第二話 そーぐー!
「・・・・・・こんにちわ。」
「・・・・・・こ、こんにちわなのじゃ。」
とりあえず声をかけてみたが、俺の幻覚的な非実在幼女ではないらしい。
なのじゃ? のじゃロリ? ほんとのロリ? どっちだ?
ノエルさんみたいにロリエルフ(168歳)みたいな例があるから判断に迷うわ。
「・・・えっと、いい天気ですね。」
「・・・そ、そうじゃな?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
無言で見つめ合う俺と幼女。
幼女の警戒心すごいな。
仕方ない、ここは俺の十八番でなんとか場を和ませるか。
「はい、ここに縦縞のハンカチがあります!」
「!?」
「これが一瞬で~・・・ハイ! 横縞に!」
シーーーーン
「・・・・・・」
「・・・・・・」
無言、ていうか無音。
あれ、おかしい。
これは見た人から若干の苦笑いを引き出す俺の得意技だったんだが。
不発してしまったのか?
「・・・・・・ぶっ」
ぶ?
「ブハハハハハハハ!!! なんじゃそれは!?贄ー、贄過ぎる。縦縞があっという間に横縞とか、ブフッ、腹が捩れる!ぶひゃ、ぶひゃひゃひゃひゃひゃ!!」
時間差だった。
良かった。こういう芸風は無反応が一番傷つくからな。
そしてこれ幼女だわ。幼女エルフか? ノエルさんの親戚の子とかなのかな?
ならノエルさんが帰ってくるまで俺が愉快な時間を過ごさせてあげなければ!
「よーし、ノエルさんが帰ってくるまでお兄さんとなんかして遊ぼうか?」
「うむ、そうじゃなぁ・・・わらわが、えきさいてぃんぐしながらも適度に苦戦しつつ最後には勝つような、そんな対戦げーむがいいのじゃ!」
「要求レベルたけぇ!? むむむむ・・・じゃあ、トランプなんてどうかな?」
さすが(多分)ノエルさんの親戚、要求の度合いが半端ないぜ!
とりあえずババ抜きでいいだろ、簡単だし。
タイマンのババ抜きで歴史的圧勝!なんてありえないしね。
リビングに移動し、幼女に実戦形式でババ抜きのルールを教える。
「とりまこんな感じかな。ルールはわかった?」
「うむ、よく分かったのじゃ!! では早速・・・と言いたいところじゃが、どうじゃ? 折角じゃから何か賭けて遊ばぬか?」
いきなり賭けを持ち出す幼女とか恐ろしいな・・・さすがノエルさんの親戚
「いいよ。何がいいかな?」
「負けた方が、勝った方の言う事を聞くというのはどうじゃ?」
ほっこり。
なんだろ、肩車して機関車トーマスごっことか幼女を抱き上げて回転するメーリーゴーランドごっことかかな?
いくら異世界でノエルさんの親戚でもそれほどヤヴァイことはお願いしてこないだろー。
世の中にはさきねぇみたいに『市役所に行って婚姻届をもらってくる』とかいう猛者もいるが。
「よーし、お兄さん負けないぞー!」
「手加減無用でいくのじゃ!」
あら、かわいい笑顔だこと。
俺は大人なので一勝一敗まで引き込んで、最終決戦でわざと負けてあげるか。
さきねぇなら全力でぶっ潰すだろうけど。
そんな余裕を持ちながらはじめたババ抜きだったが・・・
「嘘、だろ・・・?」
ストレートで二敗。即死です。
表情から全く情報が読めない、だと?
ポーカーフェイスではない。むしろ得意気だったり驚愕だったり目が泳いでたりと表情豊か。
にも関わらず負けた。フルボッコで。
表情豊かなタイプのポーカーフェイスとかあるの?
何この幼女激強なんですが。
「むふふ、さて、それでは契約に従いわらわの言う事を聞いて貰おうかの?」
幼女がそう言うと俺の胸にズキンとした痛みが走る。
体を見てみると俺の胸から黒い靄で作られた鎖のような物が出ていた。
その黒い鎖のようなものを目で辿っていくと、鎖の先端は幼女の手に握られていた。
「・・・ん? なんぞこれ」
鎖を触ろうと手を伸ばすがスカす。
もう一度掴もうとするもまたスカす。
「あの、これは一体なんでしょうか?」
「ん? 悪魔と契約をしたのじゃから、それを履行するのは当然の事じゃろ?」
「悪魔と契約!? いつ!?」
「さっき『負けた方が、勝った方の言う事を聞く』と契約したではないか?」
え、俺が幼女のお願いにほっこりしてた時、そんな恐ろしい事態が進行中だったの!?
っていうか・・・
「え、キミ、悪魔だったの!? そんなの聞いてないよ!?」
「えっ? だって、聞かなかったではないか?」
ノエルさんの親戚じゃねーのかよ!?
騙さ・・・れたわけではないけど! たしかに俺も聞かなかったし!
・・・一応確認しとこう。
「あの、アレですかね、軽いボディータッチでDTたちを掌で転がしてからかう小悪魔ギャル的な意味じゃないですよね?」
「何を言っておる、わらわは小悪魔ではなく、大悪魔じゃぞ?」
だ、大悪魔!?
つまりDTたちを掌で転がしてからかうレベルではなく、汚いおっさんを借金漬けにした挙句、首輪をつけてペット呼ばわりして足で踏みつけるとか、そういうレベルなのか!?
