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僕が歌う君の歌  作者: 岬ツカサ
一章 分からない気持ち、届かない声
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日常の変化

 ――放課後。

 通学路を歌音と自転車で進む。

 途中でコンビニに寄って、青年漫画雑誌を立ち読みする。歌音はファッション誌を読んでいた。

 僕にも見せてきて、本に載っている服をいくつか指さした。

「これじゃない?」

 似合うと思ったのを僕も指さした。

 歌音はむむっと眉をひそめて、嘆息気味に本を閉じた。

 どうやら僕の趣味はお気に召さなかったようだ。

 歌音と違って中肉中背のごく平凡な見た目の僕みたいな人こそファッションに興味を持たないといけないのかも知れないけど、まだまだ漫画を捨てられない。

 肉まんを買って外に出て、歌音を待つ。

 歌音はお菓子と飲み物を買っていた。

 袋を開けて肉まんを頬張る。もう五月、真冬に食べるのとは違った美味しさがある。

 自転車に跨って、いつもの様に僕が先頭を行く。

 歌音の家の前で「じゃあまた明日」と別れの挨拶をする。

〈また明日〉

 少し遅れて、イヤホンから無機質な音がした。


 家に帰ると母が夕飯の準備を始めていた。やけに早いなと思ったら、今日は結婚記念日らしい。そんな時くらい二人で外食に行けばいいのに。

「今日で結婚二十周年なのよ。そしてこの家も建ててから十五年。一緒にお祝いしたいじゃない」そういう事ならと、僕も料理の手伝いをした。

 母は幸せそうに微笑んでいた。

 父もいつもより早く帰ってきて、三人でご馳走を食べた。

 やっぱり、幸せだった。


 両親に気を使って、早めに自分の部屋に戻る。

 今日出た課題をやって、好きな小説を読むともういい時間だった。

 部屋の明かりを消して、ベッドに入る。

 目を閉じると嫌でも浮かんでくる、名前が付けられない感情。


 圭介が死んでから六年。

 歌音の歌が聴けなくなってから六年。

 僕はこの生活に随分慣れてしまっていた。

 圭介を思って泣く事はなくなって、歌音の歌も聞くことが出来ない。

 その事に違和感を持つこともない、そんな日常。

 歌音の声が出なくなったあの日から、歌音への恋愛感情も分からなくなって、今はもう、『家族』って感じになっている。


 ――これでいいのかな


 そんな事、何回考えたかも分からない。

 でも、答えは出なかったんだから。

 今のままで良いって、そういう事なんじゃないかな。

 レールに乗ったような、でも、どこか間違った様な日常を感じつつ。

 考える事をやめて、僕はようやく眠りについた。


 翌日、いつもの様に歌音と登校し下駄箱を開けると、一枚の手紙が入っていた。


 ――響くんの事が好きです。

   放課後、唐沢山の神社で待っています――

                      初日 叶


 変わらないと思った日常に、少し変化が起き始めた。


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