マタニティーブルー
葉桜に変わる頃
繋いだ手のひら
まだ知らなかった
「来年は3人でお花見ね」
彼女はとても幸せそうに、幸せそうに
笑った。
「名前考えなきゃだね」
僕は微笑みながら答えた。
幸せの絶頂で浮かれる僕は
彼女の少しだろつ、陰りにも気づかずに
繋いだ手を離して
彼女のお腹を撫でた
セカイは彼女と僕とお腹の子のためだけにあるのだと
信じて疑わなかった。
それ以外のなにものでもないと
強く信じきっていた。
それから1週間
家に帰ると真っ暗で
僕は彼女の名を呼びながら
部屋を見たがそこには誰もいなかった
ただパソコンが動いていた
「さようなら、good-bye、幸せでした」
文字が流れ流れひたすら流れていた
意味のわからない僕は彼女の携帯を鳴らした。
出た相手は警察だった。
入水自殺と見られると警察は言った。
遺体は見つかっていないが遺書と靴と携帯が
まだ海には早い海水浴場に置かれていたのを
警察に届けたのだと。
さようなら、幸せでした。
彼女の声が聞こえた気がした。