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気練討堕  作者: 葉山 歩
序章
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序章

気練討堕 序章

 一人の男が、とある村の中を歩いている。

 三日目ほどのか細い月は、太陽と共に、とうに西の地平線下に沈んでいる。夜空を賑わせていたきらめく冬の星座達もだいぶ西に傾き、夜空の大部分は、暗く、怪物達のひしめく、春の星座に置き換わっている。

 時間は既に夜。それも一際暗い真夜中であった。

 村に人の気配は無い。しかしそれは時間のせいだけではなかった。

 倒壊した家屋、地面に走る亀裂、そして、血を流し倒れている死体。

 男が行けども行けども、村はそんな有様だった。

 倒壊した家屋からは時折火の手が上がっている。暗い夜に唯一灯ったその灯りが、何も見えない真っ暗闇よりもむしろ、村の中の不気味さを際立たせる。

 周りのほとんどを山に囲まれている村であったが、一部だけは崖となっており、そこからは夜の海が見えていた。天候が良ければ、海からの風が心地よく吹き込み、ともすれば籠りがちな山間の空気を流し、巡らすのだろう。

 しかし今は風も吹いていない。さざ波の音すら聞こえなかった。夜特有の湿った空気は澱んでいて、まだ血の匂いが漂っている。所々から上がっている火の手は、空気中にあちこち舞っている土埃を怪しく照らす。この様子では、村がこうなってから、まださほど時間は経っていない。

 こりゃひどいな……

 そう思いつつも、さして動揺もしていない。男はこんな状況にも慣れているようで、淡々と歩を進めていた。


 すると、どこからか物音が響く。男はそれを聞きつけると歩調を速め、物音の方を伺った。

 そこには、異形の怪物の姿。

 男の表情が険しくなる。

「いたか、堕人(だじん)だ……。それと、あれは……?」

 そしてその怪物と、一人の少年が相対(あいたい)していた。

お読みいただきありがとうございました。

「第一章 黎明」へ続きます。

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