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そのお見合いは、危険です。  作者: 藤谷 要
復讐編 始動の章
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捕縛 1

 慶三郎が仲間たちを引き連れて、一上家の屋敷へと足を運んだのは、日が暮れ始めた頃だった。

 屋敷周辺に見張り役を配置して、完全に日が落ちた頃合いに、夜陰に紛れて行動を起こした。隠密行動に長けた精鋭三名が、春人からもたらされた情報から屋敷への侵入を図る。


 警備上の境目となる、隙間と言われた場所から高い塀を乗り越えて、一上家の屋敷へと不法侵入した。

 簡単な結界が周囲に張られているらしいが、大きい四角い枠で囲っている訳ではなく、何枚もの壁を繋いで作っているらしい。その繋ぎ目の弱いところが、今回警備上最も弱いところとなったようだ。その僅かな脆弱性に気付いた佳子に、慶三郎は感心した。


 部下の彼らは、里でよく任務時に用いられる黒装束を着用していた。用心のために隠形の術を使っていて、人目に触れてもそこにいると認識されないようになってはいるが、それでも不法侵入している場所は自分たちと同じく退魔の人間の住む敷地だ。

 絶対に彼らが発見されないという訳でもなかったので、屋敷の外で待つ慶三郎は緊張で気持ちが張り詰めていた。



 今回、五月家が一上家の捜査を里で合法的に行うために、有権者の寄合頭(よりあいかしら)の一人である三名瀬(みなせ)勝臣(かつおみ)を訪ねて、事前に話をつけていた。

 今回の標的である一上元は三人いる寄合頭の中の一人であり、その中でも一番発言権と影響力が強かったため、迂闊に手は出せなかった。

 三名瀬は確実な証拠が無いと、許可は出せないと言っていたが、慶三郎の話を詳しく聞いていく内に、深刻な様子になってゆき、首を縦に振らざる得なかったようだ。


「これは里長(さとおさ)にも報告しなければならない話だ」


 そう彼は言っていたが、慶三郎は里長という立場の人物が里にいたと云うことも、存在の有無ですら聞いたことがなかった。

 不思議に思って尋ねてみると、「里長は、特別で不思議な存在なのだ。大事があった時に、お伺いを立てるのだよ」と三名瀬は真剣に答えていた。

 代々寄合頭たちに言い継がれることらしい。


 内密の捜査に許可が下りたことで、慶三郎は今回の実行要員を集めることにした。

 五月家の他に三名瀬からも協力者が寄せられたので、人員に不足はなかった。佳子から得られた遺品である父の日記の検証を詳細に行い、一上家を訴えるための書類を着実に作成していった。


 後は、佳子自身が犯人と対峙して、父殺しの真相を直接聞くことができれば、慶三郎の筋書き通りとなる。彼女には要の証人として、是非とも無事でいてもらわなくてはならない。


 今日の午前中、慶三郎が出かけようとして、家の玄関の戸を開けた際に、目の前の軒下に佳子が立っていた時は非常に驚いた。

 慶三郎が近くにいた彼女の気配をまるで感じなかったということは、よほど巧妙に気配を絶っていたのだろう。

 一上元の傍にいた時に、存在感が無くて頼りない女性と思っていたが、慶三郎がただ単に彼女の実力までも過小評価していたことに気付いて、その考えを改めることとなった。

 さらに佳子は眼鏡からコンタクトに替えたようで、それだけでかなり顔の印象が違って見えた。


 目を惹くような華やかな印象はないが、静かで凛とした佇まいをした彼女を良く見れば、顔の作りは控えめながらもバランス良く整っていた。彼女みたいな人を大和撫子と云うのかもしれない。

 派手とは対照的な彼女の顔が、春人の好みだったのかと慶三郎は納得した。


 あれこれと慶三郎が考えているうちに、春人がお遣いから帰って来て、居間にいた彼女と義弟が対面した姿を目撃した時は、唖然としたものだった。

 いつも暗いモノトーンのような雰囲気の春人が、彼女の姿を目に留めるや否や、瞳を輝かせて目尻を下げると、嬉しい気持ちを隠そうともせずに、彼女に近づいていったのだ。

 背景までも、煌びやかで色とりどりに咲き誇る花々まで背負っているみたいに変化している。恋愛することを”春が来た”とよく例えるけれども、まさしく今の春人がそうだった。

 他人に干渉するのも、されるのも大嫌いなアノ春人が、愛しの恋人に会えて照れ臭そうにしている、ごく普通の男に見えた。


 佳子の方は、春人が帰って来て安堵の表情を浮かべていた。

 父が大人げなく無視などするから、春人がいない我が家は佳子にとってさぞかし居心地悪かったに違いない。

 慶三郎の前で、言葉少なに恥ずかしそうに会話を交わす二人は、初々しい恋人同士そのものだった。


 その二人の姿に慶三郎は安心して、家を後にしたのだった。




 慶三郎が屋敷の周囲を警戒して見守っている中、どこからともなく妖怪たちがやって来て、屋敷の周辺に集まってくるようになった。妖怪たちが騒がしく会話を弾ませていて、それは嬉しそうな様子だった。

 屋敷から少し離れて隠れていた慶三郎たちに、妖怪たちが気付いているのか不明だったが、気にも留めていないようだった。


 届いてくる妖怪たちの会話の単語を拾い集めると、”ご馳走”や”招待”、また”佳子”、”翁”という言葉が聞こえてきたので、彼女が何か関わっていることが推測された。

 しかし、一向に外にいたまま中に入れないようなので、彼らは正式に一上家に招待を受けた訳ではないようだった。


 時間が経つごとに苛立つような声に変化していって、乱暴なことに塀を叩いて攻撃し始めた。

 激しい音が聞こえるが、結界が周囲に張られている上に、コンクリートでできた塀はビクともしないようだった。


 慶三郎は目の前の様子に気を配りながら、屋敷内に侵入した部下たちからの合図をひたすら待っていた。

 彼らの合図をもとに、一斉に慶三郎たちが一上家の屋敷に侵入して、親族たちの身柄を拘束する予定だった。

 先に潜伏している部下たちは、佳子たちの安全の確保を第一として、次に優先することは一上元の身柄の拘束だった。


 その時、突然爆音のような音が辺り一帯に響き渡った。


 慶三郎たちが空を見上げると、巨大な龍が夜空に向かって飛び立つように、その姿を覗かせていた。それと同時に、部下からの合図となる、閃光弾が空に打ち上げられた。


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