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ゾンビ・パウダー  作者: 木原ゆう
現実乖離のディペンデンス
16/48

Reality divergence 1

「う……うう…………。美佳……美佳ぁ…………」


 二階の階段を慎重に下り、一階の階段の踊り場で身を隠して周囲を確認する。

 何人かの遺体は確認できるが、ゾンビ化した者達は見当たらない。

 奴らは学園から外に向かい、周辺住人でも襲い始めているのだろうか。

 足元に転がっている胴体が真っ二つに引き裂かれた遺体を跨ぎ、下駄箱のある方角へ進もうとすると明日葉が声を掛けてきた。


「外に行くの……? 一階の教室で待機していたほうが安全じゃない?」


 先ほどから明日葉はずっと僕の手を離そうとしない。

 あまりにくっついていては、いざという時に身を守り辛くなるのだが、怯え切った彼女はそれを理解できるだけの冷静さを失っていた。

 僕は軽く溜息を吐き、彼女の手を強制的に払う。


「残りたかったら好きにすればいい。僕はこの学校から外に出たいんだ」


 僕の言葉があまりにも素っ気なかったからか。

 彼女は再び目に涙を浮かべ、懇願するように僕の制服を掴みこう続ける。


「嫌だよ……! 私は正一君と一緒に居たい……! ゾンビになんて、なりたくない……!」


「僕と一緒に居てもゾンビにならない保証なんて無いだろう? 実際、乃村だって――」


 口論になりかけたところで、足元に転がっていた遺体が手を伸ばし僕の足を掴んだ。


「ひっ……!? どうして、生きているの……!? 嫌……嫌ああぁぁぁぁ!!」


 恐怖のあまり僕の背にしがみ付く明日葉。

 上半身だけで腕を動かし、僕の足に噛み付こうとするゾンビ。

 僕は咄嗟に包丁を抜き、ゾンビの手の甲に向けて力いっぱい振り下ろした。

 血飛沫と共に奴の指が何本か宙に舞った。

 それでも残る指で僕のズボンの裾を掴み離そうとはしない。

 自由な方の足を振り上げ指を蹴り上げると、ゴリッという鈍い音が鳴り指が反対方向にひん曲がった。


『ウウゥゥ…………。グウウゥゥ…………』


 それでも尚、もう一方の腕を伸ばしてくるゾンビ。

 下半身を失っているせいか動きは鈍く、他のゾンビよりも力が弱い感じがする。

 僕は奴の手の甲に突き刺さったままの包丁を引き抜き両手に構え、今度は右目に向かい思いっきり突き刺した。


『…………ガ…………。ア…………アアァ…………。………………』


 大きく腕を伸ばし、そのまま動かなくなったゾンビ。

 明日葉は完全に怯えてしまい、座り込み泣きじゃくっているだけだ。

 しばらく観察していたが、これ以上ここに留まるわけにもいかず、僕は奴の眼窩から包丁を引き抜いた。


「胴体が半分になっても生きているけど、眼窩に包丁を突き刺したら死ぬんだね。もしかしたら脳に損傷を与えたら活動を停止するのかもしれない」


 それだけ言って、僕は明日葉を置き下駄箱へと向かう。

 これ以上彼女の面倒を見るのは御免だ。

 守られることに慣れた彼女は、僕にとって不快で邪魔な存在でしかない。

 ここで野たれ死のうが、警察に保護されようが知ったことではないのだ。

 しかし、顔を上げた彼女は再び僕の後を追ってきた。

 そしてすがるような表情で僕に声を掛けてくる。


「嫌だ、置いていかないで……! お願い……お願い、します……! 何でも、するから! 私、正一君が望むんだったら、何でもするから……! だから、だから私を見捨てないで、下さい……」


「…………」


 涙を拭き、決意の表情を浮かべた明日葉。

 少しの間思案した僕は軽く溜息を吐き、彼女の申し出を受け入れることにした。

 顔を輝かせ嬉しそうに僕に抱きついてきた彼女。

 しかし、僕の心は別の場所へと向いていた。


 極限状態での信頼など、脆く簡単に崩れ去るものだ。

 利用できるものは利用し、いざとなったら切り捨てる――。

 

 僕は下駄箱の扉を開け、靴を履き外へと向かった。




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