第三話 ようじょたいせん!
「これはクリスマスの時にヒイロとムラサ、あ、いや、サンタが私にと置いていったものだ。一国の国王からこの飴玉ひとつと城一つを交換してくれと言われても断固拒否するレベルの大事なものだ。」
リアルサンタが置いていったやつ!
大事にしすぎだろ・・・孫にもらったへたくそな似顔絵を額縁に入れて飾っておくおばあちゃんか。
「ぐっっどぉぉぉ!!それでは、ババ抜き三本勝負のスタートじゃぁぁ!」
俺がディーラーとなってカードを配った結果、ノエルさんが七枚、悪魔幼女が六枚になる。
あのめっちゃ目を見開いた後にカードを混ぜまくって目線がキョロキョロしてるのを見る限り、ジョーカーはノエルさんの手元にいったようだ。
ババ抜きなんだからどっちにジョーカーがあるかなんてすぐにわかるのに、なんでノエルさんはあんなに動揺してるんだろう・・・
「どうやらジョーカーはそっちに行ったようじゃな。運が悪かったのぉ?」
「・・・ふ、ふん。自称悪魔が聞いて呆れる。戦場であればどんなに不利な状況であろうと最後に立っていたほうが勝ちということを知らんとは。」
ノエルさんがニヤリとする。
しかしその顔には一筋の汗が流れているのを俺は見てしまったわけだが。
そんなやりとりの中、悪魔幼女がノエルさんのカードに手を伸ばす。
が、その時。
「・・・ニョキ。」
「なっ!?」
突然ノエルさんの手札から一枚だけ札がニョキっと持ち上げられる。
「どうした? 取らんのか? ふふっ、不本意ではあるが義妹の言葉を使わせてもらおうか。『ビビッてんの? ビビッてんの?』。」
そこでさきねぇの発言出ちゃうんだ。
幼女悪魔はどの札を引こうかめっちゃ迷ってる。
・・・が、悪魔幼女の手がジョーカーの所に来た時のノエルさんの様子がヤバい。目がめっちゃ泳いでる。
そしてなぜかそれに気がつかない悪魔幼女。
俺を賭けた勝負のはずなんだけど、なんだこれ・・・
「ええい、これじゃ!!」
悩んだ末、悪魔幼女は一枚だけ飛び出たニョキ札を取る。
「な、なんじゃと!」
「フハハハハ! これが大戦を生き抜いた者の知恵よ! 見たかヒイロ! 私の勇姿を!」
「さすがノエルさんです! そこにしヴぃれて憧れます!」
ジョーカーだったようです。
なんかもう高度な駆け引きなんだか幼稚なバトルなんだかわかりません。
あと『大戦を生き抜いた者の知恵、普通だな・・・』って思ったのはナイショだ。
「さぁ私の番だぞ自称悪魔。その首、貰い受ける!」
ノエルさんの目がギラリと光るのだった。
ノエルさんは必殺技『手札から一枚だけニョキ!作戦』で相手にババを押しつけて、順調に札を消化。
結局そのまま勝ってしまった。
「な、何なのじゃ一体あれは・・・反則じゃろ!あんな真似をされたら、引いてしまうではないか!?」
「フフフフ・・・このゲームを、貴様は遊びと考えた。しかし、私は戦と考えて臨んだ。貴様の敗因は『覚悟』の差だ。ドヤァ!」
ノエルさんが両腕を組んでない胸をそらす。
そしてちらちらと俺を見る。
あ、これ褒め待ちだ。さきねぇに似てきたな。
「さすがノエルさんっす! かっこいいっす! よっ、≪破軍炎剣≫!」
「まぁそれほどでもあるがな! わっはっは!」
「ぐぬぬぬぬ・・・」
勝ち誇るノエルさんと悔しそうな悪魔幼女。
お互い外見だけなら子供のゲームっぽくてほっこりするんだけどね。
実際は俺の命がかかったデスゲームだけど。
「こ、こうなったら、わらわにも考えがあるのじゃ!」
「ククク、好きにするといい。子供の浅知恵に付き合ってやるのも大人の仕事だからな。お・と・な!の。ワーッハッハッハッハ!」
「のじゃぁぁぁぁ!! 今に見てるのじゃ、そのぷっくりプニプニの顔に吠え面かかせてくれるのじゃ!」
ノエルさん楽しそうだなー。
寂しがりやだからか、こういうゲームごとにはけっこうむきになるんだよな。
そして悪魔幼女の叫び声は『のじゃぁぁぁぁ!!』か・・・
さすが覇権を競って血で血を洗うのじゃロリ界、大変だな。
第二戦スタート!
