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ep.10 奴隷解放


 俺とエドガーと晴明と絶鬼は、小太郎達と分かれてハイデリッヒ辺境伯邸へと向かっていた。


「ここがハイデリッヒ辺境伯邸か、デカイな」


 やはり貴族の家となると、とてつもなく豪邸だった。


「とりあえず中に入ろう」


 中に入ろうと門の前に立ったが、貴族の屋敷には門番がいると思っていたが誰一人としていなかった。


「おかしいですね。辺境伯の爵位を持つ人の屋敷に門番が立っていない。そんな事はありえないと思うのですが」


 エドガーは首を傾げていた。

 その姿を見てか、晴明が屋敷の門に手をかけた。


「ここで止まって居ても前にゃ進めないよ! ここまで来たんだ、ハイデリッヒとかいう奴の面を拝もうじゃないさ」


 そう言って晴明は門を開けてズカズカと中に入って行った。


「おい、待てって! 絶鬼! 止めなくていいのか?」


 絶鬼は苦笑いをしながら晴明の後に続いて歩いた。


「こうなった晴明様は、もう止められませんから」


 その後ろをエドガーも笑いながらついて行った。


「どうなってんだよ!」


 仕方なく俺も後に晴明の後に続いた。


 少し歩くと屋敷の玄関のようなオークドアが見えた。

 ドアには獅子のレリーフのドアノッカーが装飾されており、オーク材と見事にマッチして居た。


「私がノックしよう」


 エドガーは獅子のドアノッカーを勢い良く打ち付けた。辺りには大音量の金属音が響いた。


「すみません、私、クロム鉄騎団の団長エドガー・クロムウェルと申します! ドアを開けて頂けないでしょうか!」


 反応がなかったので、もう一度これをくりかえした。

 すると中から声が聞こえて来た。


「あなたは何者ですか? ご主人様に何用ですか?」


 中からは、怯えたような子供の声が聞こえて来た。


「私はクロム鉄騎団団長エドガー・クロムウェル! 私を含め4人で、ハイデリッヒ辺境伯様の元に街の状況を聞きに来た! ドアを開けてはくれないか?」


 その声聞き、ゆっくりドアが開いた


「領主様が呼んでおります。どうぞ中にお入り下さい」


 ドアが開くとまだ幼い少年が、ボロボロの服を着てお辞儀をして居た。

 それを見て俺たちは騒然とし中に入り、その少年に連れられ辺境伯の元へ歩いた。


「失礼致します。お客人をお連れ致しました」


 その少年は部屋のドアをノックして力のないような声で叫んだ。


「開いて中に入れろ!」


 中から中年男性のような声が聞こえると、少年はドアを開けて俺たちを中に入れた。


「少年は中に入らないのか…」


 俺は中に入りながらその光景に疑問を抱いた。


「中に入れたら早く私の視界から消えろ! 奴隷の分際で私の視界に長く入るな! 汚らわしい!」


 その中年の言葉を聞いた瞬間に少年は中に入らないのではなく、入れないのだとわかった。

 そして少年の顔を確認すると憎悪の塊のような表情で中年男性の顔を睨みつけていた。


「何か文句でもあるのか? 奴隷風情が私に楯突こうなど! 誰のおかげで生きていけてると思っておる!」


 その言葉を聞いて少年はドアを閉めてその場を去って行った。


「すまなかった! 私がジョセフ・ハイデリッヒ辺境伯だ! うちの奴隷がとんだ無礼を働いた! で君達はこの街に何をしに着たんだね?」


 エドガーは普通の顔をしていたが、あからさまに晴明の顔が曇っていた。


「お初にお目にかかります。私は絶鬼と申します! こちらがクロム鉄騎団団長エドガー・クロムウェルと柳生十兵衛宗寛、そして安倍晴明、私共は先程この街に降り立ったのですが、どう見ても街の様子がおかしいように目に移りまして、宿の主人がハイデリッヒ辺境伯様なら何か教えてくれると言っておりましたのでここに馳せ参じた次第にあります」


