ep.2 クロム鉄騎団
光の中からクロムウェルという男が出て来て、話をかけてきた。
「君、なかなかの腕じゃないか。とりあえずはゆっくりしていきなさい。あっ、好きな物を食べるといい! 後で、話をしよう。ジャミトフ、来なさい 」
ジャミトフはいじけた様な様子で、クロムウェルと2階に上がって行った。
話が出来るとわかり、俺は言われた通りに席に座り、食べ物と飲み物を頼もうとウエイトレスの女性を呼んだ。
「すいませーん!」
呼んですぐに脅威的な大きさの舌打ちと共にウエイトレスの女性が来た。
「何? 早くして!」
「あ、適当に何か食べ物と、ノンアルコールの飲み物を下さい!」
それを聞いたウエイトレスの女性は、面倒臭そうに舌打ちをして、厨房の中に消えた。
「いったい何が、出てくるんだろうか……」
出てくる料理や、クロムウェルとジャミトフの様子も気になったが。
先に、さっきの決闘の最中に気になった視線を探す事にした。
だがそこにはもう既に気配は無かった。
「くそー、何だったんだ?」
「ジャミトフ倒すなんてすげーじゃん。やったね! スカッとしただろ!? 俺、アイツのこと嫌いだったけど、傭兵団メンバーだから殺ってやれなくてさ! お前、柳生 十兵衛って言うんだっけ? 剣豪なのか!」
慌てて振り向くと。
話を掛けてきたその男は、いつの間にか横の席に座っていた。
この男は柳生の名前をしっている。
「そうだけど。柳生を知ってるのか?」
こちらからも質問をしてみた。
「知ってるよー! 俺、転生人だし! お前も転生人だろ? いつの時代? 柳生だから……」
話の最中に物凄い爆音の舌打ちが聞こえた。
両手に、白身魚のフライとフライドポテトの入ったバケットと、樽のようなジョッキを持ったウエイトレスの女性がそこに立っていた。
「食いな! そしてお前は死ね! 小太郎!」
バケットとジョッキは乱暴にテーブルの上に置かれた。
「うわー、マジかー! ウエイトレスに死ねって言われたー! あっ! これ、もーらいー!」
ウエイトレスの女性は舌打ちしながら消えていった。
そして、白身魚のフライを1つこの男に取られてしまったが、俺も1つ食べてみた。
「お前、小太郎って言うのか? これ、うまっ!」
「美味いだろ? てか、バレてるー! まぁいいか、自己紹介しておこう! 俺は、風魔忍者 現頭領 8代目 風魔 小太郎 時定! 普通に風魔 小太郎でいいよー!」
少し目がキツくなった気がした。
「で、お前いつの時代から来たの?」
やはり、この話は重要なのだろうか。
「西暦2020年ですけど…… これってやっぱ重要な……」
「なーんだ! 俺の時代の一年先か! って事は、俺が来たのが一年前だから。うっわ! 俺と同じ時代じゃん! うわぁー! ないわー!」
小太郎は、俺が同じ時代の人間だと言うことに落胆していた。
「そんなにまずかったか? 俺が2020年の人間だって事が」
そう、ビクビクしながら聞くと
「いや、知り合いの転生人と晩飯のおかずを賭けてただけなんだ! もし次、転生人が現れたらいつの時代の人間かって。ん? 待てよ? もしかしてアイツ占いやがった! クソー!」
なんとも的外れな答えが返って来たが、まだ転生人がいるという事がわかっただけ収穫だった。
「転生人が他にもたくさんいるのか? 俺たち以外にも」
小太郎は眉をピクっとさせて、またフライを取り、食べながら指折り数え答えた。
「いるけど沢山ではないな! 俺とお前と、もう1人!」
三本立った指が、こちらに向けられている。
「この後エドガーと話すんだろ? 終わったら合わせてやるよ! もう1人に! たぶん聞きたい事もあるだろうし。戦ってる最中にキョロキョロしてたもんな」
そうだ、あの視線の正体が気になるところだが、今はこの世界に飛ばされたのは自分だけじゃない、という事を知り安心してしまったのか、急にお腹が減りだした。
「とりあえず食っておけよ! 腹が減っては戦は出来ねーからな!」
それからは、小太郎と少しの間たわいもない話をした。
好きなバンドの新曲の話や、好きな女優の結婚話など、とにかく気を紛らわせられれば、なんでも良かった。
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食事を終え、小太郎と話していると、強面の男が俺を呼びに来た。
「エドガーが呼んでいる! 来い!」
その男の顔を見上げ、覚悟を決めて席を立ち上がった。
「わかった!」
男に引かれ歩いていると、先程クロムウェルに呼ばれていたジャミトフがこっちを睨んで居る事に気がついた。
その熱視線を無視して、強面の男と2階に上がった。
「良く来てくれたね! そこに掛けてくれ!」
クロムウェルは、俺が目の前の席に座るように勧めてきた。
