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僕が歌う君の歌  作者: 岬ツカサ
二章 変わらない二人と譲れないもの
18/25

初めての部屋

 ――放課後、校門前。

「じゃあ、僕は歌音を送っていくから」

 響くんがそう言って、私に手を振った。歌音ちゃんも手を振って、二人で自転車に跨って、漕ぎ出そうとしている。


「――待って」


 二人の背中を見ていたら、つい言ってしまった。

 響くんが不思議そうな顔をして振り返る。

「響くんの家、行ってもいい?」

 それ以外に、二人と一緒にいる方法が浮かばなかった。口に出してすぐ、後悔した。

 響くんは困った表情をして、歌音ちゃんの事を見た。

 あぁ、やっぱり。

 だから言わなきゃ良かったんだ。

 響くんの気持ちは、歌音ちゃんにある。

 こんなに分かりやすいのに、響くんはその気持ちに気付かない。

 響くんの本当の気持ちは分かっていて、告白したけど、実際にその時を迎えると、想像以上に苦しかった。

 響くんの視線を受けて、歌音ちゃんが私の方を見た。

 私は歌音ちゃんの視線に耐えられなくて、顔を伏せる。

「も、もしよかったら歌音ちゃんも!」

 口をついて出た言葉に、自己嫌悪で苦しくなった。

「えーと、じゃあ、行こっか」

 響くんの声に顔を持ち上げる。

 行こうって事は、歌音ちゃんは頷いたんだろう。謝る事も出来ずに私は立ち尽くした。

 響くんはもう前を向いて、自転車を漕ぎだそうとしていた。歌音ちゃんもそれに続く。私も、歌音ちゃんの後ろを走るしかなかった。


 響くんの家の方向に進むと、景色が段々田舎になってくる。住宅街もなくなり、畑と田んぼが増えて、用水路の蓋もなくなる。

 響くんが後ろをチラチラ気にしている。車を気にしながら歌音ちゃんの事もしっかり見ている様だ。道路を横断する時、響くんが確認すると歌音ちゃんは後ろを振り返ることなく、響くんについて横断する。

 あまりにも自然な動きで、ずっと2人がそうしてきたのが伝わってくる。信頼しきっている事も分かって、落ち込んだ。

 そのまましばらく走って、道路の舗装が剥がれてきた頃、響くんの家に到着した。

「ここ、なんだけど」

 周りは畑に囲まれていて、住宅がポツポツと点在しているうちの一つが響くんの家だった。他の家と比べると少し新しいのが分かる。

「ただいまー」

「お、お邪魔します」

 緊張しながら玄関に入ったけど、誰もいないみたいだった。お母さんは買い物に行ってるのかもって事だったけど、ていうことは、もしも歌音ちゃんに声をかけなかったら二人きりだったって事?

 ――響くんの家で、二人きり。

 想像して、心臓が持たないと思った。

 歌音ちゃんにも声をかけたのは失敗だと思っていたけど、そうでもなかったかもしれない。


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