ep.8 朝日と
朝日が差し込み、まだ街は眠りについている中、俺たちは旅立ちを迎えていた。
「ゴッチさん、本当に馬車を借りてもいいんですか?」
「持って行きやがれ! 餞別だ!」
昨日の夕食の時にこっ酷く孫娘のエリンに怒られていたが、珍しくゴッチさんがエリンの言う事を聞かなかったのだ。
「爺さん、世話になったな! すぐ帰ってくるからよ! 待っててくれ!」
「私等と小鬼達も居なくなるからエリンも寂しくなるかもしれないけど、ちょっとの辛抱さね!」
俺よりも小太郎と晴明は、1年早くに鍛冶屋にお世話になっている。名残惜しいはずだが2人はその感じを顔には出さなかった。
「本当に私なんかの為に皆さんありがとうございます! これは感謝しても仕切れないです」
ゴッチさんは豪快に笑って居た。
「こいつ等はそういう奴らだよ! 困ってたら助ける、それ以上の事は何にも考えてねぇ! 俗に言うアホって奴だな!」
そう言うと、ゴッチさんはまた豪快に笑った。
「そういえばお前ら、タジキルニア連邦国に行くんだろ? ルートとかは決めてあるのか?」
「それは大丈夫です! 2つの国を抜けての最短ルートで進んで行こうと思ってます」
ルクレティアが馬車の上で地図を広げ指でルートを説明する。
「アリトスの街から出発し、ナルバック王国領クルトスで一度補給を行います。ナルバック王国は広い国なので、その後にも最低3回の補給が必要になります。そしてナルバック王国を抜けて、ラダデム帝国の首都アラバキで補給をして、タジキルニア連邦国に入国するルートで考えてます」
そのルートを聞いて、ゴッチの顔から血の気が引くのがわかった。
「ま、待ってくれ! ナルバックのクルトスって言ったら、ナルバック王国の中でも神王教団信仰の一番強い街だし、ラダデム帝国って言ったら、主要諸国の中でも一番の小国だが、軍事国家で有名な国じゃねぇか! もっといいルートがあるだろ!」
ルクレティアは苦笑いをしていた。
「私も他の安全なルートを提案したんですが、小太郎さんが……」
「なんで、そんな面倒くせぇ遠回りなんてしないといけねぇんだよ! 近いなら突っ切っちまえばいいだろ? どうせ神王教団ぶっ潰すだから信仰国から潰しておいて損はねぇだろ!」
「って言い出して、それに宗寛さんと晴明さんも乗った感じでルートが決まっちゃいました……」
それを聞くと、ゴッチさんはまたまた豪快に笑った。
「そう言えば、こいつらはそう言う奴らだったな! せいぜい死なねぇようにしろよ!」
そう言っていると、向こうから二頭の馬に乗った2人の鎧の男がこっちに走って来たのが見えた。
「おい小太郎! あれってエドガーとクレルシュタインじゃないか?」
そこにはクロム鉄騎団の団長エドガー・クロムウェルと、強面の副団長クレルシュタイン・ガルフィールが馬に乗って向かってきていた。
「あぁ、エドガーとクレルシュタインだな! こんな朝っぱらから馬に乗って何してるんだ?」
2人は俺たちの前に止まり話しかけて来た。
「やぁ、君たちは今日が旅立ちか! つい先日鉄騎団を辞めると言われた時はびっくりしたが、それも君たちが決めた事だ仕方ない」
透き通るような金の髪の毛と、何者も跳ね除けてしまうような純白の甲冑は朝日に当たり煌いていた。
「そういえば、エドガーとクレルシュタインは何をしてるんだ?」
小太郎は基本的に敬語を使うと言うことは知らないらしい。俺が見て来た中では、使っている所を見た事がない。
「俺たちは神都からお呼びがかかってな、今から俺とエドガーで行ってくる」
このクレルシュタインは初めて俺が下弦亭でエドガーと話した時に案内してくれた人だが、2年経った今も顔が怖い。そしてこの神都というのは、どこの国にも属さない神王教団の総本山の都のことである。
「2人で呼ばれたんですか? しかも神都に」
俺はこの時期にエドガーとクレルシュタインが、神都に呼ばれる事に疑問を感じた。
「エドガーだけが呼ばれ、俺は護衛といった所だ」
エドガーには護衛も必要がないとは思うが、心配性のクレルシュタインの事だから半ば強制的に同行したのだろう。
「それで、君たちは何処に向かうのかな?」
エドガーにもお世話になって来たのだ、行き先だけでも教えておこう。
「俺達は、この後クルトスで一度補給をしてからタジキルニア連邦国に行こうと思ってます」
エドガーは少し考えてから何かを思いついたかのように口を開いた。
「おぉ、そうか! それでは、クルトスまで一緒に行かないか? 我々もクルトスで補給してから神都に向おうとしていたのだ!」
その考えを聞いて、心配性のクレルシュタインも賛成なのか首を縦に振っていた。
「えっ? クロム鉄騎団の団長さんが私達と来るって言うのかい? いいじゃないかい! 人は多い方がいい! 何かあった時にも人が多い方が対処しやすいってもんさね!」
晴明も賛成のようだ。
「えっ、ほんとですか? えっ、えっ」
ルクレティアは状況を飲み込めていなかった。
「クルトスまでの短い間だけどよ! こいつら頼んだ!」
ゴッチさんは泣きながら喜んでいた。
「そうと決まったら、とっとと出発しようぜ! こんな所で油売ってても仕方ないからよ!」
「そうだな、じゃあゴッチさん! 全て終わったら絶対に戻って来るよ!」
まだ街と小鬼が晴明の膝から起きていないうちに7人はアリトスの街を旅立った。