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ep.5 魔女狩りと錬金術師


「勝鬨をあげよー!」


 男達は、狂乱の中で喜びを叫んだ。

 ある者は踊り狂い、またある者は涙した。


----


「あー、腹減ったー! 十兵衛、早く帰ろうぜ!」


「あぁ、流石に二週間は応えたな。早く鍛冶屋に戻ろう!」


 死霊の軍勢が、アリトスの街を襲撃しようと進軍してきたのを食い止めるため、俺と小太郎の所属する傭兵団、クロム鉄騎団は二週間の長い戦を終え無事に帰還して帰路に着くところだった。


「魔女だー! 邪教徒の魔女を逃がすなー!」


 アリトスの街では聞きなれなく、なんとも耳ざわりの悪い言葉が聞こえてきた。


「神王教団の奴ら、街では最近見てなかったんだけどな。俺らが死霊の奴らと戦ってるって知って、また性懲りも無く湧きやがった。死霊よりもたちが悪い」


 小太郎は、前に一度。

 魔女狩りにあっていた晴明を救けるために、神王教徒による魔女狩りに遭遇してる。


「俺も、初めて出くわすが。いい気持ちにはなれないな」


 その時、何人かに追われている少女が、走って来た。


「誰か…… たすけて……」


 すれ違い様に、少女の口から放たれた蚊の鳴くような声を聞き、この少女が魔女狩りにあっているのだとわかった。


「そこの魔女を捕まえろー! 見逃すとお前らも同罪として死刑だぁ!」


 狂ったように叫び続けるローブ姿の男達が追いかけて来ていた。

 それを見た俺は、とっさに少女の腕を捕まえた。


「ついてこい!」


「えっ! でも!」


 少女は困ったように一瞬考えていた。


「困ってるんだろ?」


「は、はい。でも私を救けたらあな……」

「小太郎! そいつらの足止めしてくれ!」


 それだけを小太郎に伝えると、俺は少女の腕を掴み路地裏へと逃げ込んだ。


「あぁ、隊長使いの荒い副長さんだこと!」


 路地裏に逃げ込んで、少女からなぜ追われているのか事情を聞こうとしていた。

 だが、その逃げ込んだ先にも違う追っ手が現れ袋の鼠状態になってしまった。


「クソっ! お前らは一体なんなんだ!」


 追って来ていたローブ姿の男の1人が、答え出した。


「我らは、神王様に使える聖教者! そこに居る邪教の魔女を捕まえるために来た! だからその魔女を差し出せ! さもなくば!」


 狂ったローブ姿の男は、いきなり懐から短刀を取り出した。


「なるほど、理由も曖昧で、しかも力づくって事か。お前ら、忘れてるようだから言っておくが、このアリトスの街は完全中立地域。そこに宗教沙汰を持ち込んでいいと思ってるのか?」


 腰に帯刀している刀の柄に手をかけて、ローブの男達に忠告をかけた。


「うるさい、うるさい、うるさい! 教団に仇なす者には死を! 無神者には怒りの鉄槌を! 黙ってその魔女をよこせぇぇ!」


ローブ姿の男は短刀をこちらに向けて襲いかかって来た。


「下がってろ!」


 少女に声をかけ少し間合いを取らせた。

 次の瞬間、少し高いような金属音が小さく鳴ったと同時に、ローブ姿の男の首が地面に転がっていた。


「柳生神陰流居合い抜刀術 瞬速(しゅんそく)太刀(たち)


