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それでも戻るよ

(今はもっと冷静になって考える時間がほしい……)


 この深刻な事態に対して、少しでも落ち着いて、冷静に考えるための情報と時間を稼ぐため、気になっていたことを続けて尋ねた。


「それと、ほら、なんというか……あれだ……

 過去に戻って自分の都合に合わせていろいろとやり直すと、未来、つまり今が変わっちゃうっていうか……ほらそんな話の映画とかよくあるじゃないか」

『主様の言いたいことはよくわかります。

 過去から今まで紡がれた時の流れは、幾度となく訪れた『選択の決断』で選んだ結果であり、ここまでの時の道筋は一本道ではなかったということです。

 どこか一つでも『選択の決断』で選んだ答えが変わっていれば全く違う道筋を通っていたこととなったでしょう』

「と、いうことは、やっぱり今が変わっちゃうんだ」

『そういうことになります。

 ただし、別の『選択の決断』を選んだ結果として、今が良くなるのか、悪くなるのか、私にはわかりません』

「って、なんだか勝手だな」

『申し訳ありません。

 でも、私は元の居場所に戻りたい、ただそれだけなんです』


 ちょっとだけこのやり取りに不満を覚えたが、改めて事の重大さがわかった。

「夢なら良かったんだが……」


 しばらく黙って考え込んでいると、せかされるように話が伝わってきた。


『主様、事の重大さに悩んでいると思いますが、こうしている間にも存在するための力を使っている私に許された時間は限りがあります』

「って、どれくらい残っているの?」

『はっきりとお答えすることはできませんが、あと数分、長くても十分程度かと思います』

 残された時間は、本当にわずかなようだ。ただ、こうして考えていても時間だけを使い、答えを出せないでいる僕の背中を押すように声は続けて語りだした。


『最後に少しだけお話をしておきます。

 時間を巻き戻した時から次に私が話かけるまでの間、つまり『その時』を迎えるまでの間、記憶を封印させていただきます。

 これは過去を全て知っている主様が、『その時』以前に違う道筋を選択してしまい、もしかすると私が存在できなくなってしまう事態をなくすためです。

 そして、『その時』を迎えてどのような『選択の決断』を行った後でも、主様の存在は全て消え去り、新たな存在として時を紡ぐ事となります』

「えっ、記憶を封印されて『その時』まで過ごすのは良しとしても、その……最後は消えちゃうの?」

『残念ながら、『はい』と答えるしかありません。

 時の流れというのは水の流れに似ています。上流に戻って堰を閉じて流れを再び止めたとしても、一度流れ出した本流はすぐには止まらず、わずかばかりの細い流れとなって残ります。しかし供給の止まった流れは、やがては枯れて消滅します。

 つまりそれと同じ事が時の流れでも起きて、しばらく残ってる今の主様という存在も、やがては今へと続く時の流れと共に消えてゆきます。

 例え、『その時』に今と同じ『選択の決断』を行ったとしても、新たな主様となって時を紡ぐ事となります。』

「……」

 今の存在が消えてしまうという事を突きつけられて、僕は返す言葉が全く見つからなくなってしまった。


『主様、私が今ここにいるのは、あの時主様が心に思った、いや、誓った事をお手伝いしたいからでもあります』


 声のこの言葉が迷っていた僕の背中を力強く押した。


(あっ、あの時の……漠然と心に浮かんだ思いはこの事だったのか)


「わかった、巻き戻してもらうよ」

『その決断は、先ほどお話した通り『今ある全て』が完全に消え去るということになります。

 本当にそれでよろしいのですか?』

「それが、僕自身の心に描いていた願望でもあり、そしてお前の望みでもあるんだろう?」

『もう一度だけ確認します。全てを消し去っても戻りますか?』

「かまわない、それでも戻るよ」

『わかりました。そして、感謝します。

 今一度、私の存在、恋愛という感情を思い出して頂くため、『その時』が訪れる一年前まで戻ります。

 その募る思いが、主様の時を巻き戻したために空っぽになっている私を満たして、『その時』に主様を呼び起こす力となります。

 それでは、しばらく時の旅を楽しんでください』


 声がそう告げて、この不思議なやり取りに終止符を打った直後、僕はまばゆいばかりの白光に包まれた。

 どこに向かっていくのか方向が全くわからない白光の中、ゆらゆらと流れに任せて漂い続ける。

 突然、僕を包んでいた白光が一点に向けて収縮を始めた。そして「何も見えない、何も聞こえない」完全な闇と静寂の世界が訪れた。

 どれくらい時間が経ったのだろうか、僕には時間を知るすべがない。何日もこの不思議な空間を漂っているような気がした。いや、それはほんの一瞬の出来事だったのかもしれない。

 突如、何も無かった空間に現れた白光の小さな点から、光の粒が放射状に吹き出し僕の周りに飛び始めた。

 最初は白い光の粒だったのが、この闇の空間を着色するかのごとく、徐々に七色の色彩を帯びていく。

 やがて粒はつながり七色の線となり、縦横交差したその七色の線は、織物が織られるように面へと変化し、そして織り上がった面は組み合わされ現実感のある形に変化し、幻想的な世界の終わりを告げる。


 目を開けて周りを見渡すと見慣れた教室の中にいた。

「あっ、本当にタイムスリップして戻ってきたんだ」

 この言葉を最後に僕の記憶は封印された。

 そして感情の欠片を取り戻すための高校生活が始まった。

読み進めていただき、ありがとうございます。

この話で一区切りつきました。

次回からは高校生に戻った主人公の話となります。

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