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ep.1 転生

2020年 初夏

 東京オリンピックがすぐそこまで来ている事で、浮き足立った東京都。

 今日も1日の授業を終わらせ、放課後に井の頭公園のベンチで、キャッキャウフフしている、人達を見ていた。


 すると、17時を伝える鐘の音が、吉祥寺の街に鳴り響いた。


「もう、こんな時間か…… 帰って稽古の準備でもするか!」


 この世界は不条理だ、金持ちが私欲を肥やして搾取している。

 戦乱の時代は、強いものが成り上がれる時代だった。

 もちろん、階級格差はあった。

 だが、下剋上も日常茶飯事だった。

 俺の先祖、初代 柳生(やぎゅう) 十兵衛(じゅうべい) 三厳(みつよし)もそうだ。

 うだつの上がらない、田舎藩主だったにもかかわらず、天下の将軍剣術指南役にまでなったのだ。


「俺も、その時代に生まれたかったよ!」


 そう言って道場に向かって歩いていると、小さな子供が歩道から急に飛び出したのが見えた。


「マジかよ!」


 子供の先には、大型のトラックが走っていた。

 運転手は、子供の姿には気づいていない。


「おい! 坊主! 戻れ!」


 子供は、俺の声に気づいてはくれなかった。


「クッソ!」


 急いで子供の所へ走り、子供を突き飛ばした。


 その瞬間、鼓膜を切り裂く様なブレーキ音が聞こえた。


 俺が覚えているのは、ここまでだった。



----



「おーい……」


 声が聞こえる様な気がする。


「兄ちゃん! おーい……」


 やはり聞き間違いでは無い、俺は生きていたんだと確信した。


「坊主は…… 大丈夫か……?」


 意識は少しづつ覚醒していき、頭も冴えてきた、同時に気付かされたこともあった、痛みが無いのだ。

 事故の時に負ったはずだと思ったのだが、全く痛みが無い。


「坊主? 何言ってんだ? 行き倒れか?」


 この人は何を理由のわからないことを言ってるのかと不思議に思い、目を開けてみると。


「おっ! 起きた!  大丈夫かよ? 名前言えるか?」


 見たこともない服装、いや、中世ヨーロッパ風の服装に身を包んだ中年男性が、必死に話しかけている姿が目に飛び込んできた。


「大丈夫です…… えぇ、名前は、柳生(やぎゅう) 十兵衛(じゅうべい) 宗寛(むねひろ)です」


 訳もわからず自己紹介を済ませると、中年男性は珍しそうな顔をしていた。

 その反応をみて俺は、周りを見渡した。

 するとそこには、見た事の無い景色が広がっており、街の外れにある原っぱだということがわかった。


「ここは…… 何処ですか?」


「あっ? ここは、アリトスの街だよ! あんた旅人か? この街に用があるってことは、傭兵団に入りに来たんだろ!」


 聞いたことのない町の名前、旅人? 傭兵団? 

何が何だか、さっぱりわからなかった。


「あぁ、とりあえずここはあれだから、傭兵団の連中が集まってる酒場があるし、そこに行くといい! 何かわかると思うし! 下弦亭って酒場だからすぐわかるよ!」


 そう言うと、中年男性は荷車を引いてどこかへ行ってしまった。


 俺は、ついさっきまでの出来事を思い出しながら、呆然とそこに何時間も立ち尽くしていた。


「え、何でだ…… 俺はさっきまで井の頭公園にいたんだよな? そうだよ、17時の鐘がなってさ…… そう、子供だ、小さい子供、トラックにひかれそうだったから、俺が助けたんだ…… え? 何で? なんだよここは、アリトス? 何処なんだよ……」


