降下します」

 オペレーター、キャサリンが四車線の直線道路を走行する輸送車に告げる。

 輸送車の荷台では、既にアシストの人員が待機(たいき)していた。


「陽翔はVRマシーンに乗っていない。パラシュートの収納とバイクへの乗車はアシストが必要です」

 マギー・ロペスが輸送部隊に指示をする。


「了解です。アシストの準備は出来ています」

 輸送補助員が緊張気(きんちょうげ)に答えた。


 輸送車両荷台の後部には、昇降式(しょうこうしき)低床車載(ていしょうしゃさい)トレーラーが連結されている。その上に陽翔(AQD -21Unit-7)が乗るロードスポーツモデル、日本製650ccのバイクが固定されている。青いフロントカウルの隣には、二眼のLEDヘッドライトが()けられ、陽翔の発進を待ち()びていた。


「良い腕ね! 先ずは()めておくわ」

 ラムエアータイプのパラシュートで、見事に陸上輸送車の荷台中央に降下したAQD(アクアドール)-21Unit-7の映像を(なが)め、マギーが声を上げる。


「今度はバイクレースの腕前を、拝見(はいけん)するわ」

(まか)せてよ。僕は最高位のマルチプレイヤーの称号(しょうごう)を持っている」

 陽翔は都立多摩中等学校、校舎二階トイレ便座の上で胸を張った。


 夜の冷たい外気の中、輸送補助員のアシストを受けたAQD(アクアドール)-21Unit-7が、ロードスポーツバイクのライダーシートに(またが)りエンジンをふかしている。


「輸送車両は減速を開始してください」

 VRゴーグル音声に、オペレータ キャサリンの声が飛ぶ中で。


「大丈夫さ! 行きます」

 陽翔(AQD -21Unit-7)が、昇降式低床車載トレーラから、一気(いっき)に道路へと飛び出して行った。


 ブーツからバイザーまで、総てダークメタリック・ブルーの装甲に統一されたAQD -21Unit-7が、(あわ)いメタリック・ブルーのロードスポーツバイクを全開で急発進させて行く。


 低床車載トレーラから勢いよく飛び出したバイクは道路を逆走し、今度は後輪を(すべ)らせて180度反転、タイヤから白い煙を上げて、輸送車両を追い越し走り去って行った。


「恐れを知らない若さ、乱暴ね! ほんと手を焼くわよ!」

 バミューダ島秘密基地、管制センターに立つ、対天使・戦略司令室長官マギー・ロペスが小さく舌打ちをした。


 メタリック・ブルーのバイクと一体化した陽翔(AQD-21Unit-7)は、サルディーニャ島の無人の坂道を、右に左に高速でコーナを決めながら走り続ける。シールドに吹き付ける夜風が、メットのバイザーを鳴らして行く。


 高城陽翔は、授業時間の静かなトイレ便座の上で、リズミカルに体を左右に揺らしながらコントローラを操作している。

 装着するバーチャル・リアリティ(Virtual Reality)ゴーグルが、リアルにサルディーニャで吹き付ける夜風を、陽翔の脳に知覚させていた。

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