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皆さんには男女で二人一組を作ってもらいます

 ――まったく、これはとんだトラブルだ。


「どこ……ここ……?」


 クラスメイトの一人が呟く。俺たちが立っていたのは、石造りの大広間のような場所だった。


 朝のホームルームの開始を告げるチャイムと同時に、教室に魔法陣のようなものが出現した。かと思うと、次の瞬間には俺を含めたクラスメイト31人は見知らぬ異世界へと召喚されていたのだった。


 そこから先はお決まりの展開であった。この中世ヨーロッパ風の異世界には『魔族』という種族がおり、その長である魔王が攻めて来るので、異世界より呼び出した俺たちにどうにかして欲しい、と。テンプレ展開ここに極まれりだ。


 ただ、そこからか先の話は少しばかり興味深いものだった。


「では、今から皆さんには男女で二人一組を作ってもらいます」


 俺たちをこの世界に呼び出したという、召喚士を名乗る女性は唐突にそう言ったのだ。


「二人一組? なんでそんなことしなきゃならねーんだ?」


 クラスメイトの一人が召喚士に尋ねる。


「この世界では、女性は武器へと変身することができるのです。そしてパートナーとなる男性と『契約』することで、より強い力を発揮することができます」


「武器に変身……?」


 クラスメイトたちに動揺が走る。


「みなさん、落ち着いてください。大丈夫。私が試してみます」


 そう言ってクラスメイトの動揺を鎮めたのはクラス長である露木だ。黒いロングヘアーが彼女の凛とした雰囲気によく似合う美人。


「武器に変身とは、どうすればよいのですか?」


「簡単ですよ。心の中で念じるだけです」


 露木は頷くと、意識を集中するように目を閉じた。


「心の中で念じる……」


 次の瞬間、露木の体が光に包まれた。青白い輝きは徐々に収束してゆき、やがて完全に収まったとき、そこには露木の姿はなく、代わりに一本の槍が浮かんでいた。


 青い宝石で飾り付けられた三叉の槍だった。その無駄のないすらりとした美しい見た目は、どこか露木らしさを感じさせる。


「ささ、そこのあなた。槍を手に取って『契約』と言ってみてください」


「え、え、おれ?」


 召喚士に促され、たまたま近くにいたクラスメイトの江原が露木――もとい槍に近づいてその柄を握りしめた。


「えっと、『契約』?」


 しん、と大広間は静まり返る。特に何か変わった様子はないが……。


「はい。契約完了です。どうぞ、軽く振ってみては?」


「? じゃあ、軽く――」


 ――ズバン!


 江原が槍を振り下ろすと同時に、すさまじい轟音が大広間に轟いた。同時に石畳の床には深い亀裂が走っていた。


「な、なんて威力だ……!」


「うん。ちゃんと力を引き出せていますね」


 江原が唖然と呟き、召喚士は満足げに頷いた。ちなみに、江原が槍から手を離すと槍は再び露木の姿へと戻った。露木曰く、武器の状態でも意識はあるそうで、特に痛みなどは感じなかったそうだ。


「さて、これで男女のペアを作る重要性がわかったでしょう。ちなみにですが、極力仲の良い相手を選ぶようにしてください。お互いの好意が高いほど、より強大な力を引き出すことができますから」


 なるほど。互いの好感度が力に直結するということか。


「津田くん、私と組もっ!」


「山倉、俺と組むよな!?」


 そこかしこでペアが出来上がり、契約が交わされてゆく。変化する武器も、剣や槍のようなオーソドックスなものを始めとして、弓のような遠距離系武器もあれば、三節棍みたいな変わり種もあった。


 とは言え、一つ問題がある。このクラスは男子16人、女子15人の計31人。男女のペアを作ったら必然一人余る。つまり……。


「……やっぱりこうなる?」


 体育の時間よろしく、俺は一人ポツンと取り残されてしまった。


 まぁ、正直わかっていたことだ。俺はクラスに友達もいなければ、休み時間も一人で過ごしていることが多い。一人でいるのが気楽で好きだから、というのが理由だが、まさかこんな場面で不利に働くとは思わなかったな。うん。


「おや? 一人余ってしまったようですね」


 召喚士が言う。同時にクラスメイトから、どこか嘲笑するような視線を感じた。まったく、高校生にもなって子供じみたやつらだ。


「で? 俺はどうなる?」


 やはりここはテンプレ通り追放されるとかだろうか。それは少し困るな。


 しかし、召喚士から返ってきたのは意外な言葉だった。


「では、貴方にはエルネと組んでもらいましょう。エルネ!」


 召喚士が名を呼ぶと、一人の女性が背後から現れた。


「お呼びでしょうか」


 それは、金の髪を持つ美しい女性だった。瞳は深い青色で、高貴な雰囲気を纏いながらも、その立ち姿には凛とした気品がある。物静かな雰囲気は、どこかクラス長の露木に近いものを感じた。


「彼女はエルネ。この城に仕える騎士の一人です。貴方、名前は?」


「青谷。青谷景一」


 俺が答えると、エルネはスッと手を差し出してきた。


「ケーイチ様、よろしくお願いします。では早速『契約』を」


 俺はその手を取って「契約」と呟く。するとエルネは一本の剣へと姿を変えた。


 金色の輝きを放つ、美しい細身の剣だった。その美しい外見に、おお……! と響めきの声がクラスメイトから上がる。


 ……あれ? むしろこれ、アタリじゃね?


 このときの俺は、呑気にもそんなことを考えていたのであった。

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