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僕が歌う君の歌  作者: 岬ツカサ
一章 分からない気持ち、届かない声
7/25

ベルは一度だけ

 ――屋上でのやり取りから一週間。

 歌音はこれまでとなにも変わらなかった。

 朝は一緒に登校して、夜も一緒に帰る。土曜には診療所に一緒に行ってカウンセリングを受ける。

 一つだけ変わったのは、初日が傍に来ると席を外すようになった事くらいだ。

 初日もその事には気付いていて、遠慮もしている様だったけど、話す機会は増えていた。

 それでも不自然な感じはなくて、話す内容も勉強の事とか休みの日は何しているとかで、告白の返事を催促されることもなかった。

 なんだか、悩んでいるのは僕だけの様な気がしていた。

 歌音も、僕の事を好きだったんだと思うけど、今もそうかと聞かれたら、自信がなくなっていた。

 今のままなら、きっと歌音とはずっと一緒にいられる。

 僕に彼女が出来たとしても、だ。

 だったら……初日と付き合ってみてもいいのかな。

 でも、こんな中途半端な気持ちでは初日に失礼だという気持ちもあった。

 だからと言ってこのままでは何も進まないような気がした。

 初日と付き合うって選択をすれば、何かが変わるような、そんな気がしていた。


 帰り道、僕達はいつもの通り自転車に乗っていて、僕が歌音の前を走っていた。

「歌音、聞いてほしいことがあるんだけどさ」

 ――チリン。

 歌音がベルを一度鳴らした。

 自転車に乗っている時の会話方法。これなら、イエスかノーの二択で歌音の気持ちを聞くことが出来る。

 歌音にはっきりと返事をもらう為に、自転車に乗っているこのタイミングで言おうと思っていた。……いや、違うかな。歌音の目を見ながら言うのが怖かっただけかも知れない。その二つは正反対の気持ちだけど、僕の中では成立していた。

「初日との事なんだけどさ――」

 初日に告白された日から、僕はずっと考えていた。

 僕は、歌音の事が好きなんだろうか。告白してくれたのは初日だというのに、僕が考えたのは歌音の事だった。

 論理的に考えたら、事実だけを結び付けて、僕の気持ちを考えるのなら……僕はきっと歌音の事が好きだ。そうじゃなきゃこんなに一緒にいられないし、歌音の為に尽くせない。

 周りにだって、何度も歌音の事が好きなんだろうと囃し立てられた。周囲から見ても分かるほどに僕は歌音の事が好きなはずなんだ。

 それなのに、僕の中では歌音への感情に名前が付かない。あの日、圭介を見ていた気が付いた、歌音への『恋』という感情は今では名前を失ってしまった。

 それがとても苦しくて、毎晩悩んでいた。

 そんな中で初日に告白されて、ほんの少しだけど、自分の中に恋愛感情みたいなものを感じた。自分が自分でも分からなくなっている時だったからか、初日からの告白は『救い』の様にさえ思えた。

 一歩、踏み出してみたいと思った。

 だから。

「――付き合ってみようと思っているんだ。いいよね?」

 しばらく、沈黙があった。

 歌音はなにを考えているのだろうこの前は、付き合ってみたらと言っていたのに、なんでこんなに沈黙が長いのか。

 堪らなくなって振り返ろうとすると――


 ――チリン


 自転車のベルが一度だけ鳴った。


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