雨、運ぶ。
薄暗いここはガサガサのコンクリートと、僕を逃がさない為の鉄格子しかなかった。
もうすぐ、あいつが夕食を持ってやってくる。
僕は雨に打たれるのが好きだった。
心地よい雨の匂いに、体じゅうを伝う雫、吹く風に凍える雨粒。
なんて良い日なんだろう。
あまりに心が躍るものだから、僕はぶつけようのないこの気持ちを弾けさせる為に駆け出そうとした。
だけど、それはかなわなかった。
もう僕は何日ここでこうしているだろう。
定期的に与えられる食事は、どれも今まで食べた事がないほどに美味しかった。
だけど僕は外の世界に戻りたかった。
こんな暗くて何もない、ただ飢餓の心配をしなくていいだけの、こんな場所。
僕の首には真新しい革の首輪がつけられていた。
ゆるくとりつけられたそれが、どんなに苦しいものか。
足音がする。
あいつが来たんだ。
食事の時間だ。
僕はどこに行けば良いのかわからなくなって、力いっぱい吠えた。
僕がもう雨と出会うことはないだろう。
きっとここから出れはしないのだから。
ご飯よ、と優しい声。
僕は嬉しいのと憎らしいのとで、小さく唸り声をあげた。
野良って懐きにくいのかしらねえ、としゃがむそいつの真っ黒な髪からは、ぽたぽたと雫が垂れていた。
そいつの体からは、懐かしい雨の匂いがした。
外は雨なのかもしれない。
僕は気がつけば尻尾を振ってそいつへと駆け寄った。
けして毛並みのいいとは言えない僕の体を、そいつはそぅっと撫でてきた。
鉄格子の中もいいかもしれない、
どこに居たって雨は変わらずやってくる。