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僕が歌う君の歌  作者: 岬ツカサ
一章 分からない気持ち、届かない声
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屋上でのやりとり

――次の日。

 昼休み、僕は歌音を連れて屋上に来ていた。

 都会では屋上に出られない学校が増えているって聞くけど、この辺にはまだ関係のない話だった。

〈たまには外で食べるのもいいね〉

 昨日の事を報告しようとして連れてきたというのに、歌音はなんだか能天気な事を言っていた。

 そんな歌音を見ていると、腹が立ってくる。歌音とは何の関係もないのだから、何を勝手なって話なんだけど……やっぱり、僕は歌音の事が好きなのだろうか。

 考えても分からないことは分かっている。

 圭介が亡くなったあの日から、歌音への想いはなんだか靄がかかったみたいにおぼろげで、はっきりしないものになってしまっている。

 まるで感情に蓋がされたみたいだった。

 今までは他の女の子にもそうだったから、恋愛感情自体に鈍感になってしまったのかと思っていたのだけど、昨日の初日の告白にはドキドキしてしまった訳で……そう考えると、僕は恋愛が出来ない体質になったという訳ではないらしい。

 それに僕が初日と付き合うことになったとして、歌音との関係は変わらないと思うんだ。

 声を失った歌音の傍にいる事は、僕の義務だと思う。

 圭介が亡くなる直接の原因を作ったのは僕で、歌音の声が出なくなったのは圭介がいなくなったショックが原因で……つまり僕が歌音の声を奪ってしまった。

 だから、僕が歌音の傍にいるのは義務なんだ。

〈なんか暗い顔してる〉

 イヤホンから聞こえた声に、いつのまにか沈んでいた顔を持ち上げる。

「そんな事ないよ」

〈昨日の事だよね?〉

 歌音が僕の目をじっと見つめる。

 何があったの、そんな目をしていた。

 歌音が少しでも気にしてくれているのが分かって、嬉しくなってしまった。

「うん……昨日さ、初日に告白された」

〈知ってる。響はなんて返事をしたの?〉

 歌音からの質問はシンプルだった。

「えーと、返事はまだしていないんだ。考えてって、言われた」

〈そう〉

 そう言って、歌音は視線を外した。

 それ以上は何も聞いてこない。

 僕は弁当をつつきながら歌音に何か変化がないかを観察する。どこからどう見ても普段通りの歌音だった。今は大好きな魚の煮付けを食べてご満悦な表情を浮かべている。

 さっきまでとは変わって、今はまるで僕の事なんて気にしていないように見えた。

「歌音は、どうしたらいいと思う?」

 歌音は返事をせずにまた僕を見た。

 おかずとご飯を数回、交互に口に運ぶ。

 たっぷり時間を使ってから、携帯を操作する。

〈付き合ってみたらいいんじゃない?〉

 イヤホンからいつもの無機質な音がした。

 いや、いつも以上に冷たいような感じがした。

 ――どうして? 付き合ってもいいの?

 そう聞きたかったけど、聞けなかった。

 僕には聞く資格がなかったから。

「……考えてみるよ」

 そうやって返すのが、精一杯だった。


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