俺は女嫌いなのか?
なぜ、俺はこんなにもフィギュアに惹かれるのだろうか?
この問いに、何度も答えを探したが、結局わからなかった。
ただ、その瞬間だった。ただ彼女を抱えて家へ帰る道中だけで、 俺の胸の奥には言葉にできない喜びが湧いていた。 まるで、長く離れ離れになっていた家族を迎えるような、 そんな温かさ、そんな満たされた感覚だった。
こんな感情は、世間からすれば「変態」と笑われるのかもしれない。 そんな考えがよぎるたびに、自分に問いかけてしまう。「俺は女嫌いなのか?」と。 もし本当にそうなら、どうして女性の姿をしたフィギュアにここまで惹かれているんだ?
たぶん、俺も女性たちも、 同じものを求めているのかもしれない。 永遠に変わらない、純粋な美しさという理想を。
少なくとも、フィギュアは俺の心を言葉で傷つけたりしない。 色褪せることのない美しさで、 黙って、ずっと俺の部屋にいてくれる。
俺にとって、これらの「安い芸術品」は、 もしかしたら十年後、五年後、いや三年後には入れ替わっているかもしれない。 それでも今この瞬間、フィギュアを発明した誰かに心から感謝している。 仕事帰りの疲れた俺を、 こんなにも愛と美で包んでくれるのだから。
実家を出て一人暮らしを始めてから、 ペットも飼えないこの狭いアパートで、 フィギュアは数少ない俺の「心の支え」になった。
でも、そんな「彼女たち」に囲まれながら、 ふと自嘲してしまう── 現実の女性が怖いくせに、 女性の美しさ、体のライン、表情、イメージには、 どうしようもなく惹かれてしまう俺。
これは、男としての哀しさなのか? それとも、本能というやつなのか?
風呂から上がり、髪を乾かし、 クーラーの風が心地よく流れる部屋で、 湿った体をベッドに沈める。 スマホからはお気に入りの音楽が流れ、 机の上には笑顔のフィギュアたち。 新しく迎えた子も、丁寧に拭きあげられ、 完璧なポジションに並べられている。
この空間、この時間、 すべてを見渡し、感じながら、 俺は最高に心地いい「無」の境地へと落ちていく。
ふと頭に浮かぶ── もし人生がこの瞬間で止まってくれたら、どれだけ幸せだろう。 この最高の瞬間で、そっと死ねたなら、 それは決して派手じゃないけど、最高のエンディングかもしれない。
……でも、そうしたら。 あの待ち望んでいた新作が、もう見れなくなる。 あのまだ味わってない美味しいものも、 あの一度も足を踏み入れてない絶景も、 全部、消えてしまうんだ。
──じゃあ、もう少しだけ頑張るか。 限界が来るまでは。
そんなことを考えながら、 俺は眠気に包まれていく。
夢が流れ込んでくる──
遊ぶことしか考えてなかったあの頃の俺、
黙々とノートを取っていた学生時代の俺、
告白に戸惑って逃げたあの瞬間の俺、
女子の一言で壊れそうになった俺、
テスト前夜に泣きたくなった俺、
そして、働くだけで命が削れていった社会人の俺——
なんで夢の中でも、 この世界は俺を休ませてくれないんだよ。
夢の中で泣いて、 現実でも涙が止まらない。
その時だった。
優しい手が、俺の魂をそっと撫でた。
あの新しく買ったフィギュアが、夢の中に現れて、
「全部、大丈夫だよ」
──そう囁いた。
そして、 眩しくて純白の光が降り注いだ。
俺の身体を、 俺の意識を、 俺の魂を──
すべて、包み込んだ。