表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

選ばなかった方

作者: hito4224
掲載日:2026/03/22

初投稿です。

雰囲気重視の作品になります。

満たされていないわけじゃない。

ただ、少しだけ全部が薄かった。


それでも、問題はなかったはずだった。


仕事も、普通にこなしているし、

人間関係だって悪くない。


困っていることは、特にない。


――それで十分なはずだった。


「それ、足りてない顔してるよ」


不意に言われて、少しだけ笑った。


「そんなことないよ」


反射みたいに返す。


本当に、そう思っていたから。


「じゃあ、その顔なに」


軽く続けられて、言葉が詰まる。


少し考えてから、曖昧に答える。


「……なんか、ちょっと薄いだけ」


「薄い?」


「うん。全部、ちゃんとあるのに、ちょっと遠い感じ」


自分でもうまく説明できていない。


でも、それが一番近かった。


相手は少しだけ考えてから、


「じゃあ、濃くする?」


と軽く言った。


冗談みたいな口調。


思わず笑う。


「なにそれ」


「方法はあるよ」


その一言に、ほんの少しだけ引っかかる。


「怪しくない?」


「怪しいと思うなら、やめればいい」


あっさりした返しだった。


押してくるわけでもない。


「無理にとは言わない」


一瞬だけ間を置いて、


「でも、興味はあるでしょ」


視線が、少しだけ逸れる。


否定できない程度には、ある。


「……まあ」


曖昧に返す。


それくらいの距離感。


深く関わるつもりなんて、なかった。


「試すだけなら、後悔するほどじゃない」


軽く言う。


「やめるのも簡単」


続けて、逃げ道を置く。


「怖い?」


少しだけ笑いながら。


「それとも、楽しみ?」


どっちでもない、と言いかけて。


少しだけ考える。


怖くはない。


でも、何も感じていないわけでもない。


「……ちょっと気になるだけ」


そう言うと、相手は小さく頷いた。


「それで十分」


その言葉が、妙に残る。


――それで十分。


ほんの少しの違和感と、

ほんの少しの興味。


それだけで、人は動く。


「どうする?」


急かされている感じはない。


ただ、選ばされている。


帰ることもできる。


このまま何もなかったことにして、

いつも通りに戻ることも。


たぶん、それが普通だ。


でも。


「……試すだけ、なら」


気づいたら、そう言っていた。


相手は少しだけ笑う。


「そう」


それだけ。


大げさな反応は何もない。


「じゃあ、来て」


立ち上がる。


迷う時間は、まだあったはずなのに。


足は、自然に動いていた。


――このときは、まだ。


戻れなくなるなんて、思っていなかった。



ここまで読んでいただきありがとうございます。

少しずつ更新していきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