 さすがは晴明の代わりに交渉やそういったものをこなして来た絶鬼だ、こう言った挨拶には慣れているのだろう。


「貴様があのクロム鉄騎団の軍神か! まだ若いな! それで何を聞こうと?」


「実は私共はこの街に補給をしに来たのですが、街自体が機能して居なくて、ここで補給しないと旅が続けられなくなってしまいますのでその原因を聞きに参りました」


 その話を聞くとたちまちハイデリッヒは怯え出した。


「いきなりどうしたのさ! そんなに怯えちまって! さっきまでのあの威勢の良さはどこに消えちまったのさね?」


「あぁ、すまない。ん? その黒い甲冑に黒いマント、そして腰に帯剣している珍しい形の剣、もしかして貴様は、数々の戦さ場で武勲を上げた漆黒の鬼神! だとするともしかして、こやつらに頼めば…」


 ハイデリッヒはエドガーと俺を見て何やらブツブツ言い出した。


「貴様らに頼みたい事がある!」


 いきなりハイデリッヒは声を張り上げた。


「この街は今、死霊共に占領されている! それを討伐するために我が娘アナスタシアの騎士団、鉄蝋(てつろう)騎士団がこのクルトスに向かっている。それまでこの街を守ってはくれぬか? 討伐してくれても構わない! 褒美は好きなものを取らせよう!」


 この態度にイラッと来ているのは多分俺だけではないだろう。


「なるほど、少し仲間達と相談してもよろしいでしょうか?」


「よかろう!」


 絶鬼は決して無理をしない性格だ。

 攻める時は攻める、守る時は守る。今は攻める時なのだろう、話を一旦保留にして主導権の確保に徹するつもりだ。

 俺たちは一旦部屋から出て話し合いをした。


「と、言う事ですがどう致しますか? 晴明様、エドガーさん、十兵衛」


「その死霊共を倒さないと補給は出来ないんだろ? 簡単な話だな! こっちには対魔のスペシャリストもいる」


 エドガーは乗り気だ。


「その話は別に断る気は無いさね! (あたし)が気になってるのは褒美の方さ! 多分十兵衛も同じだろう?」


 さすがは晴明だ、時代は違えど同じ日本で暮らして居た者同士違和感を感じたのだろう。


「そうだな、多分心の優しい晴明の事だから考えてると思っていたが、やはりそうだったか! 俺は成功の報酬を3つ用意してもらおうと思っている!」


 その話を聞いて絶鬼は何かに勘付いたようだった。


「まず1つ目は、次の目的地までの物資の補給、2つ目は、ここに滞在している期間の俺たちの身の安全、そして3つ目は……」

「奴隷の解放さね」


 その話を聞いてエドガーは面食らっていた。


「待て! 1つ目と2つ目はわかる! 君達は神王教団にケンカを売ったからお尋ね人だ! だから2つ目を身の安全にしたのだろう? だがなぜ3つ目を奴隷の解放に?」


 これが文化の違いという奴なのだろう。


「俺と晴明の住んでいた日本と言う国には、昔も今も奴隷制度は無かったんです。さっき見た少年が目から離れないんですよ。何故あそこまで罵倒されなければいけないのか、勿論日本にも差別文化はありました。だけど人間は平等で無ければいけないんじゃ無いですか? だから俺は奴隷の解放を3つ目にしたんです」


