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僕が歌う君の歌  作者: 岬ツカサ
二章 変わらない二人と譲れないもの
19/25

気付き

 響くんについて、二階に上がる。「どうぞ」と扉を開けてもらって、部屋の中に入った。

 六畳くらいのスペースに、壁際には大きな本棚が二つ。小説が綺麗に並べられている。名前だけは聞いたことのある有名な漫画も少しあったけど、ほとんどが小説だ。

 勉強机が端っこに設置されていて、机の上は綺麗に整頓されていた。

 窓際にベッドがあって、床には白色の絨毯が敷かれていて、部屋の中央には正方形のテーブルが一つ。

 三人でいるには少し狭く感じるくらいだった。

 座る場所を見つけられないでいると、響くんが机のイスを引いてくれた。キャスターがついていて、簡単に動くタイプのイスだった。

 歌音ちゃんはクッションの上に座り、響くんはベッドに腰掛けた。

「「……」」

 沈黙が流れる。

 何を話していいか分からない。

 響くんの方を見ると、響くんも硬直していた。

 話題を探すけど、何も出てこない。そもそも部屋に来てしまったのもうっかりだったし、何か用事がある訳じゃないから話なんて出てこない。

〈宿題やらない?〉

 どうしようもなくて途方に暮れていると、歌音ちゃんがメモにそう綴って、私たちに見せてきた。救われた思いだった。

「そうだね、宿題でもしようか!」

 響くんも私と同じ思いだったのか、声の音量がいつもより大きめだ。

 私たちも賛成して、テーブルに移動して数学のノートを開いた。

 勉強を始めると、みんな根が真面目なのか真剣に問題を解き始めた。ここで響くんにイチャイチャしようとしたら私が空気の読めない子になってしまう。

 仕方なく私も真面目に数学と向き合うことにした。

 カリカリカリと、シャープペンの音がなる。

「「……」」

 顔を上げて響くんを見ても、こっちに気付かない。集中しているみたいだ。歌音ちゃんも同じだ。

 ――気まずい。

 仲良く話せる関係ではないけど、なんで無言になる道を選んでしまったのだろう。

 カリカリカリカリ――シャーペンの音だけが鳴り続ける。

「ひ、響くん、ここなんだけど」

「あぁ、ここは確かね――」

 質問をしてみても、すぐに的確な解き方を教えてくれて、会話が終わってしまう。

 どうしよう、空気が重い。

 耐えられなくなって、部屋を見回してみると、本棚の一番下の段に大きな本があった。さっきは立ってたから気付かなかったけど、小説と漫画しかない本棚の中ではひと際目立って見えた。

「ねぇ、響くん。あの本はなに?」

 空気が変わる話題になるかも知れない、思い切って聞いてみた。

「あ、あぁ! これね。そういえば、今日歌音とも話してたんだよね」

 響くんはそういうと、座ったまま手を伸ばしてその本を手に取った。

 歌音ちゃんも計算する手を止めて、こくりと頷いた。

 響くんがテーブルの上にその本を置く。

 題名のない表紙を見て、その本が何かに気が付いて、少し後悔した。

 響くんは私の様子を気にすることなく、表紙をめくった。

 写っていたのは、小さな響くんと歌音ちゃんと、見たことのない男の子。腕を組んでニカッと写真の真ん中で笑っている姿から、その男の子が三人のリーダー的な存在だとすぐに分かった。

「懐かしいな……これ、幼稚園の時だよね?」

 響くんが歌音ちゃんに確認する。歌音ちゃんはまたこくりと頷く。その瞳が、じっと真ん中の男の子を見つめていた。

 歌音ちゃんの様子を見て、響くんが辛そうな表情になる。

「この男の子って?」

「圭介っていうんだけど、初日は知らないんだっけ?」

「名前を聞いたことはあるよ」

 そっか、この子が圭介くん……。

「そっか、圭介は僕達の親友で……えーと、なんて言えばいいのかな、家族みたいな存在、かな?」

 歌音ちゃんがこくりと頷いた。特に補足する事はないみたい。

 響くんはぺらぺらとページをめくっていく。

「いつも一緒だったんだね」

 ほとんどの思い出を三人で共有している事が分かる。仲が良さそうだとか、幸せそうとか、色々感想は浮かんだけど、傷つくことが分かっていてそんな事を言うのは反則だと思って、言葉を飲み込んだ。

 響くんはその後も写真を見ては思い出を話していた。

 歌音ちゃんは黙っていて、たまに頷いていたりもする。歌音ちゃんはどんな気持ちで響くんの話を聞いているんだろう。やっぱり、傷ついているのかな。

「……あれ?」

 アルバムを最後まで見終わった響くんが首を傾げた。また最初のページから順に開いていて、何かを探しているようだった。


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