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巡る時 2

 この四月、高校に入ってすぐ、強制されてはいなかったがテニス部に入った。

 しかし名ばかりの練習に、毎日雀荘や闇カジノとなっていたタバコ臭い部室に嫌気がしていた。

 こんな弱小クラブだったので七月の大会もあっさりと終わった。そして危ない三年生達がいなくなり、優しい二年生が仕切り出すのと同時に僕はテニス部から帰宅部に転属となり、高校初の夏休みを迎えた。


「帰宅部になったって? 暇ならバイトしないか?」

 帰宅部に転属した僕の話をどこで聞いたのか、夏休み初日の朝一番に元々帰宅部だった飯山がバイトに誘ってきた。

「オーケー、やるよ」

 僕は何も考えず、二つ返事で了解した。

「助かったよ。急にやめた奴がいて、店長に頼まれたんだ」

「でも、バイト経験は全くないけど、大丈夫か?」

 つい先日まで中学生の僕は、当然バイト経験はあるはずもなく、その上やめた人の代わりと聞いて不安を覚えた。

「そいつも入って仕事を覚える前にやめちまったから大丈夫だよ」

「……わかった。で、いつから?」

「明日十時に店に来てくれっか、店長が簡単に面接するから」

「店って、どこ?」

「最近、街外れにファミレスが出来ただろ。そこだよ」

「了解」

 かなり急な話だったが、とりあえず成り行きに任せる事にした。


 快晴の夏空らしく、強い日差しが高いところから降り注ぐ眩しい太陽の下、十時少し前にこれからバイトでお世話になる予定の店に顔を出して面接を受けた。


「以上です。ところで今日はこれから時間ありますか?」

「はい」

「今日からバイトに入ってもかまいませんよ」

「お願いします」

 僕は店長に言われるまま、その日からバイトを始める事にして、制服に着替えホールに入ると、集められたスタッフ達に紹介をされた。


「初めてのバイトで、お世話をかける事が多いと思いますが、よろしくお願いします」

「ではこの後は、飯山君に教えてもらって下さい」

 店の各所を飯山に案内され最後にキッチンに入った。


「で、まあ、最初は基本の皿洗いから」

「了解、飯山……先輩」

「ふっ、とりあえず皿割ってバイト料を赤字にするのはお約束だぜ」

「それってヴァーチャルな世界の話じゃないのか?」

「言ってみただけで、本当は知らん。

 最も今じゃ手洗いより食洗器がメインだから、そういう話は減っているみたいだ」

 飯山は心の準備が出来てないうちにバイトをする事となった僕に、冗談を交えたいつもの会話でリラックスさせようとしたらしい。

 そんなこんなでシフトの入れ替わる十六時を迎えた。


「初日はどうだった?」

「変に緊張して思った以上に疲れたよ」

「まあ、初めてだから仕方ないか。俺もそうだったし」

 初めてのバイトで必要以上の緊張と慣れない事をしたためか結構疲れていた。


 が……


「なあ飯山……

 一緒に上がったホールスタッフの女の子、同じ年くらいか?」

 ロッカールームで着替えながら一日気になっていたホールスタッフの女の子の事を飯山に尋ねた。

「おっ、いきなりだね」

「いや……まあ、ちょっとね」

「大きい方が『ゆかりちゃん』、小さい方が『真菜ちゃん』、俺たちと同じ学年で二人とも同じ女子校に通っているんだ」

「そうか……」


 確かにゆかりは、百七十センチに微妙に届かず身長にちょっとコンプレックスを持っている僕と比べて少し小さいくらいだが、そのスレンダーな体型と相まって実際の数値より長身に見える。そしてショートヘア効果もプラスされて、つい「部活は?」と聞きたくなってしまう。

 もっとも、そんな事を聞いたら、目尻が少し上がった目で睨まれて「なんでそんな事を答えなきゃいけないの」と言われそうだ。もっともそれより先に肘か蹴りが飛んでくるような、ちょっと怖そうな一面も持ち合わせてるかもしれない。


(あくまでも見た目の印象の話であって、実際にはそんな事は無いと思いますが……) 


 対して真菜は、百五十センチを少し超えたくらいだろうか確かに小柄である。特にゆかりと並んでいると、本当に同じ学年なのかと思ってしまう。ともすると姉妹に見えてしまう。

 それは身長差だけの問題ではなさそうで、腰まで伸びている長い髪の毛を、リボンの飾りが付いた髪留めで一つにまとめているような少女的趣味も、見た目にプラスされているのだろう。

 そして、やや下がった目尻におっとりとした口調がどことなく癒しを与えてくれそうである。


(それにしても、見た目だがここまで違う二人が仲良くできるなんて、やっぱり女子は不思議だ)


「で、お前の好みは知っているから聞く迄も無いが、万が一心変わりがあったかもしれないから一応聞いておく。

 どっちの娘が好みで」

「あっ……

 えっと……『真菜ちゃん』で……す」

「微妙な間が気になるけど、いつものあれか?」

「いや、違う。自分でもよくわからないが、真面目路線だと思う」


 今日初めて会って、まだまともに話もしていないうちから、こういう感情を持ってしまうなんて、あの中学時代の苦い思いでしか残らなかった一目惚れの恋で懲りているはずなのだが……

 しかし気になり出したものはしかたない。今後の対策を考えることにしよう。

読み進めていただき、ありがとうございます

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