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そのお見合いは、危険です。  作者: 藤谷 要
復讐編 始動の章
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予想外のクリスマス 1

 如月の心配をよそに、クリスマスイブの今日まで、佳子は平穏な日々を過ごしていた。

 メインの仕事を辞めたため、懐が外の季節同様に寒くなっていったが、代筆の仕事を頼んで増やしてもらったり、金目になりそうな私財を売り払ったりして、家計は切羽詰まった状態にはなっていなかった。


 あと数日で分家に行くことを考えると、今からでも緊張してしまう。今日だけは何もかも忘れて、春人と一緒に楽しい時間を過ごしたいと佳子は願っていた。


 イベントということもあり、佳子は彼のためにプレゼントを用意した。

 家族以外の異性への贈り物を選ぶのは初めてなので、無難に貰っても困らない物を選んでしまった。彼はどういう反応をするのか、楽しみであり、不安でもあった。


 春人はいつものように午前中にやってきた。

 お昼ご飯について、再び春人とシロが揉めていたので、今日は特別な日なので佳子自らが料理人を買って出た。

 すると、シロはガタガタと身体を震わせながら、涙ながらに自分が悪かったと謝り始めて、それだけは勘弁して下さいと額を床に擦り合わせて何度も頭を下げて来た。


 その様子に佳子も春人も驚愕して、シロの取り乱した様子に視線が釘付けになった。

 一体何がシロにトラウマを与えてしまったのか、佳子には身に覚えがあり過ぎて、これだと断言できるものがなかった。

 シロに料理を任せる前に失敗を度々繰り返し、シロに多大な迷惑を掛けたことがあったからだ。しかし、シロがいない間、それなりに佳子も練習して、以前と比べて上手にはなっていた。


 呆然として立ち尽くしていた春人と佳子の視線が合った瞬間、彼はスイッチが入ったみたいに急に動き出すと、シロへと歩みよって、床についていたシロの手を握った。


「今日は一緒に作りませんか。私は主食のおかずを作るので、汁物をお願いします」


「ええ、そうですね。なかよしがいちばんですね!」


 シロは涙ながらに春人の提案に大いに賛同した。

 理由はどうであれ、二人が和解したのは良い事だと、佳子はにこやかに二人の様子を眺めた。


 昼食を頂きながら、春人は夕飯まで佳子と一緒にいられるが、その後は帰宅する予定だと伝えて来た。

 佳子はそれを聞いて、少し寂しい気がした。

 最近二人きりで過ごせる時間が少なく、出来るだけ長い時間を共に過ごしたいと考えていたので、いつも通り帰る春人に誠実さを感じる一方で悲しかったのだ。

 まだ一線を越える勇気がなかったため、泊ればと誘うこともできない。さらに、彼自身がまだ学生という身分だから、気軽に外泊が出来ない可能性もある。

 だから、彼の予定について表立って不満を言えなかった。


「天気予報では、今晩は雪になるらしいですね……」


 昨晩見た天気予報を思い出しながら、その話題を佳子は口にした。

 ホワイトクリスマスと言っていて、ムードは盛り上がって良いかもしれないが、路面はスリップしやすくなってしまう。春人が帰る時に事故の危険があった。

 一応、悪天候で路面の状況が悪い時を想定して、彼が帰れずに泊ることを考えて、客用の布団を居間の隣にある空き部屋に用意して置いておいた。

 それでも、佳子が何も言わなければ、春人は無理をしてでも、そのまま帰ってしまいそうな気がした。どうしようかと天気を気にしながら、今後の動向に悩む佳子だった。


「そうなんですか、イブに雪だなんて珍しいですね」


 春人は佳子の気落ちに気付かず、残っていた食事を口の中へ運んでいった。



 二人は食事を終えた後、ボーリングに出かけた。

 母の隠し撮りの写真で知ったことではあったが、春人がボーリングに行ったと知っていたので、スコアについて尋ねたところ、予想よりもかなり低かったので驚いたのだ。

 苦手なのかと佳子が尋ねたら、春人は先日ボーリングをしたのが初めてとのことだった。「ただ単に転がすだけでは駄目ですし、意外に難しくて奥が深くて面白いですよね」と彼が言っていたので、佳子がまた行こうと誘ってみたのだ。

 幸いなことに、佳子が住む街にもボーリング場はあった。


 どうせプレイするなら、”負けた方は勝った方の云う事に従う”賭けをしようと佳子が言い出し、二人は俄然やる気を出して、競い合った。

 勝負は佳子の勝ちであった。

 佳子は父と年に何回かは通っていたことがあり、春人よりは経験が豊富だったためだ。

 途中から春人がコツを掴んで、ピンを倒せるようになってきたが、佳子の点数には最後まで追いつけなかった。


「身体を動かす競技で春人さんに勝てるなんて、嬉しいです」


 佳子はご機嫌な様子で、春人を連れてゲーム機コーナーへ入っていった。

 その一角にあったシール写真の機械に入ってゆき、「罰ゲームとして、一緒に写ってくださいね」と佳子は春人に有無を言わさない笑顔でお願いした。


「罰ゲームって、こんなものでいいんですか?」


 春人が拍子抜けした顔で、横に立っている佳子に尋ねる。佳子は出来上がった写真を嬉しそうに手に取って見ていた。


「はい、私も春人さんと一緒に写真に収まってみたかったんです。その、一応恋人同士になったんですし、一枚くらい欲しいなと思って……」


 佳子は言いながら恥ずかしくなってきた。

 母の隠し撮りで、大橋里香と春人が一緒に写っている写真を見て、何だか無性に羨ましくなってきたのだ。しかし、春人は自分の顔が嫌いだと言っていた。そんな彼が写真に写るのは、きっと嫌だろうと察した佳子は、こういう機会を利用でもしない限り、望みが叶わないだろうと思ったのだ。


「あの、私にも分けてもらえますか? 大事にしますので」


 照れ臭そうに要求してきた春人の顔を見て、佳子は嬉しさで笑顔を自然と浮かべるのだった。




 二人が良い雰囲気の中、クリスマスパーティーの買い出しを終えて帰宅した。

 ささやかだが、クリスマスらしい食事をしようということになり、一緒に食事の用意をしていると、山の見張りを頼んでいた妖怪が佳子へ侵入者がいることを知らせてきた。


 佳子は誰かと思い、その侵入者の訪れを待つ中、屋敷内に玄関の呼び鈴が鳴り響いた。


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