第2話 ⑤
「おお……!ここがユーシャが言っていた店か!!」
放課後、俺とエリザは近くの大型ショッピングモールに来ていた。
朝の事を思い出し、エリザの目覚まし時計を買いに来たのだ。
明宏も一緒に行きたいと言っていたが、
稲越に呼び出され、その思いは呆気無く砕けた。
……ちなみに見つからずに学校を出ようとしたが、
校門を出る前に稲越に見つかり抵抗はしたのだが……南無。
「じゃあ中に入ろうか」
「……ッ!なに!?手を使わずに開いただと!?」
ショッピングモール内に入り、2人で歩き始める。
エリザはキョロキョロと回りを見渡して歩いていた。
……無理もない、エリザからしたら珍しいものだらけなのだから。
それが目立つのか、エリザが綺麗だからなのかはわからないが、
周りの人の注目を集める。
……俺も異世界に行ったら、きっとこうなるのだろう。
少し歩いて小さい家電コーナーに着き、
時計が置いてある場所に到着した。
「エリザの世界には時計が置いてないの?」
「あるにはあるが、任意に音は鳴らないな……」
「ここにあるの全部、任意で音を鳴らせる時計だから好きなの選ん…?」
「………………」
もう既にエリザの品定めは始まっていた。
エリザが目覚まし時計と睨めっこする。
これは時間が掛かりそうだな……。
…………。
……。
10分くらい経っただろうか?
エリザが右手に時計を持ち近寄ってくる。
「それでいいのか?」
「ああ、この時計にする」
エリザが選んだのはシンプルな黒の目覚まし時計だった。
「じゃー会計を済ませるから、それ貸してくれ」
「ふっ……その必要は無い、見ていろユーシャ」
と自慢気に言うと、エリザはレジの方に時計を持っていく。
「あ、おいエリザ…」
俺の話は聞かず、
レジの前に立ち右手に持っていた時計を置いた。
「これを」
「ありがとうございま~す。お会計、1620円となります」
「……こうか!!」
次の瞬間、エリザが麻袋のようなものから……!!
諭吉を2枚差し出した。
「え、えっと……一枚で大丈夫ですよ……?」
……エリザの顔が見る見る赤くなるのがわかった。こりゃダメだ。
「くっ…殺せ」
「え……?」
「あ、あはははははは!!
すいませんこの子外国からやってきててまだ日本に慣れてなくてー!!」
「そ、そうだったんですか!申し訳ありません!」
なんとかフォローをして会計を済ませ、
エリザの腕を掴み早歩きでそこから立ち去った。
道中に、エリザが涙目になりながら謝ってきたが、
初めてだったしこれから覚えていけばいいよ…と言っておいた。
近くのベンチに座るとエリザが袋から時計を出す。
「今日からよろしく頼む、ドルヴォス」
「ドルヴォス!?」
時計に名前を付ける人を初めて見た。
目覚まし時計の癖になんて勇ましい名前だ。
……斯く言う俺も、勇者じゃないのに勇者という名前だが。
「……それにしても、どうして日本のお金を持ってたんだ?」
「ハナコ婆様が私達の世界の通貨や物で、
日本の通貨に変えてくれたのだ」
…………つまり、換金できるらしい。
でもそうなるとハナコ婆様はどうやって日本円を仕入れているのだろう。
こちらの通貨でさえも魔法とやらでなんとかなってしまうのだろうか?
本当に謎に満ちた世界である。