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狙われた婚約者

 今日、春人は佳子と会う約束をしていた。

 まだ早朝のため、陽が出たばかりの外気は、冷え込んでいて、春人の吐く息が白かった。

 妖怪のシロを返す予定だったので、春人は車に乗せようと、彼を探し始めた。

 五月家には代々仕えている妖怪が何匹かいる。滞在期間中、それらとシロは過ごしている姿を春人は見かけていた。

 春人は敷地内を歩きながら、名前を呼んで探し歩いていると、頭上から返事が返って来た。


「なんですかー? よびました?」


 道場の屋根の上に、シロが他の妖怪と一緒にいた。


「シロ、佳子さんのところへ行きますよ。こちらに来てください」


「はーい」


 素直に返事をしたシロは、名残惜しそうに仲間に別れの挨拶をして、屋根から下りて来た。


「はあ、やっとかえられるんですか」


 嬉しそうなシロが、春人の後を小走りで追いかけてくる。

 出会った当初は敵愾心むき出しのシロだったが、偽装ではあったが佳子の婚約者という立場を知ると、態度を軟化させて普通に対応してくれるようになった。

 お陰で春人の言うことを素直に聞いてくれて、ずいぶん扱いが楽になった。シロを乗車させると、春人は車を発車させて家を後にした。




 昨晩、佳子へ電話を掛けて、彼女の母親が五月家へ訪問した事を知らせた。

 大橋との事を歪んだ事実で伝えられる前に、春人は自分の口から説明しておきたかったからだった。

 また、如月の件も詳細を念のために聞いておきたかった。


「母が失礼なことを言って申し訳ございません。どうしても私を高志さんと結婚させたいようですね。もう彼には愛想は尽かされているんですが」


 春人の話を聞いた佳子は、非常に申し訳なさそうに謝罪の言葉を口にした。


「実は、如月は復讐の手助けをしてくれている人なんです。以前、お見合いで高志さんのことを彼が殴って私を連れて逃げたんですよ。でも先週偶然にも鉢合わせてしまって、大騒ぎになったのです」


 やはり、彼女の母親が言っていた事は、間違っていたのだと、春人は真実を確認できて胸をなでおろした。


「真吾さんとのことも、彼は仲立ちしてくれたお陰で、会うことが出来たんです。とても彼にはお世話になっているんですよ。だから、明日春人さんを彼に紹介したいんですが、よろしいですか?」


 如月と佳子の関係を一気に知ることが出来て、春人の不安は霧散した。佳子との仲を疑って、嫉妬を抱いた過去の自分を春人は恥ずかしく思った。ただ単に復讐の件で、如月は度々佳子の元を訪れているだけなのだ。

 更に佳子は包み隠さず話してくれた。自分を信頼してくれている、そのことが何よりも春人は嬉しかった。


「ええ、是非お会いしたいです」


 春人は前向きな気持ちになって、佳子が信頼を寄せる人物に会えるのを、楽しみに思えるようになった。





 春人が運転する車は、里山を下る坂道を走っていた。

 佳子のことを考えていて、この道で彼女の父親が亡くなったことを思い出していた。

 勾配が急な上に、きつい曲線を描いたカーブが続く。道のすぐ脇は崖が切り立っており、ガードレールを突き破れば、下へ真っ逆様である。


”後悔しても、知りませんわよ”


 昨日の佳子の母の言葉が、呪詛のように春人の脳裏に重く響いていた。

 暗い気持ちを吐き出すように、春人がため息をついた瞬間、前方の視界が一瞬にして白くなり、景色が見えなくなる。

 フロントガラスに何かが覆いかぶさったようで、ピタリと接着して離れない。


「うわあ!!」


 助手席に乗っていたシロの悲鳴が、車内に響いた。

 春人は何事かと驚いて、反射的にブレーキペダルを踏もうとした。しかし、何か障害物がペダルの下で引っ掛かっているようで動かない。


 ちょうど春人の車は、カーブの前に差しかかっていた時だった。

 このまま減速させずに真っ直ぐ進んだら、ガードレールに激突して、春人達が乗った車は最悪な事態を迎えることとなる。


 春人は異能の力を使い、通常よりもさらに力を込めて、ブレーキペダルを踏む。すると、その足下で「ギャア」と潰れたような声がした。

 春人は謎の声の正体が気になったものの、それよりも自分の身の安全の確保が優先だった。

 けたたましいブレーキ音と共に、車体は急激に減速する。その反動で春人の身体が大きく前のめりになる。

 助手席にいたシロは、異変があった時にすぐに席から降りて、足マットの上で小さく縮こまっていたので、フロントガラスに突っ込むような事態にはならなかった。


 春人がハンドルを動かそうとすると、何か紐状のものが数本ほど座席の後ろから飛び出してきた。春人の上半身に捕えるように巻き付き、その動きを妨げる。

 次々と起こる運転の妨害に春人は殺気立ち、気合を入れて腕を動かす。春人の身体に紐が喰い込んで痛みを感じたが、そのまま力を込めて引き千切った。それから、自由になった右手で春人がドアを開けると、顔を覗かせて前方を見た。

 目に飛び込んでくるのは、間近に迫る白いガードレール。


 春人が慌ててハンドルを右に切ると、車体の後方は横に大きくスライドする。そして、その左側面をレールの鉄板に引きずる様にぶつかりながら、動きを止めた。

 やっと車が止まり、安全を一時的に確保できたが、次に何が起こるか予測できない。春人は辺りを見回して様子を探った。

 日曜日ということもあり、早朝から他に走行している車はいなかった。


「もう、だいじょうぶですか!?」


 シロが横で騒ぎだしたので、春人は口許に人差し指を立てて、静かにして欲しいと合図を送った。それに気付いたシロは、慌てて自分の口を手で押さえて、黙りこんだ。

 春人は車のエンジンを止めると、車を降りて外へ出た。襲撃者の気配が無いか、息を殺して耳を澄ます。目視でも確認するが、周りは道路以外樹木で覆われた森林のみである。吹きつける風によって、枝葉が揺れてざわめいている。

 野生の鳥などの鳴き声が、遠くから聞こえるくらいで、春人たち以外の生き物の気配を感じることは出来なかった。



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