 さっき、起こった出来事を思い出しても、何もわからなかった。

 いや、一つだけわかった事がある。

 ここが吉祥寺ではなく、アリトスという所で、それ以外は何もわからない、という事だ。

 ここに居ても、何も始まらないと思い、俺は中年男性の言葉を思いだした。


「 傭兵…… 酒場…… 行こう……」



----



  見慣れない街の中をとぼとぼと歩いていると、下弦亭という看板を見つけた。


「ん? ここの読み書きは英語なのか…… ひとまずは助かった」


 店の前で立ちすくんでいても居られなかったので、希望を探すため酒場の中へ入った。


「いらっしゃいませー!」


 女の人の声が響いた瞬間、強面の男達、ざっと数えて40人の人がこっちを向いた。


「うわっ!  なんだここ!」


 あまりの威圧感に硬直していると、大きな舌打ちと共に先程の女性とは違うウエイトレスの女性が、出迎えに来た。


「いらっしゃい!  何しに来たの?」


 ものすごく横柄な態度に思えたのだが、そこはまず気にしないことにした。


「ここに、傭兵団が居るって、聞いて来たんですけど」


「あぁ? 居るよ!」


 これは、客商売としてありの範疇なのだろうか?


「あの、どの方が傭兵団の方でしょうか」


 その瞬間、猛烈な舌打ちが聞こえた。


「そこに居る奴ら、全員!」


 言い終えてすぐに、また舌打ちが聞こえた。


「あ、ありがとうございます」


 エラいところに来てしまったと、ひとしきり後悔も終え。

 とりあえず話をしようと思い、1番近くにいた男に話をかけてみた。


「あの、すみません。傭兵団のところに行けば何かわかると聞いて来たんですが、ここは何処ですか?」


 聞き方が悪かったのかはわからないが、男は不機嫌そうにこっちを見てきた。


「あぁ?  声が小さくて何も聞こえねぇなぁ! もっと、顔近づけて話せよ!」


 声が聞こえてなかったと思い、顔を近ずけると。


「ゲッフゥ〜! 悪ぃゲップしちまった!」


 その姿を見て、周りにいた男達も一斉に大爆笑をはじめた。

 その下品なイタズラに耐えきれなくなった俺は、少しだけ頭に血が登ってしまった。


「息がくせぇぞ! 表出ろ……」


 その途端、男が座っていたテーブルがひっくり返り、その場で喧嘩が始まった。


「上等だ! こらぁ! 殺してやるわ!」


 そう言うと、男は腰に下げていた鋭利に研がれた剣を抜き、構え始めた。


「なるほどね、獲物出すわけ!」


 構えを整え、相手の振りかざした剣撃を半身で避ける。


「おい! これは決闘だ! 糞ガキ! 俺の名前はジャミトフ! クロム鉄騎団のジャミトフだ! てめぇの名前を、名乗れ! 糞ガキ!」


 今のこの状況に後悔しながらも、こういう事はちゃんとしているのだなと感心した。


「俺の名前は、柳生 十兵衛 宗寛! 柳生神陰流継承者 三代目 柳生 十兵衛だ! 糞ガキじゃない!」


 その瞬間、また剣が振りかざされ、さっき蹴り倒されたテーブルをみごとに両断した。


「だろうとは思ってたけど、真剣かよ……」


 次々に、繰り出される剣撃を半身でかわしていると、妙な視線に気がついた。

 物陰から誰かに見られている。いや監視されている? そんな気配がしたが、今はこちらに集中をしていないと生命を落としかねない。

 そっちに行きそうになった意識を、強引に引き戻し。


「使うしかないか……」


 そしてまた、ジャミトフが剣を大きく振りかざした。


「死ね! 糞ガキ!」

「今だ!」


 ジャミトフの剣が振りかざされた瞬間、俺は流れるような動きで相手の懐に入り、手首を抑えジャミトフの剣を瞬時に奪って、刃はジャミトフの喉元に当てられていた。


「柳生神陰流 無刀取り(むとうどり)



 周りの男達の視線が集まっている、例の視線もその中にあるのがわかったが確認することが出来なかった。

 その時、ドアが力強く開けられる音が耳に飛び込んできた。



「そこまでだ、ジャミトフ! その決闘、このクロム鉄騎団 団長 エドガー・クロムウェルの名により、勝負ありとする!」


 開かれた扉からは、光が射していて、その中には、白く輝く鎧を纏った男が立っていた。

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