 それを見た他の神王教徒達は、恐怖のあまり散り散りに逃げ出そうとしていた。

 すると、遠くから鎖のついた分銅が神王教徒の頭に当たり、鈍い音と共に身体を支える力を無視して倒れた。

 それと共に、少女もその場にヘタレ込んでしまった。


「わりぃ、遅れた! そして逃しちまった!」


 声が聞こえた方に視線を向けると、鎖鎌を持った小太郎が立っていた。


「しかし、いつ見てもその技、剣筋が見えないわ! 一瞬で鞘に戻ってるし」


 小太郎は俺の技を見て、感心をしていた。


「さっきの連中は⁉︎」


「全員倒して来たよ! あとはさっきの2人だけ!」


 小太郎はこちらに向けてピースサインをしている。

 俺は、ヘタレ込んで居る少女を支え起こした。


「小太郎、ありがとう! 君も今日、帰るのは危ないだろう。一緒に鍛冶屋にこないか?」


「そうだな! ナイスアイディアだ! あそこなら安全だ、もしかしたら街で一番安全な場所だ!」


 少女は俺たちを見て困っていた。


「あ、そうだった! 自己紹介がまだだったね! 俺は、クロム鉄騎団 特別1000人遊撃隊副長 柳生十兵衛 宗寛、好きに呼んでくれ!」


「俺は、クロム鉄騎団 特別1000人遊撃隊長 風魔小太郎 時定、小太郎でいいよ!」


 俺たちは軽く自己紹介を済ませると、少女も小さな声で自己紹介を始めた。


「えぇーと、錬金術師のルクレティア・フォン・ホーエンハイムです。神王教団からウィッチーとして魔女狩りを受けていました。救けていただき有難うございました」


 ルクレティアという少女は深々と頭を下げている。


「いやいや! 頭を上げてくれ! 俺らは別にそういう為に戦ったんじゃないよ。っていうか俺も昔困ってた所を助けられた事があるから、見過ごせなかったんだ」


 その話を聞いて、小太郎は腕を組み深く頷いていた。


「だから全然気にしなくていいよ! とりあえず腹減ったから、鍛冶屋に行こう」


 その話しを聞いてルクレティアは、俺たちと一緒に鍛冶屋に向かった。


----


 見慣れた店の前に着くと、小鬼とエリンが外で遊んでいた。


「よっ! ただいま!」


 小太郎が2人に挨拶をすると、2人から睨み返されていた。


「ど、どうしたんだ? 2人してそんな怖い顔して」


 小太郎は、睨みつけてる2人にもう一度声をかけた。

「今商談中なのよ! まとまりそうなんだから話しかけないでよ!」


「なんの遊びをしてるんだ?」


 小太郎のメンタルはエリンにポッキリ折られていた為、変わって俺が質問した。


「模擬先物トレードじゃねーですか! 見たらわからねーです?」


 エリンが思いつきそうな遊びだと、納得した。

 すると、店のドアが開き陰陽装束に身を包んだ晴明が様子を見に来た。


「あら、お二人さんおかえりなさい! 何? その女!」


 初対面の人に、いきなり敵意むき出しの女狐を止めなければ、面倒な事になると思い。

 とりあえず、店に入れてもらい、帰りがけに起きた事の内容を晴明に説明した。


「なるほどねぇ…… 最近、あんたらがいなかったのに街が騒がしかったのは、またあいつらが騒いでたからなのかい」


 晴明もここに来た当時に神王教団の魔女狩りにあっているから、大体の予想はついただろう。


「でもあんた、あいつらに目をつけられるって事は、結構な腕の錬金術師なんじゃないのかね? それなのに、なんで逃げてばかりなのさ!」


 それはそうだ、魔女狩りに目をつけられるなんて、相当の事をしでかさないと目をつけられない。

 しかも完全中立地域の街アリトスで追いかけ回されるなんて、晴明も含めて何をしたんだ。


「じ、実は凄い錬金術は、私じゃなく叔父なんです。 2カ月前に神王教団の方から徴収がかかって行ったきり連絡がないんです。筆まめな人なので、手紙も馬飛脚もよこさないなんて、変だと思い調べていたら、ある事を知ってしまって……」


 ルクレティアは、今にも泣き出してしまいそうだったが、話を続けた。


「実は、私の両親も錬金術師だったのですが。 幼い頃に叔父の所に私を預けて、失踪してしまったのです。これは、叔父の研究室を調べていた時に、たまたまわかった事なんですが、両親と叔父は元々神王教団の同じ研究室で、錬金術の研究をしていたみたいで、神王教団の教皇が何故、800年以上も生きられ続けて居られるのか、の研究をしていたのです。そして何かを知った両親と叔父は神王教団を退団し、研究室を離れ両親は神王教団と戦う事を選び、叔父は研究を進めながら私を錬金術師へと育て上げてくれたのです。そうしていたら突然、神王教団の魔女狩りが来て襲われている所を宗寛さんと小太郎さんに、助けていただいたのです」


 ルクレティアは話し終わり今にも決壊しそうな涙を必死にこらえている。


「なるほどねぇ、それで逃げるのに精一杯で応戦できなかったって事なのね?」


 晴明の言葉を聞くなりルクレティアは急にモジモジし出した。


「じ、実は……」


「どうしたのさ? そんなモジモジしちゃって」


 ルクレティアは顔を火照らせ話し始めた。


「実は、家に術具を忘れて来てしまって……」


 晴明はそれを聞くと、大笑いをした。


「あんた、それでも本当に術師かい⁉︎ 術師が術具を忘れるなんて、陰陽師が霊符忘れるのと同じだよぉ」


 ルクレティアはまたモジモジし出した。


「あんたの術具はなんなのさ?」


 ルクレティアが口を開けようとした時、勢い良くドアが開き小鬼とエリンが飛び込んで来た。


「ごしゅじーーーん! 外がやべーんです!」


 小鬼が晴明に飛びつき泣きべそをかいている。


「どうしたんだい? 泣きべそなんてかいて」


 顔をグジュグジュにした小鬼がジェスチャーを入れつつ説明した。


「俺とエリンで、模擬先物トレードをしてたら。 へんな毛布みたいのを被った奴らが来たんです。 そしたら、おらー! って急に言いだして。 商談中の物を蹴ったんです! ぜってーに許せねーんです!」


 興奮しすぎてて、小鬼の説明では何も理解が出来なかった為、俺はエリンに聞き直した。


「エリン、どうしたんだ? 詳しく教えてくれないか?」


 エリンも泣きそうになっていて、必死に涙をこらえてる。


「私と小鬼が遊んでたのわかるよね? そしたら、急にローブを着た人達が来て、ウィッチー2人と同罪者2人を連れて来いって言われたの。そんなの知らないって言ったんだけど。そうしたら、神王教団の魔女狩りに逆らったらこの店ごと燃やすって……」


 その話を聞いた瞬間、空気が一瞬にして凍りつき、俺を始めとする話をしていた者達から笑顔が消えた。


「ありがとうエリン! 良く頑張ったね! さすがはお姉ちゃんだ!」


 俺がエリン、小鬼とルクレティアを店の奥の部屋に連れて行っていると。


「ゴッチじいさん。子供達をよろしくな。絶対外に出すなよ?」


「あぁ、任せろ! あの子達は俺が必ず守ってみせる!」


 小太郎がゴッチさんに子供達の指示をした。


「絶鬼、あんたも店の中を守ってあげて。敵が来たらあんたに任せるわ」


 各々がする事を終えて店を出ると、そこには約20人のローブ姿の神王教徒が待ち構えていた。


「我々は、神王様に仇なす者を排除する。ウィッチー2名、それに加担する同罪者2名。貴様らは死刑、生きたまま火あぶりの刑だ!」

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