第1話 ⑤
エリザが盛大にズッコケる以外のアクシデントは起きず、
コツコツと歩きながら我が家に向かっていた。
ちなみにエリザは特に怪我をしていない。
自称・元女戦士というだけあって体は丈夫なのだろうか。
「ユーシャの家か……なんだか胸が高鳴るな」
「胸を高鳴らせている所を悪いが、うちは普通の一軒家だぞ」
飛んだり合体したりなんかはしない。
…………しないよな?
「俺と妹と母親と父親で4人で暮らしているんだ」
「む、妹が居るのか?」
そういえば言ってなかったっけ。
まあ、妹とは決して仲が良いわけじゃないしあまり話もしないから、
言う必要が無かっただけ…だけど。
「中学3年生で今年受験の妹が居るんだ。
まあ思春期なのか反抗期なのか知らないけど、
あんまり話さないし気にしなくていいよ」
「そうか…その、少し聞きにくいのだが…
ユーシャと仲があまりよろしくないのか?」
「まあ、ね…でも兄妹って多分こんな感じだと思うよ」
「ふむ……私には姉上が居るのだが、私と姉上はとても仲がいいぞ」
姉が居るのか。
俺には上が居ないから、どんな存在なのかは想像が付かないな。
「今度ユーシャにも会わせよう、きっと姉上も姉上の事も気に入るぞ」
「ありがとう、楽しみにしてるよ」
……などと反射的に言ってしまったが、どうやって会うんだ?
俺も異次元の門を潜れと?それとも姉上をこちらの世界に呼ぶのか?
ていうか俺みたいな普通の人間が異次元の門とやらに入れるのだろうか。
そもそも異次元の門はどういう原理でこの世界と繋がっているんだ?
…………考えれば考えるほど謎が深まる。
「エリザのお姉さんも女戦士なのか?」
「いや、姉上は遊び人だ」
ここで斜め上の回答がきた。遊び人?
「な、なるほど……ちなみに遊び人はどんな事をするんだ?」
そう質問するとエリザの歩行がピクりと止まる。
……あれ?地雷踏んだか?
「昔、一度だけ姉上とモンスターを討伐する依頼を受けたのだが」
と、エリザが語り始める。
「姉上が『ガルナニデ』という謎の呪文を敵の前で唱えたのだ」
「それで?」
「……まず、私の鎧が消し飛んだ」
「え?」
「次に地面が割れ、空から大量のもやしが降り注ぎ、
そして触手のモンスターが召喚され……」
エリザの顔がみるみるうちに真っ青になっていく。
「なんとか触手からは間一髪で逃れたがそれから…!」
「わ、わかった!もういいから!ほら、俺の家に着いたぞ!!」
大体わかった。ようはギャンブラーである。
そんな姉とどうやって絆を修復したのかはあえて聞かなかった。