巡る時 1
「起きたかね」
声が聞こえてくる方に視線を向けると、中学時代からの悪友「飯山」がいた。
「授業が終わったと同時にお目覚めかい?
試験が近いのに余裕だね。さすが万年ど真ん中……おっと失礼、今では優等生か」
「ふっ、あれは負の特殊能力の一つで、これが実力だったのだよ」
中学時代の僕は五段階評価で表される成績でど真ん中を貫くオール3を、そんなに勉強する事なく毎度のようにいただいていた。ある意味、便利な特殊能力であったかもしれない。しかし真面目に勉強しても発動してしまうという非常に残念な特殊能力でもあった。
ところが、名ばかりの共学であるこの工業高校にきてから、特殊能力は鳴りをひそめてクラス、それどころか学年でもトップクラスの成績を収めて続けている、ある意味優等生となっていた。
(……専門科目だけですが……)
普通科目は……レベルの低いこの学校ですら相変わらずど真ん中の成績であった。
中三時代を真面目に過ごしていたら、一、二ランク上の普通科の高校に行っていたかもしれない。そうなるとかなり危ない成績だったと思う。
ある意味、荒れていた中三時代に感謝です。
「さて、昼飯だぜ」
飯山はそう言うと、半分に減った弁当を取り出し続けて尋ねてきた。
「あれから三ヶ月くらいか。
お前、『真菜ちゃん』とはうまくいってるのか?」
「もちろんだよ」
「今までのお前だと、ぼちぼち悪い癖が出てきそうで少し気になっていたんだ」
中学に入学して直ぐに僕は、とある女子に一目惚れをした。
そしてなかなか思いを告げる事が出来ないまま二年間が過ぎ、そして三年になってクラスが別れたのをきっかけに思いを告げた。
「何言ってるの今更、馬鹿じゃない、私があんたに気がない事、知っているじゃない」
二年もの間、気持ちを隠せる程器用な人間ではない。当然僕の気持ちを知っていた彼女の返事に半ばヤケになって、こんな風に考えるようになっていった。
(思いは暖めるもんじゃない。とりあえず、付き合い出してから作り出せばいい。
そして、思いが生まれなければ、相手を変えてしまえばいい)
受験勉強で忙しい中学三年生にも関わらず、そんな事はそっちのけで、この考えを実行するかのごとく、その後の僕は何人もの女子に声をかてまわった。
しかし例え付き合う事が出来たとしても、長くて三ヶ月、早ければ一ヶ月経たないうちに、思いを生み出せない僕自身に苛ついて、別の女子に声をかける嫌な奴となっていった。
そして僕のこんな考え方を知っている飯山は心配して、こんな話をしてきたのだろう。
「気を使わせて悪いな。
でも真菜は僕自身大切にしたいから、大丈夫だよ。
それに、こっちがおかしくなったらその反動でお前たちもおかしくなっちゃう可能性があるだろう」
飯山は僕と真菜の間を取り持ってくれたから、こっちの都合で変に迷惑をかけるわけにはいかない。
「おうよ、それが一番心配なんだよ」
「それより飯山、お前たちの方こそどうなんだ?」
「俺たちは、そりゃもうラブラブで青春街道まっしぐらだぜ」
さっきまで心配顔だった飯山の顔がだらしなく揺るんでそう答える。
「おーい、戻ってこーい。アーンド死後連発禁止だぞ。
まっ、とりあえずはごちそうさん。いい顔してるぜ」
「あっ、ちょっと便所行ってくる」
照れ顔を見られた飯山は、ばつが悪くなったのか席を立って教室から出て行った。
話を中途半端に振られて、一人になった僕は真菜との出会いを思い返した。
読み進めていただき、ありがとうございます。