妹が人を殺した
僕はごく普通の中学3年生だった。
特別なものなんて何もない、どこにでもいるような中学3年生だった。
でも、日常は急に壊れた。
妹が人を殺したのだ。
すぐに妹が犯人だとバレた。
取材の人達に追われるようになった。
妹が、ではない。
僕が追われるようになったのだ。
家に取材陣が押しかけた。
毎日、家の前に人がやってきては「人殺し」「死ね」と罵ってきた。
彼らは、彼らなりの正義感を持って罵ったのだろう。
でも、僕も僕の親も人殺しじゃない。
傷付いた。
そうこうするうちに、妹は逮捕された。
証拠が見つかったからなのだろう。
詳しくは教えてもらえなかったが、妹はいなくなった。
もう二度と家には戻れないのだと確信した。
それから、さらに"善良な市民"の正義感は大きくなっていった。
ある時、窓ガラスを割られた。
僕は中学の帰り道、バットを持った男に追いかけられた。
殺されると思った。
妹が人殺しだと、善良な市民に殺されなければならないなんて、どう考えても理解できなかった。
もう限界だった。
僕は親を置いて、逃げた。
あれから、何日が過ぎただろう。
何年が過ぎただろう。
分からなかった。
でも、僕には逃げるしかなかった。
人に出くわすのが怖かった。
人殺しと罵られることが怖かった。
だから、人目を避けて、まるで指名手配犯のように逃げ回った。
それは、ほんの偶然だった。
はじめは見間違いかと思った。
だけど、どう見ても僕の両親だった。
そこは地元の温泉街だった。
和やかな雰囲気の両親に驚いた。
なぜ僕は逃げまわらなきゃいけないのに、両親は温泉街でゆったりしていられるなだろう。
目が合った。
ハッとした顔をした両親がこっちにやってきた。
咄嗟に僕は逃げた。
行き着いた先はどこかの公園だった。
さっきの両親の姿が頭の中を駆け巡っていた。
どういうことなのだろう。
なぜ?
「g@f?tpj」
くぐもってよく聞こえなかったが、それは確かにお母さんの声だった。
「出てきて。ねえ、お願い」
どういうことだ?
恐る恐る出て行くと、母と父がいた。
それから、見知らぬ人達も何人かいた。
「もう心配いらないの。逃げなくていいの。」
お母さんは僕を優しく抱きしめてくれた。
「妹は?」
お母さんはひどく悲しそうな顔をして言った。
「妹はいないの。あなたに兄弟はいないの。」
見知らぬ人は僕を車へと誘った。
「君は病気なんだ。直さなきゃいけない。」
僕は目を覚ました。
妹が人を殺したから、逃げている。
まるで指名手配犯のように人目を避けて、逃げている。
さっきの夢のように全部が妄想だったらよかったのに。
安宿だから仕方ないが、簡素な部屋はまるで病室のよう。
だから、こんな夢を見たのかもしれない。
ドアの前で泣いているのは、兄に会いにきた少女だった。