ep.7 旅立ち
夕暮れに染まる共同墓地で、ローブの男達を大きく空いた墓穴に入れている。
「こりゃ酷くやったもんだ! 丸焦げだぞ! 晴明か? ったくよぉ!」
夕暮れが刺して黒く光る頭はまるで後光が差しているみたいに綺麗だった。
「私じゃないよぉ! まぁ、私も黒こげには出来るさね。でもね! こんなに綺麗に真っ黒には出来ないさ!」
「てことは小太郎だな? 次はもっと手加減しろよぉ? 店が燃えちまうからな!」
その話が出たら空気が重くなるのを感じた。
それもその通りだ、俺たちのせいでゴッチさんに迷惑かけてるのだから。
「気にすんなや! なっ! 所詮こいつらなんて偶像崇拝しか出来ないんだろう? 好きなもの聞かれたら、アーメン、ハレルヤ、ピーナツバターって答えるやつらだぜ? なんとかならーな!」
神王教徒の死体を共同墓地に入れ終わったら、ゴッチさんはいつも耳に挟めているタバコに火をつけた。
「心ばかりの手向けってやつだな。それじゃ行くか」
みんなは馬車に乗り込んでルクレティアの住所を聞いた。
「メリル雑貨店の横です」
馬車は石畳の道を蹄の音を歩き鳴らし、ルクレティアの家に着いた。
俺たちは馬車を降りて、ルクレティアの家に入った。
「スッゲー数の本だなー!」
「叔父の趣味だったんです」
家に入ると、見たことの無いような本が本棚いっぱいに並んでいた。
「叔父の研究室は地下になります」
ゴッチさんを残して俺たちは地下室へ降りた。
そこには、錬金術で使うフラスコやビーカー、試験管と研究書などが整理整頓されて置いてあった。
「研究室って、もっと雑な感じかと思ってたよ」
俺は昔に見たアニメの研究室を思い出してた。
「叔父は物凄い几帳面な人だったので」
「晴明とは大違いだな!」
小太郎は笑っていた。
晴明は典型的な片付けられない女という部類の女性だ、その為いつも絶鬼が研究書や霊符を片付けている。
「私も、やろうと思えばやれるさね!」
晴明の恥ずかしさを隠すような言い訳を聞きつつ、ルクレティアは探し物を探していた。
すると、鍵のかけられた箱が置いてあり、その箱には「ルクレティアへ」と書かれていた。
「これは……」
中から出て来たのは白銀に輝くプレートと小手、赤毛で肌触りの良いマントだった。
ちょうどそのタイミングでゴッチさんが上から降りて来て、プレートとマントを見に来た。
「おまえ、この白銀の輝きと赤毛でこの艶やかな毛質。これは幻の鉱石ミスリルを使った装備と、幻獣赤毛獅子のマントじゃねぇか。今まで生きて来たけど始めて見たぜ…」
ゴッチさんいわく、銅のように打ち延ばせ、ガラスのように磨ける。銀のような美しさだが、黒ずみ曇ることがない。ドワーフの称号を手にした鍛冶屋にしか、これを鋼より強いが軽く鍛えることが出来ないという。
「俺も、ミスリルに憧れて軽金属を専門に鍛えて来たけど。これが本物のミスリルか!」
するとまだ中には何か入っていた。
「これは鉱石術で使うダイヤモンドとエメラルドとサファイアと、水銀術で使う水銀です。しかもこんなに大量に。あとは、手紙?」
ルクレティアが手紙を開いて読んだ。
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君がこの手紙を読んでいるという事は、私はもうこの世にはいないだろう。
心して聞いて欲しい、君の両親と私を殺したのは神王教団だ。
私達は、過去に神王教団の研究室で研究をする錬金術師だった。
だが、ある教皇のある秘密を知ってしまった。
秘密を知ってしまった私達は、夜逃げ同然に研究室を離れ、遠い異国タジキルニア連邦国領グリスタンに隠れ住んだ。
だが、そこにも神王教団の魔の手が伸び、私達は選択を迫られた。
また逃げるか、戦うか。
私は逃げてしまった、君の両親は戦うと言ってグリスタンに残ったが、私は君を連れてこのアリトスの街へ逃げてしまったのだ。
君の事だから、もし君に心強い仲間が出来ているなら、グリスタンの君の両親の隠れ家に行くと思う。
だから、ここに君の母親から預かったミスリルの防具と、赤毛獅子のマントを一緒に入れておく、君の専攻錬金術の鉱石術と水銀術で使う触媒は私からのささやかなプレゼントだ。
君がもし1人でこの手紙を読んでいるとしたら、私達の事は忘れ、遠くに逃げて欲しい。
それが、君の為になる。
もし君に心強い仲間がいるとしたら、グリスタンにいるキッケルという女性を尋ねるといい。
愛するルクレティアへ
テオフラストゥス・ホーエンハイムより
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ルクレティアはその手紙を読んだ後、泣き崩れた。
その姿を見て俺はある決心をした。
「ゴッチさん、俺はこのアリトスの街を離れようと思う」
思っていた事は皆、同じようだった。
「爺さん、俺もアリトスを離れようと思ってるんだ」
「私も小太郎が離れるならついて行くよ」
その言葉を聞いてゴッチは何かに納得したような表情だった。
「お前ら、この手紙を読まなくてもそのつもりだったろ?」
「そうです、さっきの魔女狩りの件で決めてました」
「まぁ、俺たちがいたら爺さんとエリンにも迷惑かけちまうからな!」
「何も私等、一生帰ってこないって言ってるわけじゃないしね。神王教団潰してさっさと帰ってくるよ!」
ルクレティアはその話を聞いて俺たちの顔を見回していた。
「お前等が決めた事だ、俺に止める権利なんてねぇ。だが一つだけ約束してくれ!」
ゴッチさんは腕組みしたまま俺たちに約束させた。
「全員無事に帰ってきて、また下弦亭で大騒ぎをしよう! 今度はそこのお嬢ちゃんも一緒にな! お前等はもう俺の大切な家族だからな!」
ゴッチさんの目には涙が滲んでいた。
「大丈夫! 俺等、転生人だぜ? そう簡単に死なねぇよ! それより爺さんが死なねぇかが心配だぜ!」
「そうだねぇ、ゴッチは私よりも歳上だからねぇ! 気をつけないと」
さすが隊長をしている小太郎と、年の功を持っている晴明、こういう時に空気を和ませる術をしっている。
「そうと決まれば善は急げだ。帰って飯食って荷造りしやがれ!」
俺たちは話しを早く解決したが、ルクレティアはついて来れていなかった。
「皆さん、本当にいいんですか? 私なんかの為に……」
状況が飲み込めていないようで、多少困惑しているのがわかった。
「俺たちが決めた事だから。グリスタンにでも地獄の底まででもついて行くよ」
「宗寛さん……」
俺は、ルクレティアの手を取り起き上がらせた。