カードを集めて切り直し、再度カードを配り二回戦が始まる。
今度はノエルさんが六枚で悪魔幼女が七枚。
あのノエルさんのニコニコ顔を見る感じ、ジョーカーは悪魔幼女のようだ。
一本先取している事とジョーカーが相手の手の中にある事が合わさり、余裕の態度である。
でもノエルさんがゲームで余裕の態度の時って大体ボロ負けしちゃうんだよなぁ・・・
すでに結果が見えてる感じがしてつらたん。
「おやおや。自称悪魔どのは同類である死神に好かれるらしいな。ヒイロ、すぐ終わらせるから何も心配せずゆっくりしていなさい。」
「頼りにしてますノエルさん!・・・ん?」
めっちゃ余裕のノエルさんを横目に悪魔幼女を見ると、なにやら不可思議な行動をしている。
無言で手札をテーブルの下でシャッフルすると、そのままテーブル上に札を伏せる。
・・・何してんだ?
「何をしている?」
ノエルさんも困惑している。
そりゃそうだ。あれでは悪魔幼女はどこに何の手札があるのか全くわからないことになる。
つまり、結局は運任せだ。
「さっさと引くのじゃ」
「ハッ! おいおいおいおい。今度は運任せか・・・しょせん子供。話にならんな。」
「そうじゃ、それがわらわの作戦じゃからな」
ヤレヤレポーズが可愛いノエルさんに対して、余裕そうな顔の悪魔幼女。
あの自信はなんなんだ? 自分の運に絶対の自信があるってこと?
「いいだろう。後悔するなよ。私にはともに戦場を駆け抜けた戦友たちの魂とその武運が宿っている。七分の一の確率なぞ屁でもない。」
「さて、運はどちらの味方をするのかのぉ?」
ノエルさんはかっこいいセリフを放ち、悪魔幼女の手札に手を伸ばす。
が、かっこいいことを言っている割には伸ばした手はフラフラと散々迷いまくっていた。
そして迷いに迷った末に一枚を選ぶ。
「な、なんだと・・・!?」
迷子のノエルさんがたどり着いた先はジョーカーだったらしい。
ノエルさん、七分の一の賭けに負け衝撃を受けるの図。
ノエルさんが戦場を駆け抜けたのは百年近く前の話だから、武運、賞味期限切れになっちゃったのかな・・・
「おやおや? どうやら運はわらわの味方をしたようじゃな」
「クッ・・・きっとエドだ。あいつは賭け事が最弱だったからな・・・おいエドの魂、ちょっとあっちいってろ。」
戦友の魂にあっちいけって言っちゃった・・・
つーかエドさん、エクスカリバーは折られるし賭け事は最弱だったりと今んとこ良いとこなしだな。
俺の中のエド株は爆下げである。
今度はノエルさんのターンとなり、手札をシャッフルし先程と同じようにジョーカーを持ち上げる。
これが世に言う『第二次手札から一枚だけニョキ!作戦』の始まりであった。
しかし悪魔幼女は目を閉じて札を見ようとしない。
「審判、わらわから見て、右から二番目の札じゃ」
「な、なんだと!?」
「・・・あ、はい。どうぞ。」
衝撃を受けるノエルさん。
確かにババ抜きは最終的には運まかせではあるが、目を閉じるってすげぇな。
悪魔幼女が選んだカードをノエルさんの手札から抜き取り渡す。
悪魔幼女はその札を受け取って内容を確認するとニヤリを笑う。
ヤツの引いた札はジョーカーではなかった。
「せっかくの戦法じゃが、そもそも目に入らなければどうという事はないの」
「・・・なるほど。悪魔を自称するだけのことはある、ということか。狡猾な。」
長年の宿敵に出会ったかのように悪魔幼女を睨むノエルさん。
・・・狡猾か?
「これで形成逆転じゃな」
「フン。しかし運任せの手でどこまでやれるかな?」
「はてさて、どうなるかのぉ? わらわは、運にはちと自信があってな……」
その後も目を瞑り何も見ない作戦を貫く悪魔幼女。
そうするとあれだけ猛威を振るった『手札から一枚だけニョキ!作戦』も形無しである。だって相手見てないし。
悪魔幼女の手札が一枚、二枚と減り、そのまま悪魔幼女の勝利に終わる。
「どやぁ~♪」
「ギリギリギリギリ・・・こんなはずでは・・・」
ノエルさんがめっちゃ歯軋りしてる。
このノエルさんは賭け事して負けがこんでる時以外は見れないのでレアな状態である。
カメラみたいな魔法道具ってないのかな。言い値で買うけど。
「むふふふふ、次が最後の一戦じゃな」
「もし負けたらヒイロが・・・こうなったら手段は選ばん。全力でぶっ潰す。」
ノエルさんが俺に意味ありげな視線を送る。
何か仕掛けるのか。どんな状況でも対応できるように覚悟を決め頷く。
「くっくっく、どうやら、運はわらわに向いているようじゃな」
そして、運命の第三戦が幕を開ける。
増田先生のほうでは今話のはしらちゃん視点でのお話が楽しめます!ぜひ今話と一緒に読んでみてください!
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