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僕が歌う君の歌  作者: 岬ツカサ
二章 変わらない二人と譲れないもの
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嫌味な質問

 ――次の日。

「初日、『初恋』読んだよ」

 挨拶を交わす前に、響くんがそう言った。

「……どうだった?」

 怖くなりながら、感想を聞いてみる。

「恋愛物はあまり詳しくないんだけど、良かったよ」

 響くんはにこやかだった。

「他になにか思ったりしなかった?」

 反応を見れば、響くんが自分の気持ちに気付いていないことは分かったのに、つい聞いてしまった。響くんはきょとんとした顔をした。

「いや、特には……えーと、本当に良い作品だと思ったよ! 中学生らしくバカで不器用でって感じで」

 ちゃんと読んだよと内容を交えて感想をいう響くんを見て、申し訳なくなった。

 本当に私は、自分の事ばかりだ。

「そうなの。バカだよね」

 私が笑って言うと、響くんも安心したのか、笑顔になった。本を読むようにして良かった。今の所これくらいしか、響くんとの繋がりなんて見つけられない。

「湖に行く理由とかね」

「響くんは行かないの?」

「僕はあれほどバカじゃないよ!」

 なんて、作品の内容で笑いあえる。

 今だけは、私がこの人の一番近くにいる。

 友達じゃなくて、彼女として。

〈何の話?〉

 珍しく、歌音ちゃんが筆談で会話に入ってきた。

「あぁ、初日に貰った本の話だよ」

 響くんは平静を保って言ったつもりなんだろうけど、その保っているって意識しているのが私には手に取る様に分かって、胸が苦しい。

〈そう、面白いんだ〉

 歌音ちゃんは歌音ちゃんで、必死に表情を崩さないようにしているのが分かった。響くんも歌音ちゃんの表情を見ている。それなのに、多分歌音ちゃんが傷ついている事に気付いていない。

 響くんはずっとそうだ。

 自分の感情が分からなくなってしまっているから、歌音ちゃんの反応を見て彼女の気持ちを探ろうとしているんだろうけど、多分それすら出来なくなってしまっている。

 私相手には出来ているのに。

 まるで、歌音ちゃんとは恋愛してはいけないって暗示にかかっているみたいだった。

 歌音ちゃんが自分の気持ちを隠す理由は分からないけど、でも、きっとそれだけの理由があるんだろう。

 辛そうな歌音ちゃんを見ていると、助けてあげたい気持ちはあった。


 恋敵でなければ、相談されていれば、響くんを取らないでと言われていれば……せめて言えない理由を知っていれば、私は響くんに告白しなかったのかな。


 意味のない自問自答には答えも出ない。

 響くんの暗示が解ければ、歌音ちゃんが気持ちを伝えれば、私と響くんの関係はなくなってしまうだろう。

 こんなに幸せな時間が、終わってしまう。

 それでも、今は私が響くんの彼女なんだ

「面白いよ、歌音ちゃんも読んでみる?」

 精一杯、笑顔と明るい声を作ってそう言った。

 歌音ちゃんは表情を歪ませて、首を振った。


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