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如月の執着

「お前はあの女をどう思う?」


 ホテルから彼女を強引に連れ去り、家まで送り届けた後、彼女がいなくなった車内で、自分は運転手に話しかけていた。

 運転手は自分の部下で、確か……加藤かとうという名前であった。

 彼がまだ子供である頃から自分は知っていた。彼の父もまた自分に仕えていて、親子代々自分の傍にいた。


「どうと言われましても……。真面目そうなお嬢さんですね」


 彼の無難な返答を聞いて、自分は苦笑する。

 彼女の野暮ったい眼鏡からそんな印象を持ったのだろう。


「でも、その……」


「でも、なんだい?」


「ボスの相手には役不足な気がしますが……」


「そうかい?」


 気に入った女をそのように評価されても自分は気にしてなかった。

 彼女の外観だけで気に入り、構っているわけではなかったからだ。

 自分は微笑みながら、バックミラー越しに運転手を見た。

 あたりは暗くなっていたので、昼間はあったサングラスが顔からなくなっていた。

 人間である彼に、自分と同じように彼女の特異性を感じることが出来るのか、試して感想を聞いただけだった。

 やはり普通の人間には、彼女の価値は分からないようだ。


「彼女は俺が人間じゃないって、気付いたんだよ」


「へぇ、そうなんですか! 意外に普通の子っぽいのに、あの子はそっち系の人だったんですね」


 能力者たちの多くは、一般人と比べて独特の個性を持っていることが多い。

 特に能力が桁外れの場合、その力に振り回されたり、溺れたりすることが多いため、人格にまで影響が出て歪んでしまった人間を自分は何人も見た。

 しかし、彼女の場合は、そう言った側面が全く見えなかった。

 彼の言わんとしていることが、如月には良く分かった。

 そもそも彼女自身、一族に伝わる能力をあまり使わない。女は外では働かせないという、独特の家の慣わしがあり、それの影響だろう。彼女は基本的な力の使い方は親から習ったものの、実地に出ることはなかったため、経験を磨く機会が乏しかったようだ。

 ただ、日常的に妖怪の類が彼女を慕って集まってくるため、そういったモノたちへの扱い方には長けていた。

 鬼となった自分や、妖怪と呼ばれる人外の存在に対して、彼女が持つ何かが作用するらしい。

 酷く己を惹きつけてならない、不思議な何か。

 意識して妖怪と仲良くなりたいと考えているわけでもないのに、向こうからいつも彼女に近づいてくるらしい。

 自分も彼女にしつこく付き纏ってしまったのを考えると、彼女の気を引こうと、妖怪たちからいつもあんな目に遭っているのだろう。


 それにしても、一人の人間に執着するのは、人外になって初めてだった。

 彼女がいるだけで、心が高揚する。

 真っ黒な胸の中に、滲むように明かりを灯してくれた。

 光を求めて集まる夜の蝶のように、彼女を追い求め、その気持ちは段々と膨れ上がっていった。

 そして、貪欲な欲望を満たすために、動いた自分。


 まず、彼女とは友達みたいな関係を築くことに成功した。

 浅ましい下心を時折隠すのに失敗しながらも、冗談を交えつつ誤魔化し、警戒をされない範囲で接しているうちに、彼女の安全圏内に入り込んでいった。

 彼女の信頼を裏切らないようにし、助力を尽くしてきた賜物だ。


 暗がりに身を置いた自分と、普通に暮らす彼女とでは、酷く立場がかけ離れている。しかも、彼女があの一族の血脈である限り、彼女自身を縛っているものはとても多すぎる。

 それに、彼女の心の隅には、亡くなった父親が常にいる。

 父親を残酷な目に遭わせた者たちに対する怒りが、彼女を復讐へと駆り立てている。

 それがある限り、他のことで気持ちを占める余裕はないはずだ。


 今のままでは決して手に入らないから、彼女が復讐を望んだ時に、迷わず手を貸すことを決めた。

 自分と同じように、数多の屍を築けばいい。

 報復という名の殺戮で、彼女の両手が血に染まった時に、今までの居場所に決して戻ることが出来なくなる。

 彼女は全ての(しがらみ)から解放されるのだ。


 その時に彼女を導けばよいのだ。

 自分のもとへ。


 ああ、その時が待ち遠しい。

 それまでは、彼女に余計な虫がつかないように、せいぜい気を付けるようにしよう。

 その気もないのに、男を家に泊めようとするなど、彼女は抜けているところがあるから危険だ。

 泊るかと誘われた時は、嬉しすぎて思わず顔がにやけてしまったが、念のために確認したら、やはり彼女は自分とは寝床を共にするつもりがないようだった。

 まだ手を出す段階ではないので、惜しみつつも辞退したが、彼女に忠告をしっかりとしておいた。


 脳裏に浮かんだのは、今日の彼女の見合い相手。

 見た目は良かったが、自分によって簡単に女を奪われる男である。所詮、自分にとっては取るに足らない存在だ。

 彼女に去られて道端で所在なげに立ち尽していた彼を、内心嘲った。



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