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僕が歌う君の歌  作者: 岬ツカサ
一章 分からない気持ち、届かない声
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伝えたい気持ち

 初恋は実らないと言うけど、私はそんな事はないと思うし、そうするつもりもない。


 その人と初めて出会ったのは、父の心療内科の待合室だった。

 私の家は三階建てで、一階部分が診療所になっていて、上の階が自宅になっている。

 普段は一階には入らない様に言われていたけど、よく来る同年代の男の子と女の子の組み合わせが珍しくて気になっていた。

 それが、響くんと歌音ちゃん。

 圭介くんという友達が亡くなってしまったのがきっかけで、歌音ちゃんは声が出なくなってしまっていた。だけど私は、声が出ない歌音ちゃんよりも、いつも付き添いで来る響くんの方が気になっていた。

 これでも医者の娘だ。色んな患者さんを見てきたし、患者さんに接する人も見てきた。

 家族とか友達が病気になった場合、周りの人は『声が出ない』と分かった時には心配して、慰めの言葉をかける。でも、そこからは、自分の中の感情を優先してしまう。患者の前でも、平気で泣いたりしてしまう。親しい関係であればあるほど、涙を隠すのは難しい。

 だって、患者を心配すればするほど、その人も辛いのだから。

 響くんは違った。

 ただ歌音ちゃんに優しくしながら、弱音の一つも吐かず、涙も見せずに、傍にいようとした。

 自己満足で泣いてはいけないと分かっている私でも、出来ないと思う

 響くんが大きく見えて、特別な人に見えた頃に、私の初恋は始まった。

 でも、同時に気付いた。


 ――この恋は実らないかも。


 響くんはずっと歌音ちゃんの事を見ていて、声が出ない彼女の為に生きているから。

 心配になるくらいに『彼女の為に』が伝わってきて、私の入る隙間なんてこれっぽっちもないのが分かる。

 中学生になってからも、二人は一緒に通院していた。

 その頃には響くんはイヤホンを付けていて、いつも二人だけで会話していた。

 歌音ちゃんの事は、早く声が出るようになるといいと思っていたけど……声が出ない事で響くんを独占しているようで、嫉妬する気持ちもあった。

 私と同じ気持ちの女の子もいたんじゃないかな。

 だって中学生の男の子なんて女の子に優しくもできないで、好きって伝えるのが下手で、本当の気持ちなんて言えないって人がほとんどだ。

 それなのに、響くんはずっと歌音ちゃんの傍にいる。

 周りにからかわれた事もあったと思うのに、ずーっと。

 周りが人を愛するのが下手な中、一人だけそんなに上手に愛していたら、密かに人気を集めていてもおかしくないと、私はそう思う。

 私は同じ学校ではなかったから想像でしかないけど、きっとそうだったはず。

 響くんを好きになって、定期的に通院する二人を見て、お似合いなカップルだと思っていた。


 響くんが幸せなら、それが一番いい。

 素直にそう思えていた。


 ――これで私の初恋はおしまい。やっぱり初恋なんて実らなかったな――


 そう思って、神様をバカ呼ばわりした日もあったけど。

 響くんの事を諦めて、しばらくした時の事だった。志望する高校が同じだという事が分かった。

 諦めたなんて言いながら未練たらしいなと思ったけど、やっぱり嬉しかった。

 入学してみたらクラスまで一緒で、すぐに友達になれた。一緒に遊ぶような関係ではなかったけど、顔を合わせたら少しは会話をするくらいにはなって、呼び名も『初日さん』から『初日』になった。

 それからは距離が縮まる訳でもなく、友人として二人の傍にいられれば満足……そんな風に思って、ずっと遠くから見ていた。でも、ずっと見ていたからこそ、気付いてしまった。

 二人はこんなに近くで一緒にいるのに、はたから見たら完全に彼氏彼女の関係なのに、本人たちはそう思っていない様に見えた。

 なんで二人がそんな距離を保っているのかは分からない。

 思い当るのは圭介くんの事くらいだけど、よくは知らないし、お父さんに聞いても患者さんの事を話してくれる訳がない。

 一年が経って、二年生になっても同じクラスになっても、二人の距離は変わらない様だった。

 それは、とても歪んでいる関係に見えた。

 響くんの振る舞いから、一つ、考えられる事があったけど、卑怯な私は見てみない振りをした。

 

 私の片思いも何年目だっけ。

 実らない恋だと気付いた時からとすると、五年目?

 最近では、二人を見ていると、感情が溢れそうになって仕方がない。

 響くんが好きなのは歌音ちゃん。そんな事は、神様にケンカを売るくらいに分かってる。

 分かってる……けど。

 それでも、五年。

 一言くらい、伝えてみたい。

 好きだって、言ってみたい。

 響くんはどんな表情をするのかな。

 やっぱり、困るかな、迷惑かな、嫌だって……思われるかな。

 ううん、響くんがそんな風に思う訳がない。

 きっと、ちゃんと向き合ってくれるはず。

 それで、もしも、喜んでくれたりなんてしたら……。

 そこまで考えて、決意した。


「うん、告白……しよう」


 決意表明を自室で一人呟いて、お気に入りのレターセットを取り出す。

 いざ書き始めて、すぐに一つの矛盾に気が付いたけど、見て見ぬふりをして、想いを綴った。


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