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僕が歌う君の歌  作者: 岬ツカサ
一章 分からない気持ち、届かない声
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出来ない事

 声を失うって事は想像以上に大変だった。

 例えば、遠くにいる人を呼ぶ手段がない。

 例えば、危険な状況でも悲鳴が出せない。

 でもそれ以上に辛かったのは、感情や意志が伝えられない事だった。

 小さい頃から褒められる事と言えば歌に関する事で、歌う事は大好きだったし、それこそ息をするのと同じように、当たり前の事として歌っていた。

 歌えば、私の感情は周りに伝わるみたいだったから。歌う事でコミュニケーションが成り立っていたと思う。

 それなのに、歌うことが出来ない。

 メールとか手紙とか、方法は一杯あったけど、歌とは比べられる訳がなかった。

 私にとっての『歌』は、一番の表現方法だったから。

 嬉しい時も、悲しい時も感情が高ぶるといつだって、感情が体の内側から旋律になって湧き上がってきて、自分でも抑える事が出来ないから歌にしていた。それこそ、物心がつく前からそうしていたのだから、代わりになるものなんて見つけようがなくて……。

 告白する時に、迷いなく歌に歌詞を付けようと思ったのはそれが一番伝わると、考えるまでもなく分かっていたからで。

 自分の気持ちを――響を好きだという気持ちを伝えられるとしたら『歌』しかなかったのに、声を失っては伝えられる訳がない。

 だから、これは罰なんだ。

 受け入れて、私は罰の終わりを待った。

 六年しても私の声は戻ってこない。


 高校生になって、一つ気になることがあった。

 響の事を好きな女の子が、私たちの前に現れたことだ。

 響は鈍感で、丸々一年、彼女の好意に気が付いていない様だったけど、さすがにラブレターをもらえば伝わるらしい。

 ラブレターを読んだ時の響の顔が頭から離れなかった。あんな赤面、初めて見たから。

 あの時告白していたら、響の赤面も私が初めてになったのかな。そんな風に考えてしまう。

 ラブレターをもらった時から、響は私の反応を気にしているようだった。そんな響の様子を見ていれば、響が私の事を好きな事くらい分かる。

 響の気持ちはずっと私にある。そんな事は、ずっと一緒にいる私が一番分かっている。それだけの愛情を貰っている。

 そして響自身はその気持ちが分かっていないみたいだってことも、気付いていた。多分それは、響が無意識のうちに自身に科した罰みたいなものだと思う。

 でも、響にそれを教えてあげることは出来なかった。だって、私の罰はいつ終わりが来るのかも分からない。罰が終わらない限り、私は響に気持ちを伝えられない。

 私が待っててと言えば、響は待ってくれるだろう。大袈裟だけど、それこそ声が出ないまま人生が終わろうと、最後まで待っていてくれる気がする。

 でも、そんなのは私が嫌だ。

 それほど私の事を想ってくれている人を不幸にするなんて、私には出来ない。



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