プロローグ
ミナ、ユイカ、アサ、そして私サコは、親の思い出づくりの一環として、4歳から地元のりんご児童劇団に所属していた。
その劇団では、いわゆる幼児や児童が自己を表現する機会を作ることで感性を高め、また育児に行き詰りやすい親が他のママあるいはパパとコミュニケーションを図る機会を作る団体だった。
特に厳しい演技指導が行われた訳ではなく、皆で画用紙を切り抜いて衣装を作ったり、お歌を練習して学芸会の様な上演を繰り返していた。
小学校卒業と同時にそのりんご児童劇団からは自動的に卒業になることを私たちはそれとなく知ってはいたが、特にそれを意識していなかった。
子供ってそんなもんだろう。
ただ、私たちはこれからもみんなで集まって冷たい茶色の廊下の上でカセットテープを流しながら踊ったり、時には飴玉やチョコレートを食べながらおどけ合う日々が続いていくような気がしていた。
卒業公演の日、ミナの母親はミナが主役の赤ずきんを堂々と演じ切ったのをみて、その重たい図体と首物に埋まったパールのネックレスを小刻みさせながら泣いた。
銀縁のメガネが折れそうな皆の父親もビデオを片手に涙を流した。
ユイカの両親は、娘がおばあさん役になったことに不服そうにし、隣に座っていた号泣しているミナの母親を時々鬱陶しそうに見ていた。
シングルマザーのアサの母親はいつもは土曜日に行われる公演が水曜日になったことに動揺しながらも有給休暇をとり娘の晴れ姿をみにきた。
狼役の娘を目尻にシワを寄せながら幸せそうにみていた。
私の両親はただ笑顔で、よく頑張ったね、というだけだった。
最後、赤ずきんを心配そうに見送る母親としての表情を工夫したつもりが、伝わっていなかったんだと少しガッカリした。
そして現在、私達は高校生になり、偶然また同じ団体に所属している。ユリイカ芸能プロダクションだ。