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僕が歌う君の歌  作者: 岬ツカサ
二章 変わらない二人と譲れないもの
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二人の気持ち

「歌音、タイムカプセル埋めた時の写真って、どうしたっけ?」

 タイムカプセル。何か、胸がざわめくような感覚になった。

 歌音ちゃんがペンを走らせる。

〈私のアルバムにもなかったから、多分一緒に埋めたんだと思う〉

「そっか。圭介が持ってたポラロイドカメラで撮ったから、焼き増しとかもないんだ……良い写真だったと思うんだけどな」

 歌音ちゃんも頷いた。顔がほころんでいて、懐かしんでいるのが分かる。二人にとって圭介君の思い出は悲しいだけのものではないみたいだった。

 私は忘れられたまま、話は続く。

「歌音は、何を入れたの?」

 響くんのその質問に、歌音ちゃんの表情が一瞬凍った。

〈覚えてないよ〉

 うろたえた様子はもうなくなっていて、本当に一瞬だった。

 響くんは気付いていないみたいで「圭介はなにを入れたのかな」なんて言っている。

 悪い予感が当たらないで欲しいと願いながら、その後も三人の思い出話を聞いていた。

 忘れよう、気にしなければ何も起きないかもしれない。

 そう思いながらも、タイムカプセルという単語とさっきの歌音ちゃんの表情が頭から離れなかった。

 タイムカプセルは、どこに埋めたんだろう。


「歌音ちゃんは私が送っていくよ」

 日が落ちてきた頃、響くんの家を出る。

 気温も随分下がっていて、風が気持ちよかった。

 響くんは、「僕が送っていくよ」と言っていたけど、どうせ通り道だからと押し切って、歌音ちゃんと二人になれた。

 歌音ちゃんを後ろに連れて、自転車を走らせる。

 夕日はもう山に隠れて、薄暗い。山の色は緑からすっかり黒に変わっている。少ない街頭が点き始めた。

 後ろを確認すると歌音ちゃんは少し不安そうにペダルを漕いでいた。

「……ちょっと、話さない?」

 公園が見えた頃に、歌音ちゃんを誘った。

 歌音ちゃんも頷いて、自転車を止めてから二人で公園の中に入る。

 響くんと付き合う事になってから、歌音ちゃんと二人で話すのは初めてだ。お互いに避けていたし、何を話していいか分からなかった。

 それでいいと思っていたけど、私は欲が出てしまっていた。

 ――響くんに、私だけを見て欲しい。

 それがどれだけ難しい事か分かりながらも、抑えられなくなってしまっていた。

 落ち着いて話せる場所を探して、ベンチに座ろうとしたけど、木製の古いもので座ったら制服が汚れそうだった。

 他に座る場所はないかと辺りを見回していると、くいっと、袖が引っ張られる。振り向くと歌音ちゃんが回転する球体のジャングルジムみたいなのを見つめていた。

「あれ?」

 歌音ちゃんは頷くとすぐに球体を上って、頂上付近に座った。下にいる私に手招きをする。

「いや、私は……」

 断ろうとして、傍にいないと会話が出来ない事に気が付いた。仕方なく、ジャングルジムに登る。

 何年振りだろう。女子高生にもなってジャングルジムに登るだなんて考えもしなかった。もし、周りが明るかったら恥ずかしくて出来ない。

 登り切って、歌音ちゃんの隣に座る。お尻にあたる鉄棒がひんやりとしていた。

 視線を上げて、歌音ちゃんがここに登った理由が分かった気がした。

 視界が広くなって、地面が遠い。暗闇の中に街頭がポツポツ浮かぶ。なんだか二人だけの空間だった。

 歌音ちゃんは携帯を持ってメールの作成画面を表示していた。

〈筆談だと見えにくいし、これで話そ〉

 そう打って、画面を私に見せた。

 さすがに人より文章を打つのが早いなと思った。そうしないと困るのだから当たり前だけど、歌音ちゃんの持つハンデを実感してしまう。

 でも、そんな事に遠慮していられるほど、私には余裕なんてない。


「響くんの事、好きだよね?」


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