旧友(2)
「で、大学に行ってからはどうしてた?」
「自分で無理にうつを治したばっかりだったから、最初は友達作りが大変だったけど、一緒に留学した人たちと仲良くなって。同じ大学から同じ異国に行き苦楽を共にしたのはいい経験だったよ」
「その友達も思い出も一生の宝物だな」
「卒業した後はそのまま首都圏で就職して、なんとか辞めることなくやってるよ」
「そいつは良かった。さて、そろそろ出るか」
ぼくらは思いのほか長居した甘味処を後にした。
ぼくと拓馬が商店街を歩いていると、部活から帰る男子中学生たちに出くわした。「腹減った」「疲れた」としきりに訴えるのに、何が面白いのか節をつけ奇声を発している。家の生活であった些細なことを大事のように語り、「マジで!?」と驚き、休むことなく次の話題に移る。酒を飲んだ大人よりも異様にテンションが高く、とにかくエネルギッシュだ。彼らが通ると商店街も一瞬だけ活気を帯びた。
「若いっていいなぁ」とぼくは呆れた。
「あいつら育ち盛りだから食うんだよな。うちも子供が大きくなってきて食費が大変だ」
「二人いるんだっけ?」
「上の元気が四年生で、下の美咲がもう一年生だ」
「きみは結婚が早かったんだね」
「お前は考えてないのか?」
「ぼくが? ぼくは一人で生きていくだけで精一杯で、結婚どころか恋愛さえ考えたこともないよ」
「そう思っていても、いざ運命の人と巡り合うと一瞬で恋に落ちて、そこから抜け出せなくなるもんなんだけどな」
ぼくらは商店街を出て駅前に立った。屋根と壁と汚いトイレがあるだけの無人駅で、電車も一時間に二本ぐらいしか来ないから閑散としている。夏の夕方は特に薄暗く、ぼくらの小学校では一時期、トイレから何かが出るという噂が立ったほどだ。
「昨日まで家族旅行に行ってたんだ」
「へぇ、どこに?」
「ハワイランド。なかなか良かったぞ」
拓馬はしばらく旅行について楽しそうに語った。ぼくは聞きながら、今の彼がもうぼくにとって無縁な存在であるという確信を深めていった。