「さっきはご馳走でした。俺、柳生 十兵衛 宗寛 って言います!」
食事をご馳走になった事と、自己紹介をした。
「なになに、べつに構わないよ。こっちも自己紹介をしよう。 私はこのクロム鉄騎団 団長のエドガー・クロムウェルだ、エドガーと呼んでくれ」
エドガーはそう言うと、手を出して握手を求めてきた。
先程の印象とは全く違う、物腰の柔らかい好青年という印象を受けた。
「よろしく 」
俺はその手を握り、握手をした。
「それはそうと、さっきの決闘なのだが……」
やはりお咎めなしとはいかないだろう。
仮にも傭兵団のメンバーに刃を向けてしまったのだ、ある程度の覚悟はして来た。
「あの、すみませんでした。 少し頭に血が登ってしまって……」
「ハッハッハハッハッハー!」
エドガーは急に高笑いをしだした。
「あぁ、すまん、急に君がおかしな事を言うから!」
どういう事だ? 話が全く理解できない。
「ここは弱肉強食、別に咎める事なんて何も無い。 しかも聞いたところによればケンカを売ったのはジャミトフって言う話しじゃないか! それは自業自得だ! 誰も君を責めたりはしない 」
じゃあ何でさっきの話をしたのか。
聞こうとした時、エドガーが既に質問をぶつけて来ていた。
「あの闘いかたはどこで? あれはジャミトフの剣を奪い、使っていただろう?」
やはり技についての質問だった。
「あれは柳生神陰流 無刀取りという相手の力を使い、剣を奪い、瞬時に首を切り落とす。という柳生神陰流剣技の一つです」
その言葉にエドガーは驚いていた。
「ジャミトフの首が繋がっていてよかったよ! その柳生神陰流なのだが、それは剣術なのか? 君は何歳だ? この手の顔は年齢がわかりづらい 」
日本人は年齢が識別しづらいと聞いた事があるが、それは本当のようだ。
「はい、剣術で間違いありません。3代目 柳生 十兵衛 を継承させてもらってます。そして、年齢は17になります」
年齢を聞いた時は、エドガーの眉もピクっと動いたのが見えたが、それ以外顔には出さなかった。
「その柳生 十兵衛と言う名は、屋号みたいな物なのか?」
さすがこれだけの荒くれ者達をまとめあげているだけの事はある。
質問が的確で、情報をぐいぐい引き出される。
「そうですね! 〇〇 何世みたいなもので、柳生神陰流の正当継承者の証です」
エドガーは頷きながら何かを考えている。
「なるほど、君はなかなかの手練れと見える、何かわからない事があって傭兵団を探しにここへ来たのだろう? ならばどうだ? このクロム鉄騎団に入ってみないか? 17歳だったら、小太郎といううるさいが気の合いそうな奴もいる。金にも困らないし、働きながら探している事がわかるかもしれない 」
この返事は二つ返事でしてもいいものなのか一瞬迷ったが。
金も無ければ住む家もない、身寄りもない俺に情報を集める術は限られていた。
「わかりました。お世話になりながら探してみようと思います。 ですが、仕事内容とはどんなものなんですか?」
「ハッハッハハッハッハー」
またエドガーの高笑いが響き渡った。
「戦争だよ! 傭兵団なんだから当たり前だ」
「えっ……? 戦争ですか? 闘うんですか?」
エドガーは何かに気がついたのか話を始めた。
「あぁそうだ、最初の方は武器、防具類の貸し出しはするが。稼いだら、自分達で揃えてもらう事になっている!」
ちょっと待ってくれ、井の頭公園では戦乱の時代に生まれたかったと願っていたが。
あれは飽く迄妄想の世界の話し。
なんの心の準備も無く戦乱の世に投げ込まれても、真っ白になるだけだ。
そうしているとエドガーの声で現実に引き戻された。
「私からの話は以上だが。君からは何かあるか?」
この言葉で思い出したが、せっかくエドガーと話す機会が出来たのだ。
この際に全てを相談しようと思い、ここまでの経緯を全て話した。
するとエドガーは頷きながら口を開いた。
「なるほどな。君もやはり小太郎達と一緒の転生人なのだな」
そのあと、小太郎が1年前、今が神王歴856年という事を教えてもらったから、つまり神王歴855年にこの世界 [モントデルニック] に来た事や、そこでもう1人の転生人に出会った事など色々な事を聞いた。
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エドガーとの話が終わり。
「住むところは手配したから!」
と、小太郎に言われ、やや強引にそのまま連れられて俺と小太郎は酒場をあとにした。
少し歩くと一軒の店の前についた。
「ブラックスミス、ゴッチ? 鍛冶屋か?」
「 そう! ここにもう1人の転生人が居るのと! 俺達の家だ!」
するとその声を聞きつけてか、中からスラっとした神主の様だが頭から一本角が生えた青年が現れた。
「おかえりなさい小太郎」
「はいよ、ただいま!」