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愛とは水のようなもの

作者: まにくま
掲載日:2026/10/03

 絵本のお話の時間、先生代わりのお姉さんはいつものように、僕たちにお話を聞かせてくれた。

 僕は、この優しい先生のお話が好きだ。


「愛とは流れる水のようなもの、というお話をしましょう」


 ワクワクした目で、僕は体育座りで行儀よく話を聞いた。


「水。

 水は触れられます。

 水は手に入れられます。


 しかし水は掴めません」


「当たり前と思いましたか? どういうことか?」


「このように。流れる水には触れられて、その温度を感じることができます。ほら、ちょっと冷たいですが、そこには確かに温度があります」

「また、このように手のひらで器を作って、水をそっと手に入れることもできます。ほら、手のひらの中で水がゆらゆら揺れています」

「しかし、乱暴に水を掴んで無理やり手に入れようとしても、水は手をすり抜けてしまいます。そして、水は暴れて服にかかって濡れてしまいます」


「水は凍る。

 水は器で形を変える。

 しかし、どれも水です」


「当たり前と思いましたか? どういうことか?」


「凍らせてはどうか? 氷になった水は簡単に手に入れられますが、冷え切った氷は冷たく温もりもありません。カチカチに固まっています」

「器に入れるとどうか? 器に入った水は様々な形に見えます。しかし、どれも水であることに変わりはありません。こうやって戻すと、やっぱり水です」


「愛も同じ、とわたしは思います」


「どういうことか? わたしたちは愛に触れ、温もりを感じることができます。愛はそっと手に入れられます。でも乱暴に掴んで手に入れることは、できないでしょう」

「凍った愛は、愛ではありません。冷たく温もりもなければ、愛とは呼べないでしょう」

「器とは何か? 皆さんが知っての通り、愛の形とは様々です。しかし、どれも愛です。わたしは、どんな愛でもかけがえないものだと信じています」


「どうか、水を分け与えるように、愛は優しいものであってほしいと願います」


 僕は、先生のお話を素敵だな、と思い目を輝かせていた。


「はい! お話はここまでです。さあみなさん、帰り支度を始めましょう」


 話が終わると、僕たちはいそいそと食器を片付け、鞄を手に取り帰ろうとする。


「お姉ちゃん先生ありがとう! ばいばーい!!」

「あら、外は大雨よ? 傘を貸してあげるから使いなさい。ちょっと待ってね」

「おうちが近いから大丈夫! ばいばーい!」

「あっ。……行っちゃったわ」


 大雨の中、僕はさっきの先生の話をママに伝えたいと思い、バチャバチャと走っていた。


「まま、ただいまー!」

「あらあら。この雨で、ずぶ濡れじゃない!」

「あのねー! 先生がね! 愛って水なんだって!!」

「あら。もう、身体中(からだじゅう)がその水でベチャベチャじゃないの。なんだか話がよくわからないわねー。でも、先生のお話が楽しかったのね!ふふ。じゃあ早く、脱いでお風呂に入っちゃいなさい」

「はーい」


 雨も水、お風呂のお湯も水だ。

 しかし、今日の雨は氷のように冷たく、お風呂はとても温かくて気持ちが良かった。

 僕は、幼心(おさなごころ)にこの日のことを、不思議だなと思った。


 冷たい水と、温かい水。

 僕はこの愛の形の違いを、思い出す日が来るのだろうか。


 お風呂のお湯をすくいながら、僕はぼんやり考えていた。

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