お、恐ろしい幼女や・・・
「ク、クーリングオフとかきかないですかね? 法律はどこ基準なんでしょうか?」
「もちろん、悪魔基準に決まっておろーが!」
ドヤ顔の幼女が鎖を引っ張ると、俺の心臓がまたドクンと脈打つ。
ヒェッ・・・いくら経済大国日本でも相手が外国の方では遠慮せざるを得ない。
それが悪魔ならなおさらだ。
「むははは! 久し振りの贄に涎が止まらぬのじゃぁぁ!」
やべぇ、これリアルガチなやつだ・・・と俺が絶望していたその時、玄関がガチャリと開く。
そこにはノエルさんの姿が!
「帰ったぞー。いい子にして待ってたかー?」
「ノエルさぁぁぁぁぁん! へぇぇぇるぷみぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
ドタタタタタ!という音とともに必死の形相のノエルさんが現れる。
地獄に仏とは正にこのこと。
俺、無宗教だけど、もしノエルさんが浄土真宗本願寺派なら喜んで一向一揆に加わります!
「大丈夫かヒ・・・挙動不審だな!?」
俺の姿を見て驚愕の声を上げるノエルさん。
幼女がふざけて鎖を左右に振り回しているせいで俺の体が左右に揺れている。
・・・もしやノエルさんにはこの鎖が見えてないのでは?
そしたら俺の今の姿は『一人で体を左右に動かし幼女の前で怪しげな踊りを踊っている男』だ。
完全に変質的な犯罪者!
「違うんです違うんです! これには深いわけが!」
幼女が今度は鎖を上下に振る。
その鎖の動きにつられて俺の体が屈伸運動をしているかのように上下に動く。
「・・・・・・その、ちょっと私にはわからん領域ではあるが、趣味嗜好は人それぞれだ。そして私はヒイロのことを信じている・・・が。その、あれだ。誘拐じゃないよな?」
「違いますよ!? ていうかそれ信じてないですよね!?」
「あっ、思い出したのじゃ! お主、幼女なのにおばあちゃんな、乳臭いBBAじゃろ?」
あ、ノエルさんの顔に『カチーン!』って書いてある。
「燃やすぞクソガキ。」
「それは困るのじゃ。燃やされたら贄が食べられなくなってしまうではないか?」
「何を言ってるんだこのガキは。」
たまにさきねぇを見る目で幼女悪魔を見つめるノエルさん。
つまり、かわいそうな子を見る目だ。
「ノエルさん、実はですね・・・」
事情を説明。
「もしこれがムラサキならそんなバカなことあるか!と蹴りをかますところだが、ヒイロだからな。おい悪魔よ。今すぐその鎖とやらをはずせ。そうすれば半殺しでまけてやろう。」
「ほう? もし嫌じゃと言ったら?」
「十五割殺しだ」
「オーバーキル半端ないな!?」
さすが現役S級冒険者、言うことが違うぜ!
「ぬははははは! 悪魔との契約が、そんな事で破棄できるわけないじゃろうが。そうじゃな、もしもわらわの贄が欲しいと言うなら、ババ抜き三本勝負に勝てばくれてやるのじゃ」
「いいだろう。そちらの要求どおりに勝負してやろう。<破軍炎剣>の切れ味、見せてくれる!」
幼女悪魔ではなく俺に向けてキリッ!とキメ顔のノエルさん。
やることはババ抜きだけどね・・・
「まっ、お主のようなお子様なんぞ、わらわの相手ではないがのぉ」
ノエルさん、小学生にしか見えない幼女悪魔に煽られるの図。
そしてノエルさんの顔が険しくなる。
マガ○ンだったら顔の横らへんに『!?』のマークがつくレベルだ。
「自称悪魔の小便臭いクソガキに~、頭緩い感じに煽られても~、別になんとも思わんなぁ~? 私はこれでも花も恥らう大人の女性なのでなぁ~?」
ノエルさん、それ、めっちゃ煽りに反応してます! スルーできてません!
「ぷーくすくす。お主が大人の女性なら、何万年も時を経たわらわは、スーパー・スペシャル・クール・ビューティ・セクシー・プリティー・大人レディじゃな」
SSCBSPALか。
すごいけどちょっと頭悪そうな感じがさきねぇ受けしそうだ。
「何万歳ぃ? 誰が証明するんだそれは? 証拠は? ああ、悪いな。しょうこっていうのはぁ、じじつをしょうめいするこんきょのことなんだがぁ、何万歳もの大人レディ(笑)は意味わかるかなぁ~?」
すごいバカにした顔で挑発返すノエルさん。
煽り方すげぇなこの人・・・
「むきぃぃぃ! 寸胴つるぺたロリ幼女の癖に生意気じゃぞ!!」
「・・・ヒイロ! 審判だ! このクソガキがイカサマをしないように見張ってろ!」
「サ、サーイエッサー!」
ノ、ノエル様がお怒りになっていらっしゃる!
こりゃ大事になるでぇ・・・
「返り討ちにしてやるのじゃ!・・・さぁ、さっさと『大事な物』を一つ言え。お主がこのゲームに何を賭けるのか、宣言するのじゃ!」
「・・・いいだろう。では、これを賭ける!」
ノエルさんは魔法袋から飴玉のたくさん入ったブーツを取り出すテーブルに置く。
「・・・あの、これは?」
「これはクリスマスの時にヒイロとムラサ、あ、いや、サンタが私にと置いていったものだ。一国の国王からこの飴玉ひとつと城一つを交換してくれと言われても断固拒否するレベルの大事なものだ。」
リアルサンタが置いていったやつ!
大事にしすぎだろ・・・孫にもらったへたくそな似顔絵を額縁に入れて飾っておくおばあちゃんか。
「ぐっっどぉぉぉ!!それでは、ババ抜き三本勝負のスタートじゃぁぁ!」
増田先生のほうでは今話のはしらちゃん視点でのお話が楽しめます!ぜひ今話と一緒に読んでみてください!
検索ワードは『あくおれ!』よね~?