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鬼のすみか

「なんてこった……騙された……」


 頭を抱えて唸る俺へと、ウィニーが憐れむような視線を向ける。


「魔族の女に2回も騙されるとは。旦那様、ほとほと運がないのう」


「うう……うるさいやい……」


 なんかもう恥ずかしくなってきた……俺の女運どうなってるの? 元の世界より酷くなってない?


 俺は恥ずかしさを誤魔化すように、鉄格子を2、3回ガンガンと叩いてみた。びくともしないが、ウィニー剣なら斬れそうだ。


「っていうか、こんなとこに閉じ込めてコユキは何をするつもりなんだ? さっき生贄とか言ってたような――」


 その瞬間だった、どこからか咆哮が響き渡り、洞窟内に反響してビリビリと空気を震わせた。


「旦那様! 上じゃ!」


 ウィニーが咄嗟に俺の体を掴んで引っ張る。ほとんど同時に、俺の立っていた場所へと何か巨大なものが落ちてきて、轟音と共に土煙を巻き上げた。


「――なんだぁ!? 男も一緒じゃねぇか!」


 土煙の向こうから、しわがれた声音が響く。やがて土煙が晴れたとき、そこに立っている生物が明らかになった。


 俺の三倍はある赤黒い巨体。額に生えたツノ。手には大木のような棍が握られている。


(オーガ)、か」


 ウィニーが静かに言った。ウィニーがオーガと呼んだその化け物は、口から熱く腐敗臭のする息を吐きながら顔を俺たちに近づける。


「俺は男に興味はねぇんだよ! 女だ! 若く新鮮な女!」


 オーガが伸ばした手でウィニーへと掴み掛かる。が、ウィニーはそれを軽々と受け止めてみせた。


「あ?」


 オーガが驚いたように目を剥く。


「なんだ、この力。オマエ人間じゃ――」


 そのとき、オーガが何かに気付いたようにぴたりと動きを止めた。鼻をヒクヒクと動かし、やがて洞窟の天井へ向けて絶叫した。


「――あのクソ狐ぇ! 人外を連れてきやがった! 竜の肉なんざ食えるかァァァァ!」


 ビリビリビリ、と再び空気が振動する。俺は思わず手で両耳を塞いだ。鼓膜がはち切れそうだ。


 オーガはひとしきり吠え、落ち着きを取り戻したのか、面倒くさそうに鉄格子を押し上げ出口を開いた。


「さっさとここから失せろ。俺様はグルメなんだ。若い人間の女しか食う気はねぇ」


「……え? 逃がしてくれるのか?」


 てっきり戦闘になると思っていたので拍子抜けした。


「ふむ、どうにも話が見えてこんの。貴様、ここで何をしておるのじゃ?」


 ウィニーがオーガに尋ねると、オーガは面倒くさそうに口を開いた。


「俺様は月に一度、近隣の村から生贄として若い女をここに差し出させてるんだ。オマエらが今月の生贄かと思ったんだが、どうやら違ったらしい」


 オーガは不満そうに鼻を鳴らす。ウィニーが口元に手を当てて頷いた。


「なるほど。あの化け狐、ワシをその『今月の生贄』とやらとして貴様に差し出すつもりだったということか」


 コユキはウィニーが竜であるということは知らなかったはずだ。若い人間の娘だと勘違いしたのだろう。


「でも、なんで魔族のコユキが人間の村を助けるようなマネをしたんだろう?」


「おい、もういいだろ。さっさとここから失せろ。次会ったときは殺す」


 オーガが低く唸るように告げる。それに対し、ウィニーは尖った犬歯を剥き出しにして笑った。


「ほう、小童(こわっぱ)が言うではないか。今ここでワシが喰い殺してやろうか?」


 ぎろりと睨みあう二人、俺は慌ててウィニーの手を取ると、オーガの前から引き剥がすようにして走り始めた。余計な争い事はごめんだ。


「じゃ、じゃー俺たちはそろそろ行くとするかな! うん!」


 俺たちはオーガに背を向け、洞窟を後にするのだった。



 * * *



「旦那様、これからどうするのじゃ?」


 洞窟から出たところで、ウィニーが俺に尋ねてくる。早いところサージアに戻って依頼達成の報告をしたいところだが――。


「……ウィニー、コユキの後を追えないか? ちょっと気になることがあって」


 俺はウィニーにそんなことを尋ねた。魔族であるコユキが人間の村を庇うような真似をしている理由がどうしても気になったのだ。


「できんことはないぞ。あの化け狐の匂いはさっき覚えたからのう。それを追っていけば辿り着けるはずじゃ」


「よし、頼むよ」


 返事が返ってこなかったのでウィニーを見ると、ぷくっと両頬を膨らませて俺の方を見ていた。なんだろう、カエルの真似かな。


「……旦那様、あの化け狐の小娘に随分とご執心じゃのう……」


「……なんだよ」


 べっつにー? とウィニーはなんだかご機嫌ナナメな様子だ。


 ……もしかして、嫉妬してるのか?


「いや、だって、なんかほっとけない感じじゃん」


「ふーん、そうかのう? もしかして旦那様、あの小娘に惚れたのか?」


「バカ言うなよ」


 ため息と共に返すと、ウィニーはジロリと俺を睨みつけた。


「じゃあ旦那様、もしあの小娘が『契約したい』って言ってきたらどうするつもりなんじゃ?」


「えっ」


 そうか、考えたこともなかったけど、契約は複数の女性と結べるんだった。城にいたときに召喚士が説明してたっけ。


「うーん、それはいいかな。俺の契約者はウィニーだけで十分だよ」


「……!」


 俺の言葉に、ウィニーがキラキラと目を輝かせた。


「旦那様! もう1回! もう1回言って欲しいのじゃ!」


「あーもう! いいからさっさと行くぞ!」


 その後しばらく、「もう1回!」とせがむウィニーに付き合いながら、山を降りたのであった。

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