ep.6 忍法と鬼
店の外には20人余りの、武装したローブ姿の男が連なっていた。
「銀の髪と黒い甲胄にマント、珍しい形の剣を帯刀。赤い髪と黒い服に銀の胸当てと小手、口当てそれに、先の男と似た剣と分銅鎖のついた鎌。長い黒髪、黒い背高帽と白と紫の服に、それは鉄扇か? なるほど、貴様らがウィッチー1名とそれに加担する2名か! もう1人はどうした! 緑色の髪の錬金術師がいるはずだ! さては匿うつもりか!」
リーダー格の男が羊皮紙に書いてある事を確認しながら大声を張り上げている。
「お前らは知らなくていい事だ、あんまり大きい声で叫ぶな。今は夕食時だ、近所迷惑になるだろ」
俺はこの男達を許せなかった。
この世界に飛ばされてから、お世話になってるゴッチさんの孫娘のエリンと、いつも減らず口を叩くご主人様大好きな式神の小鬼を泣かせた事に、身体中の血液がグツグツと沸騰し、今にも吹き出してしまいそうになっていた。
「あんた達、私の可愛い式神を泣かした事を後悔しなよ」
晴明もまた同じ気持ちだろう。
晴明の周りには、いつもとは違う空気が漂い、その場所だけ歪んで見えた。
「ええい! 減らず口を! 教団に逆らう者には即刻死の鉄槌を! 行けぇ!」
リーダー格の男が、横に居る剣を持った男に指示を出した。
すると男は剣で俺の胸元を突いてきた。
だが男の突いた一撃は、チタニウム合金で出来た漆黒の鎧に弾かれその場で止まった。
「腰が入ってねぇんだよ。剣っていうのはな、こう使うもんだ!」
その瞬間、剣を突いてきた男の肘から上を斬り上げ、斬られた腕は地面にポタリと転がった。
「うわぁぁぁぁああ!」
男の断末魔のような叫び声は周囲に広がり、周辺民家の窓からは顔を出している者まで居た。
「貴様ら! ふざけた真似をして! 神に背くのか!」
妄信的な信仰には見上げた物がある。
その妄信的な信者を斬らせろ斬らせろと刀が血を欲していた。
「許せん! 許せんぞ! 貴様らをこの店ごと燃やしてくれる! やってしまえ!」
その声と共に、敵の杖を持った5人の魔導師が火炎魔法を一斉に放った。
炎は店と俺たちに向かって一直線に飛んで来る。
「オン・コロコロ・センダリ・マトウギ・ソワカ 急急如律令」
晴明が呪文のような言葉を発し、セーマン五芒星を切ると、店の周りにバリアのような物が広がった。
魔導師達が放った火炎魔法がそのバリアに当たると、跡形も無く消えてしまった。
「な、なんだと…… 何故だ! 神王教団の魔導師は粒ぞろいのはず……」
敵の男達は、目の前の事を信じれずにいるようだった。
「お前ら、目に見えない神は信じるくせに、目の前の事には目を逸らしたがるんだな。本物の焰ってのを食らわせてやるよ!」
そう言うと小太郎は、その場から斜め上空に飛び指で孔雀印を結び、そこに自分の息を吹きかけた。
すると、手のひらから燃えさかる火炎を出し、敵4人ほどを焼き殺した。
「火遁 孔雀明王印」
小太郎の出した焰を見てローブの男達はたじろいだ。
「貴様ら何者だ! いったい、いったい何が起きた!」
俺達は男の質問に答えた。
「なに、私らはただの陰陽師と」
「忍者と」
「剣豪だ」
俺は般若の鉄仮面をつけて、近くの男の首を斬り落とした。
小太郎も鎖鎌を使い、相手を次々と沈め始めた。
「青龍・白虎・朱雀・玄武・勾陳・帝台・文王・三台・玉女 急急如律令、四獣、神人、星神、あんたら少し力貸しな! 出番だよ覇鬼!」
晴明が陰陽九字を切り、人形の札を投げるとそこに大きな五芒星が出現し、その中から3メートルはあろうかという頭に角が二本生えた巨大な鬼が現れた。
「ご主人! 命令は?」
覇鬼は頭を掻きながら晴明の指示を待っていた。
「そうだねぇ。あんたは久しぶりに出したからねぇ。派手に暴れな!」
「あい!」
そういうと覇鬼は自分の角を取り、力を込め出した。
すると角はみるみる大きな戦斧に変わり、それを振り回し教徒共をなぎ倒した。
まるで鬼のような強さの覇鬼は、まごう事なき鬼だった。
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「神王教団に…… 教皇様に…… 祝福あ……」
男はそのまま地面に倒れ絶命した。
「やっと終わった。神王教団、魔女狩り。なにかありそうだな」
俺は刀身に着いた血を落とすために下に振った。
晴明も覇鬼を霊符に戻し終えたところだった。
「とりあえず、これを片付けないとな」
店の前には魔女狩り達の死体が所狭しと転がっていた。
「とりあえず、共同墓地に運ぼう」
するとゴッチさんが裏から馬車を持って来てくれ、その横にはルクレティアが乗っていた。
「店守ってくれてありがとよ、こんな事しか出来ねぇけど手伝うぜ」
じじいの恥ずかしがって居る姿なんて見たくも無かったが、2人の無事な姿を見て安堵した。
「爺さん、エリンと小鬼はどうした?」
死体を馬車に詰め込んで居る時に、2人がいない事に気づき小太郎が問いかけた。
「2人なら店で寝てるぜ! 絶鬼が側についてくれてるし安心だろう」
あの後ずっと泣いていたんだろう、泣きつかれても仕方ない。
「さぁ、出発するぞ」
死体を全て積み終え、一同は共同墓地に向け出発した。
すると行きの道中にルクレティアからお願いされた。
「帰りに、私の。いえ、叔父の家に寄って貰えないでしょうか…… 持って来たい物がありまして」