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ゾンビ・パウダー  作者: 木原ゆう
倫理崩壊のファーストインフェクション
4/48

Ethics collapse 4

 その日の夕方、自宅に帰りポストを覗くと、一枚の茶封筒が投函されているのを発見した。

 少しだけ盛り上がった茶封筒には何やら小瓶でも入っている様子だ。

 差出人は不明。しかし僕は表に記載されていた商品名に見覚えがあった。


 ――『ゾンビ・パウダー』。


 僕は咄嗟に周囲を見回し、誰も見ていないことを確認するとすぐに玄関の扉を開けた。

 鍵を閉め、軽く溜息を吐く。

 妹の美憂みうは部活動があるから、まだ帰宅時間には早い。

 父と母は共働きだし、恐らく二人とも今夜は帰りが遅いだろう。


 僕は封筒を持ったまま靴を脱ぎ、二階の自室へと向かった。


「……まさか、本当に届くなんて」


 念のため部屋の鍵を閉め、封を切る。

 中から出てきたのは親指ほどの大きさの小瓶に入った、白い、謎の粉だ。

 震える手でそれを取り出し、僕は傍らにある机にそっと置いた。

 他に封筒に何か入っていないか確かめると、たった一言だけ文字が添えられた紙切れがあるだけだ。

 僕はそれも取り出し、書いてある文章を確かめる。

 そこにはこう書いてあった。


 ――『脳回におけるアポトーシス異常及びCall細胞による脳内支配』。


「……脳回? アポトーシス?」


 書いてある言葉の意味が理解できず、再び僕は小瓶に視線を向ける。

 一見すると普通の小麦粉のようにも見えるが、もしかすると麻薬の一種なのかもしれない。

 説明文らしきものにも『脳内支配』という言葉が書かれている。

 もしもこれが本物の麻薬だとしたら、すぐに警察に届けないと僕自身が逮捕されてしまうかもしれない。 

 少しだけ悩み、やはり警察に連絡しようと立ち上がると、封筒の底から何かが零れ落ちてきた。

 どうやらまだ封筒の中に入っているものがあったようだ。

 僕はそれを拾い上げ、手のひらに乗せてみる。


「……錠剤?」


 それは風邪薬のような錠剤で、たった一錠だけ封筒に仕舞われていた。

 裏返してみると、小さく英字で『antibody』とだけ印字されていた。

 アンチボディ……たしか『抗体』とか、そういう意味だったような記憶がある。

 僕は一旦思い返し、パソコンを起動させた。

 警察に連絡をするのは、少しだけこの粉の事を調べてからでも遅くはないだろう。

 それに、出来れば僕は当事者にも関係者にもなりなくないのだ。

 警察に連絡したら事情聴取をされるだろうし、そうなれば両親にもネットでこの『ゾンビ・パウダー』を購入したことが知られてしまうかもしれない。

 どうやって親から渡されているクレジットカードや自宅の住所の情報を抜き取ったのかは分からないが、もう後戻りが出来ないところまで来ているともいえる。

 そう考えたら警察に連絡をするのが少しだけ怖くなってしまった。


 ネットに回線を繋ぎ、説明文に乗っていた単語の意味を調べていく。


 【脳回】

 大脳にある皺の隆起した部分の名称。大脳皮質は知覚や運動など脳の高次機能を司る。

 【アポトーシス】

 細胞内にプログラムされた細胞の死。癌細胞などの異常細胞を破壊するためにも用いられる。


 僕はもう一度メモと検索した情報を見比べる。

 脳回における……アポトーシスの、異常……? 


「『プログラムされた細胞の死』……。癌細胞を破壊するそのプログラムに異常が現れる・・・・・・……? つまり、脳に発生した癌細胞を破壊しない・・・・・ということなのか……?」


 何のためにそんなことをするのか予想が付かないが、僕は最後の単語の意味を検索する。


 【Call細胞】

 エラー。検索できません。最も近い検索結果は………………。


 いくつかページを開いてみたが、それらしき用語は見つからない。

 僕は検索を諦め、パソコンの電源をオフにした。

 そして小瓶を手に取り、それを部屋の照明に照らす。


「……『脳内』を『支配』する。そこに発生した癌細胞を破壊せずに……」


 ――『ゾンビ・パウダー』。

 脳を支配する、謎の粉。

 そして、手元にある抗体薬。

 これを飲めば・・・・・・僕は脳内を・・・・・支配されない・・・・・・……?


「……ふっ、あはは! あははは!」


 急におかしくなった僕はベッドに寝転がり、一人で笑い続けた。

 そんな戯言を信じる馬鹿がどこにいるというのだろう。


 ひと通り笑い終えた僕は警察に連絡するのもアホらしくなり、そのまま明日の宿題を取り組むことにした。




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