 晴明は頷いていた。たぶん小太郎に聞いても同じ事を言っていただろう。


「なるほど、君達が転生する前の世界は良いところだったのだな!」


 海外には過去に奴隷制度が存在する国もあったが今は撤廃されて皆が平等の世界になった。

 この世界もすぐには奴隷撤廃はならないだろう、だが俺が関わった人は救いたい。

 時に自分を犠牲にする事があっても。


「話はまとまりましたね。それでは部屋に戻って商談といきましょう! と、その前に」


 絶鬼は紙と筆を取り出し何かを書き出した。


「これでいいでしょう」


 俺たちはまたハイデリッヒの居る部屋に戻り絶鬼が商談を始めた。


「話がまとまりました。先程のお話を引き受けます」


「左様か!」


 ハイデリッヒは嬉しかったのか身を乗り出して来た。


「ですが条件があります!」


「条件とな」


「はい!」


 ハイデリッヒはこちらの話に耳を傾けた。


「まず1つ目は、次の目的地までの物資の補給、2つ目は、ここに滞在している期間の俺たちの身の安全、そして3つ目は」


「3つ目は?」


 お安い御用だと言わんばかりに聞き返して来た。


「3つ目は、奴隷の解放です!」


「な、なんだと?」


 仰天したのだろう、言葉を失っている。


「辺境伯様は、褒美は好きなものを取らせるとおっしゃっていましたので何も問題はないかと?」


「だ、だがそれは」


 言葉に詰まって居る。動揺して居るのだ。


「この3つの報酬が約束されなければ私共はご依頼を受けません! これは4人で決めた事ですので曲げられません」


 絶鬼は頭の回転が速く、あの覇鬼も上手く使いこなして平安の京で暴れまわっていたのだ。

 やはり凄みを持っている。


「わ、わかった…… 条件を飲もう……」


「ありがとうございます! それではこちらの契約書の方に署名と血判をお願い致します」


 ハイデリッヒはその契約書にサインをして血判を押した。


「それでは私共は宿の方に戻らさせていただきます」


 絶鬼はニコニコしながらこちらに帰って来た。


「商談成立です! さぁ、相手方の気が変わらない内に戻りましょう!」


 俺たちは屋敷を来た道に沿って外に出た。


「絶鬼は凄いな! 頭がいい」


 俺の言葉に絶鬼はニコニコしながら答えた。


「私のはただの交渉術に過ぎませんよ! 作戦系統でしたら、晴明様の足元にも及びません」


 よくよく考えてみると、京の都で暴れていた3人の鬼を退治して式神にしたのは晴明だ。

 晴明の本当の力をまだ知らないのだと確信した。

 そうこうしていると宿に到着して、ちょうど小太郎達も戻って来た所だった。


「よっ! お前らも戻って来たのか! グッドタイミングだ!」


 小太郎がこっちに向かって手を挙げている。

 俺達も小太郎達と合流して屋敷であった事を話した。


「なるほど! そんな事がねぇ! こっちの事も話してやりなよクレルシュタイン!」


 小太郎はクレルシュタインに話を振った。

 やはり小太郎組はクレルシュタインが話を進めていったのだろう。


「あぁ、そうだな! 俺達は街を散策しながら情報を汲み上げていったんだが、絶対的な情報量不足と言ったところだ。家の中から人は出てこない、だから食料配達の男にしか話を聞けなかったのだが。この街に出る死霊は骸骨兵(ボーンナイト)の軍隊だそうだ。普通の死霊よりも統率が取れている分タチが悪い最悪の敵だ、しかも他の死霊共同じで、夜または太陽の出ていない時にしか出ないため視界も悪い中での戦闘になる」


 クレルシュタインの話を聞き、晴明と絶鬼とクレルシュタインで作戦を立てるように話をしている。

 決まった作戦がこうだった。

 街の各ブロック毎に1-3人を配置、小鬼は宿で待機。クルトスの街はハイデリッヒ邸を合わせて4ブロックに分かれている。

 ハイデリッヒ邸には、覇鬼を配置し。

 北ブロックには、俺と絶鬼。

 南ブロックには、エドガーとクレルシュタイン。

1番広い中央ブロックには、小太郎と晴明とルクレティア配置。

 この配置で現れる骸骨兵を掃討する作戦である。


「とりあえず夜までにはまだ時間があるから、皆は身体を休めて待機しよう! 夜明けまでは厳しい戦いになりそうだ!」


 エドガーの言葉を聞きそれぞれは各部屋に戻り軽く睡眠をとった。


----


 黒い甲冑とマントに身を包み、愛刀の斬虎を腰に帯刀してその時を待っていた。

 すると絶鬼の声が響いた。


「十兵衛、来ますよ! 気をつけて」


「ありがとう絶鬼……」


 その言葉を言って俺は白い鬼の鉄仮面をつけた。

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