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強制移動計画

作者: さきら天悟

「何考えてるの、この国は。

こどもを産んだのに保育園に入れてもらえないなんて。

もう、二人目は絶対、無理」


こんなSNSの投稿から、それは始まった。



慢性的な保育園不足、これに同調した国民の怒りで行政が動き出す。

国が支援し、各都道府県で待機児童のゼロの目標が掲げられた。

行政側もこれを待っていた。

保育園の新設となれば、再び箱モノ行政の好機、

水面下で文科省と厚生労働省との利権争いも始まっていた。







「よッ」と声をかけ、バーカウンターのスツールに座る男の肩を叩くと、

男はゆっくりと振り向き、「遅いぞ、藤崎」となじった。

この男を待たせる人物はそういないだろう。

次期首相候補、今や与党の有力議員の太田だった。

「名探偵の仕事で忙しいだろうがな」

もちろん、嫌みである。

今時、難解な殺人事件を解き明かすような仕事はない。


「今度はなんだ?

やっぱり、保育園不足の問題か」

自称名探偵藤崎誠は太田と官僚時代の同期で、

藤崎が探偵になった後も太田の相談に乗っていた。


「さすが名探偵。

いきなり核心を突いてくる」

太田は藤崎の能力を認めている。

でもなければ、こんな忙しい時にわざわざ時間を作らない。

「お前はどう思う」


「俺は反対だな。

保育園を増やすのは。

根本対策にならない。

逆に間違った方向に進む」


太田は大きく頷く。


「保育園不足で困っているのは、

仕事がある大都市とその周辺だろう。

そこに保育園を作ったら、

より人が集まって、また保育園の不足になる」


太田は目を細める。


「ずっと問題だった大都市集中が一層進む。

このままじゃ、日本の経済発展はない」


「首都遷都か」

真剣な眼差しで太田が藤崎を見つめる。


「理想的にはな。

東京オリンピック後、日本経済が手詰まりになることは明白だ。

首都を移し、最新技術を詰め込んだ新たな都市を造れば、

日本経済の起爆剤になる」


「それじゃあ、大阪とか無理だな。

場所がない」


「滋賀、奈良、三重、岐阜あたりがいいんじゃないかな。

新都市と関空、セントレアをリニアモーターカーで繋げて」


「最新技術?」

太田には相手の意見を自然と引き出す魅力があった。


「テロ対策のセキュリティ、自動運転、宅配システム、

1万人規模の超巨大マンション。

省エネルギー、自然エネルギーでの発電、

まだまだ色々あるがな」


「でもな~」

敵が多いからな」

太田は険しい顔をする。


「最大の敵はマスコミだろう。

自分らが活動している首都を手放したくない。

だから、首都ファーストが母体になっている新党に、

地方分権について、どう考えるか問わない。

マスコミは政権交代の雰囲気に水を差したくないのだろうが」


太田は苦虫をかみ潰したような顔をする。


「首都ファーストと地方議員の利害が

一致するとは思えない。

それをマスコミが問いただささないのは、

何か意図を感じる」


「首都遷都は無理だろうな」

太田は表情を変えずに言う。


「無いことはない。

国会機能だけ、移すという手はある。

行政機関は東京に残して。

元々、三権分立と言うんだから、

立法府と行政府は違う場所にあるべきだろう」


うん、と太田は頷く。


「でも、無理だろう。

議員やマスコミが首都を手放さない」


太田は眉間にシワ寄せる。

「やっぱり、首都遷都は・・・」


「無理だな」


「そうか」

太田は残念がった。


「でも、手がないわけじゃない」


太田はハッとする。

ここまでの話は太田も想定していた。

「どんな手だ」


「強制移住だ」



そして、強制移住計画が始まった。







「強制移住、反対」

「強制移住、反対」

「強制移住、反対」

若者、数万人が国会前をプラカードを持ち、

シュプレヒコール上げ、練り歩く。

それは法案成立後も続いた。


だが、国民のほとんどはこの法案に賛成していた。

若者も賛成派の方が多く、

反対している彼らの両親の賛成していた。


強制移住、それは大学の地方への移転だった。

国民の半分は、そもそも学問するのに、

誘惑が多い大都市である必要はないのでは?と思っていた。




この事業をきっかけに、日本に少しの明るい兆しが見え出した。

地方に学園都市が数か所できた。

それは藤崎が提唱した最新技術が盛り込まれていた。

その学園都市を中心に地方に新たな産業が生まれつつあった。


一方、大都市部でも大学移転後の再開発が行われた。


若者は地方で勉強するか、都市部の専門学校で過ごすか、

明確に分かれた。

この結果、日本の大学水準が上昇した。


数十年後、この大学を卒業した人々が日本を救うことに・・・

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― 新着の感想 ―
[良い点] はじめまして。非常に楽しく読ませていただきました。 社会問題を取り上げた小説で、異世界モノが多いなろうにおいて、新鮮な感覚で読ませていただきました。
2017/10/05 06:44 退会済み
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